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ゆかりなさんと。  作者: 遥風 かずら
第三章:成長戦略的なヤツ
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38.お約束的な何か


「……トントントントントン――」

「あ、いや、あのその……」

「ドンドンドンドンドン……!」

「いやーはは……リズム感がいいですよね」


 さっきから目の前のゆかりなさんは、俺の家のテーブルをリズミカルに指で連打し、先程から握りこぶしで叩き始めている。原因はもちろん、俺の優柔不断な態度である。

 彼女のカバンにごそっとサンプル品を入れてしまったがために、まるでまき餌の様にボトボトと道行く人に拾われ、結局家に着くまでに一つも手元には残らなかった。もちろん、彼女が怒っているのはそれが原因じゃない。


「何をするのか聞いていい? それによっては通報しますけど?」

「いやいやいやいやいやー! ここはあの、一緒に住んでた家ですよね? いくら何でもそれはないぜー!」

「あ、もしもし……わたし、誘拐……」

「わーわーわー!!」

「もごもごもご(通話ボタン押してないんだけど?)」

「おおう! そいつは良かった!」


 おふざけはここまでにしてマジでやばい奴、それは俺。お母さんの目を逸らしておいて娘を連れて来るとか、それはあかん。

 ということで、俺は料理人のパパさんに電話をしていた。


「パパさんにお願いがあります。辻褄合わせをお願いしたいです。その代わり、俺はいずれパパさんの元で……」

「分かった。高久君は気に入ってるんだ。なぁに、俺が何とかするよ。だから、娘を頼むぜ! あ、ちなみにキス以上のことをしたらぶっころ……衣を揚げる修行を開始するのでよろしくー」


 あれが本性か。婿にはならんけど、料理はもっと覚えたいのは確かだ。問題は彼女をどう料理……ではなく、どうやって心を開かせるべきか。

 俺が夏休みに失恋し、なおかつ仮妹であった華乃ちゃんの技を使わせてもらおう。


「高久くん、わたしどうすればいいの? ママは?」

「ゆかりな……俺、頭がかゆい。掻いてくれないかな」

「は? 自分で掻けや! ボケ」

「じゃなくて、お前の顔を近くで見たい。なんせ久しぶりだから」

「い、いいけど」


 よしこーい! あと少し……ほんの少しだ。


「なに? その広げた両手。何か変なことしようとしてるだろ? さっきから何か気配がおかしいと思ってたけど、わたしをどうにかしようとして家に連れてきた。そういうことなんだろ? 何とか言え、高久!」


 ――ぎゅうっ!


「!?!?」


 何やらぶち切れそうだったゆかりなを、無理やり引き寄せて胸元に顔をうずめさせた。これは所謂思いきり抱きしめてる図である。


「ゆかりな、お前……俺が好きだろ? 俺もお前のことが好きだ。だから――」

「たか――く……んんんっ! んーんーんー!!」

「ゆかりなっ! 好きだ、俺、お前がっ!」

「んんんんーーーー!! 殺す気か!」


 いわゆる両手で彼女を羽交い絞め? じゃないが、思いきり抱きしめながらキスをしちまったが、危うく窒息させるところだった。


「わ、悪い……でも、俺の気持ちはマジで……だから、今すぐじゃないけど俺はお前を――むぐぐぐ」


 おいおいおい、今度は俺を窒息させる気か!? ゆかりなの小さな手が俺の口を塞いでくれやがりましたよ?


「ん、約束ってことで! その言葉、記憶から消すなよ? わたし記憶力いいんだかんな! 高久が忘れてもわたしは忘れてないから、もし何かの衝撃で忘れたら殴ってでも思い出させるし」

「わ、分かった。でも冗談ですよね?」

「マジ」

「ひっ……と、とりあえず今日は泊まっていくよな? いや、妹としてですよ?」

「……うん、お兄ちゃん! 泊まっていくね」


 とりあえず、想いは伝わっていたようだ。やはりまだ彼女的には足りていないってことは理解した。

 だからもう少し、こんな連れ去りじゃないやり方で何とかして見せる。少なくともキスは真剣にしたい。


「んふふー……ゆかりんー」

「なぁに、ダーリン?」

「そこに見える可哀相な……じゃなくて、何かの可愛いキャラのワッフルを食べさせて欲しいなぁ」

「いいけど、わたしの方が可愛いよね? ねぇ……わたし、可愛い?」

「あたぼうよ! お前以外に可愛い奴なんていないっつうの!」

「じゃあ、たくさん味わえよ? ……口を開けてね、ダーリン」

「どんと来-い! もがっぐがっ……んぐぐぐぐぐ、も、もう、む、無理……」

「えー? 可愛いんでしょ? わたしの……を、味わってイイんだよ? んっ……く、くすぐったいけど」

「死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ!! も、もうやめてー頼むよ、ゆかりん!」


 ハッと目が覚め、夢を気づく。それにしてもリアルな味わいだった。


「……ねぇ、いつもわたしってダーリンの夢に出て来るの?」


 これは夢じゃないようだ。自分の部屋のベッドで寝ている俺には、耳に囁かれている甘い声がはっきりクッキリと聞こえている。ん? 耳に……!? こ、これはもしや妹イベント発生!?

 こうなれば存分に堪能せねばならない。目を閉じたままで、妹の可愛い声をそのまま聞き続けてやる。そして質問にはちゃんと答えてあげる。これでお兄ちゃんスキスキーゲージがギュンギュン上がるはずだ。


「ああ、いつも出て来るよ。マイハニー」

「へー? それがダーリンの夢ってことなんだね。わたしだけが夢に出演して、他は誰も出て来れない。それって、わたしのママも出て来られないのかなぁ?」

「出るわけがない! 出たらさすがに寝ていられませんよ? せっかくのハニーが台無しになるじゃないか! 俺とハニーの世界には邪魔者は必要ないんだ」

「へぇ……台無しに。そして邪魔者、ね。なるほど……それが高久君の本音ってわけね。了解しました。でもね、キミもゆかりんもまだ子供なの。そう、まだそうさせるわけにはいかない……」


 おや? 何やらゆかりなさんの可愛い声がいつの間にか大人でハスキーな声に変化してるぞ。この声は一体誰の……はっ!? あっあぁぁぁぁぁ!


「ゆかりんは指を綺麗に洗ってから家に帰りなさい。私は彼とお話してから帰るから」

「う、うん。高久くん、またね」


 うああ……やはりそうだ。パパさんは止められなかったのか? というか考えてみれば合鍵持ってるんだよな。そもそも親父とお母さんは完全に別れた訳じゃないし、くっなんてことだ。


「高久君、起きなさい。本当は目を覚ましているのでしょう?」

「お、おはようございます、お母さん」

「それで、キミはあの子をどうしたいのかな? 妹じゃ嫌ってことなんでしょ?」

「俺はゆかりなが好きです。妹としても彼女としても……だから、俺はお母さんには負けるつもりはないです。お母さんは俺と彼女のことを認めていたじゃないですか! 何でこんなことするんですか」

「兄妹関係としての好きなら認めてあげるけど、そうじゃなくて本気になっちゃったのなら……それは意味が違って来るんですよ?」

「く……で、でも俺は」

「卒業するまでに決めてね。あなたとあの子が卒業した時には、兄と妹としてまた一緒に暮らすことになるのだから。そうそう、パパ……タカキさんとは仲は悪くないからね? だから、高久君がどうなりたいかよく考えなさい。それじゃあ、朝食を作っておいたから食べてね。今日は大人しく勉強しなさい」


 本気になっちゃったもんは仕方ないだろ。絶対ゆかりなさんを俺の所に奪ってやる!

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