4.キミにカテキョー!
屋内プールのことは水に流し、俺とゆかりなさんはもうすぐ来てしまうテストに向けて、家で勉強を敢行していた。
「……で、これがこうなれば解けるはずだよ」
「すごい! 今まで解けなかったのに。高久くんって賢かったんだねー! これはモテる要素だよ」
「モ、モテる……! おぉっ、モテるのでありますか。でも、ゆかりなさんだから教えやすいけど、他の女子には分からないかもしれないよ?」
「他の女子に分からなくて、わたしには分かる、ね。ふーん……じゃあさ、高久くんに家庭教師してもらおっかな? わたしだけの」
「か、かてきょーー!! それも君だけに! マジですか」
「うん、マジ。あ、でも、責任重大だよ? もし教わる前よりも点が落ちたら、高久くんは大変になるよ」
何が大変かは想像したくない。だがこれは俺にも何かのフラグが立ちそうなイベントじゃないのか? それにゆかりなさんに密着型! これはいよいよ萌える展開になるのではなかろうか。
「すごいね! 超真面目くんだったんだね。これはポイント高いかも」
「俺のこと、惚れ直した?」
いつもよりも強気な態度で話している俺。ふっ……現実は優しくなどないのだ。
「これでわたしも安心して彼女を紹介出来るよ」
「えっ」
「あれー? 前に会ったよね? 違うクラスの女子たちに」
「会いましたけど、それはあの、友達でいいとおっしゃっておりました」
「そうだっけ? でもさ、真面目に賢い高久くんなら紹介したくなったんだよね。ダメかな?」
ぬぬ……何でそんなに甘えの声で罠を仕掛けて来るんだ? い、嫌だ。俺は俺の好きな子は……。
「だ……だとしても、それは駄目ですよ。まずはきちんとカテキョするんで、その話はその後でいいかな?」
「ん、それでいいよ。わたしの望みは君がいい感じになっていくことなんだけどな……」
「え? な、なんか言った?」
「何も。それじゃあ、高久センセーに教えてもらおうかな」
「喜んで!」
喜びも束の間すぎた。これは予想もしていなかったことだ。
「高久くん、わたし言ったよね? 教わる前よりも上がらなかったら大変なことになるよって」
「は、はい……しかしですね、今回の結果についてはそれは当てはまらないと思うわけですよ。だって、おかしいでしょ! ゆかりなさんと俺が同じとか……何のシンクロですか?」
「シンクロ! 上手い事言うね。やっぱり賢いんだ~! でもね……今回はわたしじゃなくて、むしろ高久くんに怒ってるんだよ? 自覚あるの!? ねえ?」
「ひぃっ!?」
俺は大好きな妹の為を想って、カテキョをしてあげた。彼女は俺が教えたことを素直に覚え、同じ間違いをすることが無かった。俺の長年の努力は何だったのかというくらいに優れていた。
俺とゆかりなさんは同じクラス、同じ学年。そして当然のごとく、同じテストを受けた。テスト勉強を一所懸命に教わる妹さん。喜びながら笑顔で要点を教えまくる俺。
何故なら、妹の点を俺が教える前よりも上げてあげたかったから。そうしないと後が怖いから……だったのに、どうしてこうなった。
「キミはもう、わたしのセンセーじゃなくなってしまったね。どっちかというと、ライバルになっちゃうのかな? でも、次のテストじゃ相手にならなくなってるかもね?」
「いや、あの……俺はゆかりなさんに教えまくったわけです。ですから、自分のテス勉はロクに出来なかったという事実でして。その結果がそういうことになっただけでして、次回もそうなるとは限りませんし……今回はチャラにして欲しいなと思っとります」
俺とゆかりなさんのテストの点数は全く同じ。同点だった……つまり、ゆかりなさんは上がっているのに、俺は下がってしまったということになる。俺が教える前よりも上がっていたのに、何故俺は怒られなければならないのか、そこが非常に理不尽である。
「ってことで、高久くん。わたしの友達を明日、紹介します! まずはお友達から仲良くなってね?」
「ま、待って! 一つ聞いていいかな?」
「何かな?」
「ゆかりなさんは、俺のこと嫌いなの? だから友達と付き合わせて、キミは先輩とふたりだけで会おうとしているのでありますか?」
俺の中ではタブーとされることを聞いちゃいたかった。そうじゃないと、俺は涙の高久という称号から抜け出せなくなりそうだった。
「嫌いなわけないでしょ! 友達に嫌いな人を紹介って、わたしひどい奴でしかないじゃん! それに、先輩っていつのこと言ってるの? 付き合ってないってば! た、高久くんはわたしの……」
「――え?」
「とにかく、友達と仲良くならないと進まないって思ってるから。だから、明日学食に来て! そういうことだから、部屋に戻るし!」
「えええ!?」
ゆかりなさんの気持ちがまるで分からん。嫌いじゃないのは助かったけど、でも友達を会わせるとか何でだー! 進まない……かぁ。ちっとも進みませんよ? ずっと徐行させられてますが、俺の恋は進むのか?