46.パパ×ぱぱ×オレ
これは何の真似? どうしてこうなった……唯一の救いは、彼女が俺の隣に座ってくれていることくらい。それにしたってオッサン二人と見合いはキツイ。
遡ること放課後くらい。ゆかりなさんは電話をしていて、俺の方をチラチラと見ながら誰かにうんうんと相槌を打っていた。もちろんその時点での彼女の表情では、何が起こるかなんて探れない。
保健室から出て教室に戻り、その後は何てことの無い一日が終わった。そう思っていたのに、彼女の携帯に誰かから電話が来ていたらしく、俺はそれには触れないようにしてそのまま帰ろうとした。それなのに……。
「高久くん、電話に出てくれるかな?」
「ふぁっ!? え、誰?」
「出たら分かるし、出ろよ」
「はひっ! 出させて頂きます」
彼女の口調がすっかり初期化されたようだ。それはともかく、電話口に出たのはパパさんだった。変な事なんてしてないからびびることはないのだが、やはりびびる。
「ど、どうも」
「高久君、久しぶりだね。ゆかちゃんとは仲良くやってるかな?」
「はぁ、まぁ……」
「うん、それは良かった。ところでね、今夜メシでもどう? 心配しなくてもゆりなはいないよ。場所は高久君の家でどうかな?」
「へ? で、でも大したおもてなしは出来ないですよ?」
「それは問題ない。俺が何か作るよ……ってことで、ゆかちゃんに代わってくれる?」
おいおいおいぃー! パパさんが俺の家に来てご飯作って、食べる……だと!? いよいよ俺の弟子入りを迫る気か? それはまだまだ勘弁してほしいのに。
そのせいか俺は無意識にゆかりなさんを見つめていた。
「ん、オッケー!」
「な、なんでございましょうか?」
「びくびくすんなよ! わたしもいるからさー。高久くんの隣に座ってあげるし、安心だろ?」
「そ、それならまぁ、何とか……」
家に帰ってみれば、俺の本物のパパが待っていた。
「おう、久しぶり! 覚えてたか? 高久」
「そりゃあ、まぁ……どこへ旅立っていたかは聞かないでおくけど、何で?」
「ゆかりなちゃんのパパさんとでお前に聞いておこうかなと」
「へ、へぇ……」
よほど顔に出ていたのかは定かじゃないが、ゆかりなさんが俺の手を握って来ていた。横顔も肌白で綺麗で思わず触れたくなる。
「――(後で、ね?)」
「ハイ」
これはもう保健室からの流れで立場が逆転したかもしれない。
「高久、座れ。ゆかりなちゃんは、隣ね」
それはいいのだが、パパはパパと隣同士でいいのか? 俺だったら嫌だ。
「俺は高久に聞きたくて出て来た、いや、戻って来た。この件に関してはゆりなさんは関係ない」
「ああ、うん。それで?」
「お前、ゆかりなちゃんとどうなりたいんだ? 聞いた話じゃ、卒業と同時に本当の家族になるってことらしいけど、それでいいのか?」
「いや、それは……」
たぶん意味が違うと思われる。俺が言っている家族は、俺とゆかりなだけのことであって、そこに親父とお母さんは入ってない。
「分かってるよ。高久くん」
「え、マジで?」
「マジマジ」
「そ、そっか。そういう予定だから……さ」
「予定ねえ……ふぅーん。まだまだ成長が必要かな」
詳しくは言いたかない。俺の思ってることとゆかりなの思ってることは、多分違うだろう。
「高久君。覚悟を決めたら、俺のとこに一度は話を付けに来てくれるんだろ?」
「はい」
「よし、いい返事だ! それなら俺からは何も言わないし、あいつにも言わないでおくよ」
「あ、ありがとうございます」
「ま、そん時には俺の事もパパと呼んでくれ」
やっぱり呼ばれたいのか。いい人ダナー。
「高久の考えてることが分かったからいいや。俺は何も言わんし、怒らない。最初っから応援してたぞ」
「嘘つけ」
「いやいや、マジだって!」
「チャラいな相変わらず」
親父もパパさんも何だかんだで応援してくれているようだ。そんなこんなで、パパたちとの夕食会はあっさりと終わった。
「あのね、わたしと高久くんってこの家で兄と妹として暮らしてたでしょ? それってママも結構好きな空間だったんだって。だから、わたしが高久くんのいる家にいる時は、兄妹として一緒にいていいって言われたの。それなら間違いも起きないからって。だから、高久くん……この家にいる時間だけでもいいんだけれど、わたしを妹に戻してもらっていい? 高久くんは兄に戻るの」
「それって、恋人関係じゃなくて、兄と妹ってことでだよな? そ、そんなの……」
「駄目……かな?」
「い、イイに決まってるだろうが! 今じゃなんつうか、恋人関係だろ? でも外ではさすがに兄妹とか公表しなかった。それって俺とお前だけの秘密だったわけで、むしろ希望! ゆかりんの兄、俺!」
「うん、それじゃあ……お望みを叶えてあげよっかな」
「ん?」
「お兄ちゃん、今夜一緒に寝たいなぁ。駄目かな?」
「い、いいですとも! 妹のゆかりんは俺が守る!」
「言っとくけど、手は出すなよ? わたし、妹なんだぞ?」
「デスヨネー……」
し、しかし……「お兄ちゃん」あぁ、なんていい響き。華乃ちゃんに言われた時もそうだったが、これは最高だ!
制限付きではあるけど、俺の家限定でも何でもいい。久しぶりの兄妹関係が始まった。




