33.キスと別れ
「ど、どうぞ……僕の特製オムレツでございます」
予想通り華乃ちゃんのパパは学校で一番偉い人あった。以前、壁ドンならぬ壁ドカンで破壊した時に土下座した学校長先生でもあった。
「……高久くん」
強気のゆかりなさんもさすがに同情してくれている様子だ。そして三咲の華乃ちゃんもがっかりしているようだ。ゆかりなさんに負けたのは想定通りであり、勝負なんて初めから関係の無い事でもあった。
「高久兄さん、私は先に家に戻ります。そこでお話したいです」
「う、うん。分かったよ」
やはりというか、勝てなかった俺の頬をぶつお仕置きをするおつもりなのだろうか。しかし勝負は時の運。いや、俺はゆかりなさんに勝つ気なんて無かったんだ。恐らくはそれも分かっていたはずだ。
「ふふふ……たーかーひーさーく~ん?」
「なぁーにー?」
「あ?」
「ナンデモナイデス」
呼ばれたから返事を可愛くしただけなのに怖いぞ。はぁ……勝負に勝っていればゆかりなさんを好きに出来たのか。全年齢からR18に引き上げられた可能性もあったのか。
「好きにしていいってわたし、言ったよな?」
「バッ……い、言いましたね。でも、負けましたのでホントに何と言いますか」
「オッケ。好きにしよう」
「ホワット!?」
あれ? 俺は負けたんだよな? 好きにしていいのか? あんなことやそんなこと……どんなこと?
「じゃあ高久くん。夏休みが終わったら、修行をしてね。約束だよ?」
「へ? す、好きにってあれっ!? それって、俺がじゃなくてキミが俺を好きに使用する意味ですか?」
「そうだけど? 何か間違った意味に取ってたのかな? エロ大魔王くん?」
「いやぁあぁぁぁあああぁぁぁ!!」
「うんうん、高久くんはそういう反応をするから好きなんだよね。君はもう……わたしのモノなんだよ。だから、好きに使わせてもらうからね。ふふっ」
ゆかりなさんのモノということは、花城さんの使用人という意味でもあるってことじゃないかよ。そうか、やはり現実になったのか。あの時の芝居のアドリブのことをずっと覚えててくれやがりましたか。
ゆかりなさんからしてみれば、俺の事は好きとかそういうのじゃなくても、いつでも好きに出来るってことになる。
家に戻ると、ここでも妹さんからのお言葉に反省しきりである。
「高久兄さん。私は……」
「は、はい。負けてごめんね、華乃ちゃん」
「わたしと一緒に遠くに行きませんか? そこで二人で暮らしたいです」
おう? どういうこと? 勝負に負けたからてっきりボコボコにお仕置きされるかと思っていたのに。何だかしんみりしているぞ。
「本気だったんです。高久さんのこと。妹に萌えている変態な……じゃなくて、変な人でスポーツ無能で飛べなくて、残念なイケメンってことも聞いてました。だけど、それなら競っても勝てるって見込みがあったんです」
「ど、どういう?」
何気に変態とか言ってましたね? 別にスポーツ万能でも飛べないと思うが。
「でも想いの強さは勝てなかったです。あなたも彼女も、妹としての密度もそうですし……たぶん、初めから想い合っていたんだろうなって。私があの手この手で策を出しても、あなたの心は動かせなかった。だから、諦めます。私のお兄さんになれると思ってたんですけど、妹ってだけじゃダメだったんです」
「えーと? キミは俺が好きだった? そんで、俺の元お母さんから聞いて近付いたのかな?」
「……はい。面白いし変だし、おかしな人だけど妹になっていれば好きになってくれるのかなと思っていました。でも、それだけじゃなかったみたいです。高久さんは彼女のことを、好きな妹から好きな人になっていたんですよ。だからもう勝てなかったです」
「俺が好き、か。それは嘘ではないんだね?」
「はい。大好きです。本気でお付き合いしたいです。でも……」
このまま小悪魔なゆかりなさんの意のままに操られるのは、俺の人生設計と異なる。いずれ本物のヨメになるとしても、このままでは俺の精神が持たないかもしれない。
ならばせめてもの抵抗と懺悔と、妹になってくれて朝になったら、激しく起こしに来てくれたこの子の為にも俺は付き合おう。そして成長を遂げたい。この子なら俺をそんな風にしてくれる気がする。
「華乃ちゃん。夏休みが終わっても学校には来るのかな?」
「本当は別の学校なので行けないんですけど、どうしてですか?」
「俺はキミと付き合いたい」
「――そ、そうですか。その答えは意外です。でも、それは駄目ですよ。浮気になります。たとえ、彼女に好き勝手にされるのが嫌だとしても、それに逆らうのは高久さん自身でやるべきです。私を好いて下さってありがとうございます。私も好きでしたよ」
苦肉の策は通じない。俺がゆかりなさんを操らなければいけないということか。俺が心を強くするしかないってことだ。
「ありがとう、華乃ちゃん。俺は俺だけで何とか頑張ってみるよ」
「はい! 何か、やっぱり素敵ですね。あの、さっきから頭にゴミが付いてて気になってたので、取らせてもらっていいですか?」
うわお!? 何て恥ずかしい奴だ。それはともかく華乃ちゃんに頭を近付けた。
「……高久さん、頭を上げて下さい」
「う、うん、ありがとう――っ!?」
「高久さん……」
このキスで俺は一瞬にして彼女を好きになり、同時に失恋もした。




