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ゆかりなさんと。  作者: 遥風 かずら
第四章:パン野郎
47/68

47.記憶消失料理:改

 まさに胸ドキが止まらない。決して変な事なんて出来ないというのに……今、まさに俺の隣には妹のゆかりなさんが横になっておられる。これの何が感激なことかというと、カレカノ関係で一緒に寝るといったことは今まで無かったからである。


 一度病院送りになった時に横に寝ていたというのがあるが、アレは認めない。


「ねえお兄ちゃん、わたしのことが好きでしょ?」

「当たり前だ!」

「じゃあさ、わたしが妹って時には何でも言うコト聞いてくれる?」


 これはどう考えても嫌な予感しかしない。

 しかしこれは親公認の兄妹生活! 俺の家の中限定かもしれないが、その中でなら俺は喜んで妹さんの望みを叶えてあげよう。


「いいですとも! 何でも聞くさー」

「ホント? ホントにホント?」

「おう! 俺はゆかりなさんの言うことは何でも聞くよ」

「やったね! ふふっ……じゃあ、今日はこのまま一緒に寝てくれるだけでいいけど、次からはわたしの言った通りにしてね?」

「う? う、うん……(一体何をするというのかね?)」

「じゃ、寝よ? 明日も学校だし」

「お、おぉ……おやすみ、ゆかりな」

「違うし! ゆかりなさん!」

「ゆ、ゆかりなさん、オヤスミ」

「ん、おやすみ~お兄ちゃん」


 これはイイ! 俺自身は言い慣れたゆかりなさんと言うだけなのに対して、彼女は俺をお兄ちゃんと呼ぶようになった。あぁ、明日からが楽しみな毎日になるのかと思うと眠れん。


「ねえ、お兄ちゃん……」


 うぉう!? 起きてたよ、この子。


「な、何かな? ってか、寝れないのか?」


「ん、うん。あのね、わたし……将来の為に、色んな料理を作れるようになりたいの。それには食べてもらわないと上達しないんだ。一所懸命作るから、食べてくれる?」

「何だ、そんなことか。いいよ、ゆかりなさんの作る料理はどれも美味しいし、食べるよ」

「言ってなかったんだけど、わたしがきちんと作れる料理には限りがあるんだ……だから、これから新しく覚える料理は味なんて分からないの。わたしのゆってる意味、理解した?」

「なん……だと!? そ、それって、あの……以前みたいに記憶を失わせてくれる効果が?」

「あ? そんな効果ないし。と、とにかく、そういうことだからよろしくね?」

「ハイ……」


 そんなに甘くなかった。お兄ちゃんと呼ばれている今の記憶も、果たして失わずに残るかどうか……だ。


「ねえ、起きて……起きてよぉ」


 ふっふっふ……これはもうお約束のアレです。妹がお兄ちゃんを起こしに来るアレです。しかし今回の場合、すでに俺の隣には妹のゆかりなさんが眠っていたはずなので、すぐ真隣! つまりその声はすぐ間近から聞こえて来る。これは俺限定のイベントなのだ。


 迫りくる料理の恐怖は今は置いといて、まずは妹さんからの甘い吐息を堪能してやろうじゃないか! これはすぐに起きてはならないお約束。


 以前仮の妹になってくれた華乃ちゃんは、何の参考書を見たのか定かではないが、足で思い切り蹴りまくって起こしてくれた。二度とごめんである。


「おーい、お兄ちゃん。起きろー? 起きないと先に行くけど?」


 これもある意味、焦らしプレイですね。さすがゆかりなさん。本家は違う! 俺とゆかりなさんとの兄妹生活は俺にとってもゆかりなさんにとっても、最高の思い出になる! 


 つまりは妹からお兄ちゃんへの起こし方一つとっても、その全てが糧となるのだ。さて、そろそろ鉄拳か、ビンタでも来る頃か。


 無音だ。そして殺気も感じない。これって、放置系? これはまた新たな技を身に付けられた?


「えーと、スミマセン。そろそろ起きますので、叩かないで下さい」

「……」

「あれ? おーい? ゆかりなさん?」


 いい加減目を開けようか。って、いないし!! しかも遅刻の時間をもの凄くオーバーしてるぞ! 嘘だろ!? マジで放置してった! いつからこんな冷たい妹さんになってしまったの?


「すみませんでした……寝坊です」

「珍しいな。高久が寝坊とは……以前よりもたるんでるのか? とにかく気を抜くなよ?」

「ハイ」


 なんてことだ。無遅刻キングだったのに……それもこれも妹さんのせいじゃないか! 訴えてヤル!


「ちょっと、ゆかりなさん! 話がある! 廊下へ来いよ」

「嫌です」

「えっ? い、いやじゃなくて、話があるんだよ! 来いってば!」

「やめてよ、すぐ1限始まるし。席に座ったら?」


 何やら多数の視線が俺に突き刺さっている。何だよ、何のつもりなんだよ。今までのデレはどこへ? そして長めの休み時間になり、彼女は俺を呼びだした。


「カツラギくん。こっちに来てくれる?」


 む? ようやく話す気になったのか? マジで泣きたい。


「高久くん……あのね、わたしたち――」

「――え」

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