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ゆかりなさんと。  作者: 遥風 かずら
第四章:パン野郎
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41.中二病センパイと後輩


「高久くんはわたしが嫌いなの?」

「大好きに決まってんだろ! 言わせんなよ」

「じゃあアレは誰なの? すごい近かったし、あんなソデなんか掴ませてデレデレして……」

「デレなどしてないぞ! アレはだな、アレは……そう! 汗を掻いて服がアレだから、その、空気を入れてもらっていたんだよ、うん」

「そ、そうなんだ。高久くんってそういえば頭は良かったんだったね。忘れてた」


 頭は? じゃあそれ以外は良くないということじゃないか。しくしく……ちくしょう、嘘泣きをしてやる!


「ううっ……ゆかりなさんが僕をいじめる……ひどいやひどいや」

「……頭でも沸いた?」


 通じなかった。やはり甘くないみたいだ。いくら俺のことが好きなゆかりなさんでも、俺の嘘泣きには反応をしない。


「しょ、しょうがないなぁ、もう! た、高久くん、わたしに近付いて」

「ハイ」


 近付いたと同時に、ゆかりなさんの胸元……いや、この場合は俺の方が屈まなければならんので、中腰で近付いてみると、やはり上半身に吸い寄せられる形となった。


「よしよし……たかくんはわたしじゃないと駄目ってこと知ってるよ。だけど、他の女子にも優しいって分かってるし。だから怒ってないの。だからその……これで許してね」


 うおおおおおお! こ、これは今まで妄想と夢にだけ存在していた、頭なでなで攻撃! し、しかももう少し顔を上に上げれば、そこにはまだ見ぬ世界が俺を待っている気がする! だが俺には節度がある。


「その……今はこれでごめんね」

「気にするなよ。今はお母さんと買い物の途中なんだろ? もう平気だから、そろそろ……な?」


 もっとなでなでしてくれてていいんですよ? 俺得だし、大歓迎! あぁ、このまま天国へ行けそうだ。


「ゆかりん~? どこにいるの?」

「(ひっ!? や、やばい……名残惜しいが離れないと、別の天国へご招待だ)」

「あっ、じゃあね、たかくん。大好きだよ!」

「お、おー。じゃあ、また」


 そして俺はすぐに身をどこかに隠した。別にお母さんと誓約書で交わしたわけでもない。だが敵に回してしまった以上、その時が来るまでは一応節度は守らねばならない。

 それにしてもゆかりなさん以上に俺自身もなでなでしたかった。やはり彼女に近付いただけで、俺の胸はドキドキしまくりだった。


 ゆかりなさんに恋をしているのが分かった日から数日後、またしても試練が与えられた。


「高久くん……わたし、あなたがよかったの」

「う、うん(何が?)」

「だけど、運命はわたしたちに試練という名のテストを与えてくるの。だから、どうかこんなわたしを許してね」

「お、おぉ……ゆかりなのことは大体許しているよ(だから何が?)」

「どうかわたしを信じて、怒りで我を忘れないでね。じゃあ行くね」

「いつだって信じてるよ(どういうことかな?)」


 朝の登校時、ゆかりなさんは朝から悲しげなことを言い出した。これもいつものことだが、ゆかりなさんは主語を言わずに俺を惑わすのが得意だ。


「うああああああ!」

「えっ? な、なに、高久どうしたの? 欲求不満なら茜にいつでも言いなよ。受け止めてあげる」


 気になって授業に集中出来ない。こんなにもゆかりなさんのことが気になるのは初めてかもしれない。


「おい、高久」

「何だよ、うるさいな!」

「ほぅ……珍しいな。真面目な高久が先生に逆らうとはいい度胸だ! どうやら今日は頭に血がのぼって集中してないようだな」

「あっ……」

「普段はこんなことさせないし、訴えられるのも嫌だからやらないんだが、高久……廊下で立ったまま頭冷やして来いよ」


 なるほど。それなら喜んで立とう。そして休み時間になり、先生は笑顔で笑いながら「たまにはいいだろ?」なんて言いながら、職員室に歩いていった。

 だが俺は廊下に立ち続けていた。もちろん、隠れながら。そして、ゆかりなさんの向かう先に密かについていく。


「ごめんなさい、待った?」

「待った。でも許してやるよ。花城センパイ可愛いし」

「じゃあ、体育倉庫に行こ」

「ああ、いいぜ!」


 何だあの偉そうな奴は! 体育倉庫? 何だか心配だ。し、しかし……どうやって様子をうかがえばいいんだ。

 く、くそぅ……ゆかりなさんはこれのことを言っていたんだ。た、確かに怒りで我を忘れそうだ。今すぐにでも、彼女をあの偉そうな奴から引き離して抱きしめたいぞ。


「……んん? あ……」

「なに、どうした? 花城センパイ」

「ううん、早いとこ整理しよ?」

「だよな」


 ぬあああああ! ど、どうすればいいんだー! 怒りで我を忘れたままで助けに行くべきか? 朝に釘を刺されたのに行ったりしたら、きっと「ふざけんなー!」などと罵倒されるのがオチだ。

 ここはマジメな俺らしく冷静に……冷やして行こうか……暑い…、暑くて冷やせるか―!


「おいっ! そこで何をしている!」

「ん? 何って、花城センパイと体育祭向けの整理してるけど? お前誰?」

「た、たか……葛城くん」

「葛城ですが、何か?」

「何かって……用も無い奴てか、係でもない奴が倉庫に来るとか怪しすぎんだろ。何? 花城センパイのファンか何かか?」


 ファン……だ……と!? ファンどころか俺の将来のヨメ候補だぞこの野郎! なんて言葉遣いを悪くしたら駄目ですよ、俺。落ち着こうか、俺。


「花城とは同じクラスだ。つまり、貴様の先輩だ。口の聞き方に気を付けろ」

「貴様……って、どこのマニアだよ! 高2なのに中二病か。こんなのが同じクラスにいるって、センパイも大変なんだな。マジで同情する」

「えっと、ごめんなさい。葛城君、外に出て。空良くんは続けてて」

「ああ、やっとくよ! センパイ、何かあったら俺を呼んで。助けるから」


 何だコイツ……何の後輩だよ。明らかなるファンは貴様の方でないか! 

 これはアレだ。約束を破った俺を体育館裏でアレですね、分かります。予想をしていた俺は、体に力を入れながら、目をつぶって衝撃に備えた。


「――高久っ!」

「……?」


 おや? 特に何も来ないが、もしや放置プレイか? それとも俺を置いたまますでに倉庫に戻ってしまわれた? なんてひどい事はしないと思いつつ、こっそりと目を開けてみた。


「……もうっ、高久くんから言って来たのに、どうしてかな」

「んん? 何を――むおっ!?」

「しっ! こ、これで我慢して」


 直後、俺の口に何かの感触が押し付けられ、そのままぬりぬりされているようだ。ぬりぬり!? 口紅か? そんな趣味は俺にはございませんよ?


「って、ひ、ひんやりするどころかスースーする。これはメンソールですかな?」

「そうだけど? だって、高久くんが熱くなってるからせめて口元だけでも冷やしてあげようかなと思ってたの」

「な、なーんだ。てっきりキミからキスをもらえるもんだとばかり思ってたよ」

「キスなんか出来るわけないだろ! い、いい気になるなよ!」


 それは俺のセリフなんですよ? 結構キミからして来てますが、それは違うのかね?


「てか、もうすぐ体育祭だし。だから、そういうことなの! 分かったら教室に戻れ!」

「実行委員てやつか。それにしては後輩? アレはなんだよ。どう見てもゆかりなのことを意識してるだろ! あいつが何かする前に俺が実行委員になるぞ?」

「それは無理だし。高久くん、運動部じゃないもん……だから無理」


 文武両道の特に武が優先なうちの学校はそうだったな。そうか、そうか~……ううっ、実行委員にもなれない俺、悲しすぎる。


「大丈夫だから。わたしは高久くんだけだから、だから……今度の土曜はお詫びにどこか行こ?」

「お、おぉ……」

「じゃ、戻るから」

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