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ゆかりなさんと。  作者: 遥風 かずら
第四章:パン野郎
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54.ゆかりなさんの真の姿


 俺の凶器的な汗を何だかんだでこまめに拭いてくれたゆかりなさん。そのおかげで、俺の顔は汗を流すことも無くなり、クラスの女子たちがタオルを手にして来ても借りることは無かった。

 いいのか悪いのかと言えば、もちろんいいことだろう。それほどまでに俺の汗は凶器だったに違いないのだ。


「高久、お前……残念な奴だな。そこがお前らしいっちゃらしいけどな」

「ん? 俺はいつも残念デスヨ」


 俺をリスペクトし始めていた男連中は、一転して哀れみの目で生温かく見守ることにしたようだ。何だか腹立たしい気がしないでもない。


「高久。次、隣のクラスと対抗リレーだからマジで頼むわ。お前はいいけど、花城のことも応援してやれよな」

「あ、そうか。同じクラスだから、彼女も走るんだったな。でも心配なんてしていない。俺よりも得意のはずだしな」


 そう思っていたのに、何かに気を取られていて集中出来なかったか、ゆかりなさんはバトンミスをしてしまった。このミスでここぞとばかりに一部の女子たちからは、俺との関係を皮肉る様なことを言われたらしい。

 いつもならそんなことを言われても気にすることなく反撃していたはずなのに、何故かもの凄く落ち込んでいた。


「め、珍しいこともあるな。ゆかりなさんが落ち込むとか、一体どうし――」

「何でもない……」


 むむむむむ!? 強気な彼女が弱気とはどうしたことでしょう? やはり得意なリレーでバトンミスをしたのがショックすぎたのか。それとも何かの反抗心でも芽生えたのか? 


「おい高久、ちとこっちに」

「む? 何かね? サトルきゅん」

「ヤメロ! キモイぞ。っつか、お前に花城を守れって言ったよな? 何で放置してんの?」

「ん? 何から守るって?」

「他の女子だ」

「――あ」

「バトンミスっていうより、花城が悲しんでんのはお前が彼女の傍にいないことだぞ? お前やっぱまだ全然だな」


 サトルの方がよく分かってるというのが何とも悔しい。ゆかりなさんをよく見ていたつもりが、体育祭でどうやら俺は他の女子にばかり目が行っていたらしい。実はバトンミスをした所も見ていなかったのだ。


「とにかく早く行け! お前の彼女だろうが」


 そして再び、落ち込むゆかりなさんの前で俺はいつになく緊張している。もしやまた泣いているのか?


「……はぁ」


 これはそうか、俺がゆかりなさんを構ってなかったから寂しかったんだな、と推測してみた。俺は彼女のまんまるとした可愛い頭に、ポンと手を置きつつ肩を抱いて言葉をかけた。


「ゆかりな。お前、頑張ったし気にすんなよ。他の奴が見てなくても俺だけは見てるから」

「……ありがと」


 おぉ、正解? 俺らしくないキザッたらしいことを言った気がしないでもないが、たまには真面目に言ってみた。彼女はそれ以上は何も言わずに、ただ黙って俺に頭と肩を撫でられていた。

 言葉が要らない時も必要なんだなと、俺は学習した。


 体育祭があっさりと幕を閉じた。クラスにおける俺への評価が、男子と女子とで明暗を分けた祭りでもあったのだが、肝心のゆかりなさんはバトンミスをしたことで、俺から慰めを受けた。それからというもの、体育祭が終わってから彼女はすっかりとしおらしくなってしまったのだ。


「ど、どうした?」

「んん……特には何も」

「いつものあの、Sッ気な発言はどこへ行かれたのです?」

「さぁ……」


 こ、これはとうとうゆかりなさんが覚醒したというのか? こんな大人しくて可愛い……いや、いつも可愛いけど。何か刺激が足りない気がするが、もちろんMではありません。


「ふ~~ん? 花城ちゃんって元はあんな感じだったんじゃないの?」

「なにっ!? そ、そうなのか? 何故に茜が知っているのだ?」

「だって、花城グループの本物のお嬢様じゃん? 高久に見せてた姿って、いつからなのか知らないけどさ。それか、舐められたくないから強く見せてたかもだし。知らないけど」

「むむ……そ、そうなのか」

「てか、次のバイト来るでしょ? エントリー通ったし。高久もエントリーしといてね」

「あ、あぁ」


 あのしおらしさが本当のゆかりなさん? うーん。違うと思うけどな。単に俺に慰められたのがショック過ぎて、自分探しをしている最中なのかもしれない。意味はもちろん全然本来と異なる。


「あのさ、ゆかりな――」

「ごめん、わたし先に帰るね。高久くんは友達と話しててもいいよ。じゃあ、バイバイ」

「バ、バイバイ……」


 ナ、ナニがあったの? あんなに素っ気なくして一人で帰っちゃうなんて悲しいぞ。泣きたくなったぞ。


「高久、久しぶりに新作パンを食べ歩きしようぜ?」

「サトルきゅん……泣いていいかな?」

「あ? やめろ! って、マジで泣くなって! どうしたよ?」

「ゆかりなさんが~あうあうあうあう」

「あー……そか」


 俺があれこれ話さなくてもサトルは全てを掌握……ではなく、把握していたようだ。そんなサトルにすがるような目で訴えていたせいか、周りの奴等はとうとう完全に愛想を尽かされたとヒソヒソ話を開始していた。


「と、とりあえずコンビニに行くぞ! 付いて来い、高久」

「付いて行きますとも!」


 大したことは無かったが、教室にはいられなかったのでコンビニに移動した。


「んで、お前らの関係ってどんなん?」

「サトルは一部だけ聞いてると思うが、体育祭終わったら兄妹って関係はとりあえず、終える」

「でもお前らが卒業したらマジになるんだろ? それじゃダメなの?」

「嫌だ。俺は本気で惚れてる。だから、本当に兄妹になったら駄目だ」

「お前、マジっぽいな。ぼっち時代とはまるで別人のようだ。俺なんかじゃ敵わねえな。それはともかく、だったら奪えばよくね?」

「そのつもりだ」

「お! そうか、ならいんじゃね? 頭良いならその辺は考えられんだろ。俺は邪魔はしないけど応援はするよ。それに、すでにフラれてるしな」

「ふぁ!? お、おま……告ってた!? い、いつ」

「……前にな」

「あ、あらまぁ……頑張れ?」

「お前に言われたくねー! とにかく、そういうわけだからパン食ったら真っ先に帰れ!」


 意外や意外だ。サトルめ! 怪しい雰囲気作りだしていると思ってたけど、告白してた! それならやはり、俺がしっかりとあの子を守るしかない。

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