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ゆかりなさんと。  作者: 遥風 かずら
第一章:ゆかりなさん
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6.妄想と夢とリアルな何か


 あの甘くて柔らかな感触は一体何だったのだろうか。口を閉ざしたままだった俺に、何かをくっつけてきたのは間違いなくゆかりなさんだった。妹に呼び出され、学食に行ってみればそこには俺の目を塞いだ悪の女子が……もとい、悪に手を貸してしまった、女子友のまりかさんがいたはずだったのだ。


「むぐぐ……ゼーハーゼーハー」


 わざとらしさ全開で息を吸ったり吐いたりを繰り返すと、視界は徐々に明らかとなり、目の前にはゆかりなさんの姿があった。何故か俺を見る目がおかしい。


 いつもは獲物を狙うかのような恐ろしさがあるというのに何かがおかしい。


「返してもらったからね? あのパンの味を……」


「パン? ああぁ、あの忌まわしきブラック工房のことですね? 返してもらった? はて……」


「分かってないならいいけど。でもこれで高久くんとは離れられない運命になっちゃうのかな?」


「はてさて? わたくし、ゆかりなさんのおっしゃってることが理解出来ないんでございますが……それはどういう意味なので?」


「それよりもさ、いいかげん気付いて? そして打開してくれると好きになってあげるかもだよ?」


「はい? 気付いて……って、うおおおおい!? な、なんすか、このギャラリーの数は!」


 目を塞がれ、口も何かで塞がれた時、何やら騒がしいなと思ってはいたのだが、先輩を含んだ大勢の男子からは睨まれ、今まで眼中にされていなかった同じクラスの女子たちが身を乗り出してまでじりじりと俺に近付こうとしているじゃないですか! 


 これは何かのホラー映画……いや、ホラーな体験タイム?


「えーと、えーと……ゆ、ゆかりなさん! 俺の手を掴んでくれ!」


「却下」


「黙って、掴め! ゆかりな! ……さん」


「うん、いいよ」


 ゆかりなさんをこの場から脱出させるため、俺は妹の手を強引に掴んだ。そして俺は学食限定で時の人となった。

 

「高久くん、わたしと付き合う?」


「いや、何か急にそんなこと言われてますけど、その前に俺はゆかりなさんの兄なんですよ?」


「考える時間をあげるね。もうすぐ昼休み終わるし、チャイムがなったらこの話は無しってことで」


 くっ……付き合いたい。恋人になりたい。好きなんだぜ? 妹のことが好きなんですよ?


「一体何が起こった!? これは夢? それとも俺の妄想がリアルになった? ゆかりなさん。俺の目を塞いでくれ、くださいませんか?」


「ん? どうしてかな? あ、夢だと思ってるんだね。いいよ」


「さぁ、来い!」


 頑張って背伸びをしながら、俺の目の辺りに腕を伸ばし手で塞ぐゆかりなさん。彼女の手はとても小さく、温かかった。体温を間近に感じられているということはリアルで間違いなさそうだ。ならば――


 ふ、ふふふ……これはリアルな妄想なんだ。俺の理想の世界が今、まさに目の前で起こっているんだ。ヘタレな俺はそう思うことにした。つまり、この妄想世界では、普段は立場が上のゆかりなさんよりも上に立てるということなのだ! 


 俺のシミュレーションはこうだ。俺の目は今、ゆかりなさんの小さな手に塞いでもらっている。それを手で払い、振り向きざまに昔流行った壁にどかんと妹を抑えつけ、唇を奪ってしまうのだ! はははー! これで勝つる! そしてさん付けをやめさせて、翌日からはお兄ちゃんと呼ばせてやるぜ! 


「……ふ、ふふふふふふ」


「うわ、きも」


「おっと、失礼した、我が妹ゆかりなさんよ! もうすぐチャイムが鳴ってしまう。だから俺は!」


「んっ?」


「って、おや? あのー……俺の目を塞いでいた手はどちらへ?」


「高久くんより背が低いわたしにこれ以上、背伸びをしろと? それって妹いじめだよね? ねえ?」


「ひっ――」


 こ、これは予想出来んかった。だがしかし、壁はそこに見えているんだ! やるしかないだろう。伝説の壁ドンを! 俺はゆかりなさんを見下ろす姿勢のままで、勢いよく両手を壁に打ち付けた。


「は? な、何? 気でも狂って来た?」


「い、いえ、あの……これは壁ですよね?」


「壁だけど、そこの壁って学長の部屋って知ってた?」


「がっ!? 学長? ま、まさか、そんな……じゃあ、俺はどうなるんだ」


 両手は痛いし、心も痛くなってきた。何がしたかったんだ俺は。


「ほら、高久くん。先生が手招きしてるよ? ふふっ、いってらっしゃい」


「そ、そんなぁぁぁぁ。ゆかりなさん助けてぇぇぇぇぇ!」


「高久くん。現実は簡単にいってくれないものなんだよ? ほら、行って来て」


「はい……それでは、ゆかりなさん。ごきげんよう」


 何でだーー! 俺の妄想を返してくれ。妄想じゃあんなことやこんなことをやる予定だったのに。


「高久君。お兄ちゃん……わたしのキスはいい思い出になったかな? あなたがもっといい男の子になってくれたら、わたしから……それまで、現実を見ながら成長してよね、高久くん」

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