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ゆかりなさんと。  作者: 遥風 かずら
第四章:パン野郎
49/68

49.見せるだけですか、そうですか。

「えーと……ですね、ゆかりなさん。俺と約束を……いや、誓約してくれないか?」

「届出書なら机の上に置いてあるから、後は高久くんのサインだけだけど?」

「いやいやいやいや、それはあの……まだムリでございます」

「書くだけなら簡単だし。出さなくてもいいじゃん? 何で書いてくれないの」


 彼女の言う届出書はもちろん、婚姻届のことである。いや、気持ちは分かります。分かるけど俺の中ではそれはどうなんだい? といった混沌とした渦が巻いたままなのである。


「それは俺の気持ちの問題だから、いずれ……ってことでごめん」

「……で? 誓約って何? わたしのソレと違うの?」

「違うのでございますよ」


 俺は俺自身に誓いを立てることにした。なんせ、泣いても笑わなくても彼女とこうして、兄妹ごっこ兼カレカノ関係を続けられるのは後一年だからだ。卒業と同時に本当の兄妹になる……つまり、どんなに好き同士でも結婚も出来なければ、キスなんてもってのほかなのだ。


「ゆかりな……さん。お前の気持ちが聞きたい! 俺とマジなの? 兄妹も恋人も、それも含めて好――」

「好きだけど悪い?」

「悪くないデス……」

「運命は会った時から感じてたし、それでいいじゃん」

「いや、でも……」

「全っ然、駄目すぎる! わたしにあんなコトしといて、断言とか出来ないとかそれって、そこまで本気じゃないからでしょ? キミもその辺の男子と同じなんだ。キスして抱きしめて、自分だけ満足して……だけど、勝手に余裕無くしてんじゃん? 彼女作ることも出来ない奴がわたしだけ束縛るとか、それっておかしいし!」

「い、いやまぁ……その通り」

「高久くん。キミの全てをわたしにさらけ出してよ! あと1年か何かそんなの知るかよ! もうすぐの体育祭もそうだけど、イベントまだあるじゃん。わたしに高久くんをさらけ出せよ!」


 うおぉう!? さらけ出す……それって、まさに芝居のアドリブのを遂行しろとおっしゃっている。あの時の俺のアドリブは「俺の全てをキミに任せたい」だったはず。まさに真夏のホラーのごとく、俺はゆかりなさんに全てをさらけ出していくことを望まなければならない。


「わたしも出すから! だから、やれよ!」

「ゆ、ゆかりなさんもさらけ出してくれるので?」

「夏が終わる前に、高久くんと泳ぎに行きたいし……だ、だから、察しろよマジで!」


 あーはいはい、夢と幻と妄想の世界へようこそですね、分かります。彼女がこれまでに期待させた俺への言葉の誘導はまさに妄想パラダイスだった。屋内プールへ行き俺だけが泳ぐ。水着を買いに行き俺だけが買う。

 水は好き? ええ、水族館は最高でした。ふっ、所詮は夢幻のごとく。


「はいはい、分かっておりますよ」

「は? 見たくないわけ? わ、わたしの……」

「ミタイナーミタイデスヨ」


 うんうん、今回は何かな? 


「そ、そういうわけだから、わたしを見るなよ?」

「はぁ……いや、見ないと見られないわけでして」

「うるさい! と、とにかく、わたしは一度パパのとこに戻る! どうせ早退ってか、さぼりってばれてるだろうしそのまま行くから。だから、ここで待ってろ!」

「ハイ! 待ちます。期待しないで待ってますよ」

「い、今に見てろよ!」


 この言葉もどうせただの言葉に過ぎない。俺はとにかく期待しない! そう思っていた。そうして彼女が俺の家に戻って来た時、何かのバッグを手にしていたのを少しだけ気にしていた。


 そして学校からそこそこ離れたとある施設内の、リゾート系の流れまくりそうな水の場所へとたどり着いた。どうせ俺だけが犬かきでもするのだろう……そう思って、水着だけは持って来ていたのである。


「ふぉぉぉぉぉぉぉ!? な、なん……だと!? ま、まさか?」

「だから見るなっつってんだろ!」


 見ますよ、そりゃあ! まぁ、思いの外……全身が布だらけだったわけですが。まぁでも、初めて彼女の肌白な肌と、肌白な素足を拝見出来た訳です。これはアレですね、パレオ! いや、いいんだけどね。


「何だよ? 文句でもあるワケ?」

「いえいえ、非常に嬉しきコトにございまして」

「じゃあいいだろ! ってことだから、帰るし!」

「ま、待って!! まだ、あの……見たいです。見足りないです」


 彼女の態度と違って、控え目な色合いの水着は本物の海に行けば同化するかもしれない。それくらいの青々とした鮮やかな色である。彼女に隙間なく密着したことがあるとはいえ、とても控え目でございます。


「……これ、こんなの見せるのは高久だけなんだからな! だから、今のうちに満足しとけよ?」

「もちろんでございます!」


 ショートな黒髪に映える青い花……あぁ、俺ってば詩人になれそうな気がするぞ。


「じゃあ帰る! 高久くんはもちろん、泳ぐんだろ?」

「え? いや、俺だけが泳いで、ゆかりなさんはその姿をキープしないので?」

「見せるだけって言った」

「ははぁ、そうか。ゆかりなさんは実は泳げな――」

「うるさーい! うるさいうるさいうるさい!! 死ね!」

「なんて物騒なお言葉。そ、それならまた次の機会にでも教えるよ、俺が!」

「あ? 運動無能なキミがわたしに教えてくれるとでも? ふざけんなよ、マジで」


 ふふふふ……甘いな。ゆかりなさんはまだ俺が無能な奴だと思っているようだが、俺は凡能者にレベルアップしているのだ。そして、次の夏までには有能者になっている予定である! ふははは!


「いいぜ? その言葉、俺だけが覚えといてやるよ。ゆかりなさんが次にまたソレを着る時には俺が、この俺が教えてやるよ! そしてその時は出来れば、水の中でお姫様抱っこをさせてくださいっ!」

「バカじゃないの? 期待しないけど、頑張れば?」

「有難きお言葉!」

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