40.危険な女子とパン野郎
ゆりなお母さんが俺に出した条件は、学校以外の外でゆかりなさんと会わないことだった。もちろん会いに行くのも駄目。
じゃあ彼女から会いに来たらそれはセーフなのかと思っていたが、見事に会いに来れていない。お母さんが何者か分からないままではあったが、探ると色々やばそうなので気にしないことにした。
「たかくん、あの、お昼はごめんね?」
「いや、いいよ。場所があそこじゃなかったら俺がくっつきたかったし」
「ホント? じゃ、じゃあ……デートの時にたくさんくっついていーい?」
「お、おぅ! 望むところだ!」
なんて変わりようなんだ。とてもあのゆかりなさんとは思えない。それだけ俺だけしか見えてないということなのだろうか。
それに応えたい……応えたいけど、今はまだ色んな意味で応えられない。
「お、俺は俺はーーー!」
「俺が何?」
「はっ!? ナンデモナイヨ独り言ナンダヨ」
「なんかたかくんってたまにそうやって叫ぶ時があるけど、子供がびっくりするからやめてね」
「子供? あぁ、そういえば確かにさっきすれ違ってった子が驚いてたなぁ、気を付けるよ」
「違うし!」
「ほえ? で、では俺には見えない子供のことかな? そ、それは俺の方がびっくりするよ?」
「全っ然! ちがーう!」
「ええっ? じゃ、じゃあどこの子供……」
「わたしとたかくんの!」
「ファッ!? え? いつの……?」
「言わせる気?」
俺と彼女の子供ってなんすかなんすか!? 全く記憶にございませんよ? まさか俺以上の妄想をしているのか? それこそ手が触れただけとか、キスしただけでとか、そういう意味なのか?
「何だか分からん! でも、ごめん!」
「は? 何が?」
「いや、だから子供が出来たんだよね?」
「出来るわけないだろ? バカなの?」
「じゃあナゾナゾの答えを教えてください」
「しょ、将来の子供のことだけど……何かおかしなことなの?」
「あー……デスヨネー。ってか、将来かぁ。先の事なんて分からないけどなぁ」
「夢の無い男は好きじゃない。じゃあ、わたし帰るから! バカ野郎」
怒らせてしまった。家に送るまでは一緒にいられるけど、家に入られたら何も出来んのは何とも言えないものである。
子供がどうとか言われても……などと思いながらゆかりなさんを見送っていると、何やら俺に向かって猛ダッシュで突進して来るのが見える。
「さぁ、来い! 受け止めてやる!」
小さなゆかりなさんの突進力ではたかが知れている。とは言え、一応身構えて待っていなければダメージをくらうはずだ。
恐らく胸元目がけて来る……そう思っていると、とんでもない所に来てしまった。
「チュッ……」
「――あ」
「そ、それじゃ家に入るから。またね」
不意打ちキス!?
何かの予感があったのか、ゆかりなさんは俺にベタベタしていた。まさに、女の予感的なことがバイト中の俺の身に起こっていた。
「助けてくれてありがとね! 高久って呼んでいい?」
「呼び捨てっすか? まぁいいすけど……というか、悪者から守ったわけじゃ無くて単にサンプルの在庫を運んできただけですよ? そんな俺にそこまで礼を言います?」
何とも馴れ馴れしい女子である。何故かイベントバイトでは、同じペアを組まされているのだが、余程相性が合うと判断されたのだろうか。それともこれもどこからかの圧力か!?
「何言ってんのかな~? 守ってくれてんじゃん!」
「へ? な、何から茜さんを守りましたっけ?」
「陽射しから守ってくれてるよ? それとウチのことも呼び捨てでよろー」
陽射し……陽……太陽? ってか、俺はアレじゃないか! 日よけの男。つまりは無駄に背が高いばかりに、俺より身長が無い女子にとってはいい壁になるのである。おかげで俺だけは汗だくですよ?
「嬉しくねー」
「やーウチは嬉しいし。高久ってあんまりおなクラの女子と会話ないけど、それって花城ちゃんがいるから?」
「そうです」
「敬語使わなくていいのに。それともそれも高久のキャラって奴? 教室でのイメージと違うじゃん! それが知られたらライバル増えるかも」
俺のイメージ? それは恐らく初期の頃は泣き虫高久くん。その後はキモい奴。そして今はゆかりなさんの奴隷といった所か。確かに泣かなくなったから、それについては言われなくなった。
「うし、そろそろ報告して撤収しよか」
「ですね」
なんてことを思ってると、何故か絡まれるイベントが発生した。
「堀川、遊び行かね?」
「や、無理って言ってるけど?」
「俺んとこに声かけて来ないと思ったら、そいつがお前の男なんか?」
「そういうことだけど? それでも諦めないつもりしてる? それならウチの彼が痛い目見せるけど」
「バイト中にそういうこと言うかよ。ならいい。でも、俺は諦めねえし」
おや? 痴話喧嘩かな。
「ったく、バイトの時しか声かけて来ない野菜野郎のくせにウザすぎ!」
それは草食と言いたいのかな。
「高久はウチの彼氏ってことで広めてるんで、バイト中はよろしくー!」
「は?」
「ニセモノ彼氏って奴だけど、イベントバイト限定だしいいよね? 学校の中じゃそういうことも言えないし、いいじゃん?」
「よくねー! そっちが良くても俺はそういうニセモノとか好きじゃない」
「ウチはそれでも好き。ってことだからよろしく頼むね! んじゃ、駅まで送りよろしく」
「ぬぬぬ……お、送るけど、くっつかないでくれよ?」
「おけおけ」
何だ何だ? 何なんだ! 馴れ馴れしいレベル越えてるじゃないか! やはり俺は壁じゃないか。
「キミってアレなの? 教えて欲しいんだけど~?」
「アレってなんすか?」
「ウチが言うのも変な話なんだけどさ、あの花城ちゃんってすごい人気女子なんだけど、最近はウチも含めて、他の女子と話さなくなったんだよね。最初はそうじゃなかったよ? それって高久がアレだからなのかなと」
アレってなんだよぉ……ううっ聞くのが怖いよ。
「束縛くん……だったり?」
「ほぉあ!? そ、束縛? え、だ、誰を捕縛?」
「束縛ね。捕縛って……わざと間違えるとか、それがキャラだとしたら花城ちゃんはオチるか」
「それはちげー!」
「あっそうなんだ? それはどうでもいいけど、ウチも捕縛する? てか、していいし」
「ナンダッテ?」
「だからさ、ウチはその方がいいよ。彼氏として付き合うならそれがいい」
おいおいおいおいおいー! 何なんだい、このデンジャー女子は。コイツは俺を上回る……いや、俺ってば微妙なパン野郎なんですよ?
これはモテ期? いや、エネミー期だ。まさに危険が来ている。
「ってことで、左手を見せてくれる?」
知っているぞ。これは誘導だ! 手を出すともれなく手を繋がれて、そのまま歩こうとしているに決まっている。そんな場面をもしあの子に見られでもしたらますます反発の反発で離れなくなるのではないだろうか?
それは望むところだが、学校ではマジでキツイ。
「嫌です」
「警戒してんねー」
「してない」
「ふーん? でも、さすがにこんな初めからそういうことするわけないじゃん? 警戒しすぎっしょ」
「左様か。ならば、これが俺の左手である!」
「あ、もういいし」
つかめない女子だ。ゆかりなさんとも華乃ちゃんとも違う。人見知りならぬ女子見知りの俺には難易度が高過ぎる。
「と、とにかく駅に……んん? す、進まん……な、何事?」
「手は掴まないけど、袖は掴むし」
「それにしたって力が半端ないっすね? それだと俺の服はもれなくヨレヨレになりそうなんですけど」
「駄目……かな?」
「い、いいですとも……」
上目遣いは共通か。何て恐ろしい技なんだ。それとも俺は自分を上目遣いで見て来る女子全てに弱いのか? それはつまり近所のマダムたちにもチャンスが!?
そしてめでたく俺の服がヨレヨレになったところで解放された。そして家に帰る俺を奴は待っていた。恐らくは買い物帰りで、その僅かな時間に俺を見つけたに違いない。
「アレは誰?」
「あーアレね。アレはアレですよ? はははー……」
まさにアレ尽くし! いや、笑えない。どこから見られていたというのだろうか。そして茜さんとやら、真に束縛されてんのは俺かもしれないんですよ?




