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ゆかりなさんと。  作者: 遥風 かずら
第三章:成長戦略的なヤツ
30/68

30.別れの涙(主にT


「……高久」

「おぉ? 親父!? 生きてたのか……ずっと見かけなかったからてっきり……」

「お前相変わらずだな」

「まだ卒業でも無ければ、ただの終業式に学校に来るとかどれだけ俺が好きなんだ?」

「いや、ちとカフェに付き合え」

「い、いいけど、ゆかりなさんも……か?」

「それがいい。その方がお前もショックは少ないはず」

「ほへ?」


 午前は何事も無く夏休みについての長々しい話があっただけで問題は無かった。でもそれなのに家に帰ってひゃっほい! なんて気分でゆかりなさんを後ろに乗せ、校門を出ようとしたら、親父が立ち塞がった。


「タカキパパ、こんにちは」

「お、おーゆかりなちゃん。何か前より綺麗になった?」

「い、いえ、そんな……でもたぶん、彼のおかげです」


 気のせいか俺の後ろから羨望の眼差しを感じる。昨日までの態度はどこへ行ったのか、ゆかりなさんがしおらしくなっている。

 親父の前ではさすがに毒を吐かないだろうが、らしくない。


「じゃあ、行くか」

「というか、チャリは?」

「俺の車の後ろに積んでいい。二人は乗りなさい」


 久しぶりに会ったせいなのか、親父がまるで別人のようにキビキビしている。後ろの席に二人で座ると必然的に近くなる。それ自体は何の珍しさも無いし、緊張することでもないのにそれでも妙に緊張しまくりである。


「……手、近いよ?」

「あ、ごめん」

「繋ぎたいならいいよ。思い出になるし」

「思い出って何の?」

「一緒に車の後部座席で手を繋ぐわたしたちの、思い出」

「何かよく分からんけど、失礼します。ゆかりなさんと手を繋ぐの思い出になるのか」

「あ、あのね、そのゆかりなさんって呼ぶのはもうやめていいから」


 なにっ!? こ、これは親離れ? じゃなくて俺離れなのか。それとも兄離れ?


 こんなことを言い出すとはもしや俺は見捨てられたのか。恐るべし夏休み。これもお母さんの指示なのか?


「じゃあ、ゆかりん? ゆかちゃん、ゆかりな……」

「ダメ。どれも駄目」

「え、じゃあ……何て」

「それはこの先のカフェで話そうよ。ね? 高久」

「わ、分かったよ」


 俺たちの会話に親父は一切割って来なかった。俺はかつてないほどシリアスな場面に遭遇することになりそうだ。あれ? コメディ要素はどこにいった? ううむ……親父しかいないというのが気になる。


「えっ……? そ、そんな……」

「悪いな、こんなことを」

「じゃあ、ゆかりなさんとは……?」

「まあ頑張れってことで、俺は行く。高久も後で決めろ」

「いやアアアアアア!」

「た、高久……パパさんが行っちゃうよ? いいの?」


 パパなどどうでもいい。それよりも今は、目の前にいる君の姿を脳裏に焼きつけたい。何ならレーザーで焼いてくれても……。


「っていうかさ、たかが数日だよ? しかも会えないわけじゃないし、そんなにわたしと離れたくないんだ? なんか可愛いね」

「あぅあうあぅー(ゆかりん、行っちゃイヤだああ)」

「うんうん、わたしが好きなんだもんね。わかる、わかるよ。でも、パパとママのことだし仕方ないじゃん。だから、泣き止めよ! 祭りとか花火で会えばいいし」

「べぼ、なつやすびがボバッ……(でも、夏休みが終わっ……)」

「もっと可愛くなるから、だから高久も頑張れよ! 好きなんだろ? だから次に会う時は、花ちゃんと呼ぶことを許す」

「――ふぉぉぉぉ!」

「連絡するし。じゃあまたね、高久」


 ああ、行ってしまわれた。花ちゃんか……それはそれで別の何かに萌えそうだ!


 俺たちは連れ子同士であり、世間体で言えば兄妹。養子縁組という手続きはしていないから結婚は出来るということだったのに、俺のパパが……もとい、親父がゆりなお母さんにそれを求められているとかで揉めているということらしい。


 仲が良さそうで良くなかったのか、あるいは教育方針に違いがあったのかもしれない。結果として、夏休みの間はいわゆる別居という形でお互いに距離を取るらしい。


 ゆかりなさんは某料理人パパの所に一時的に行くらしく、お母さんは本業に戻るのだとか。俺の家からゆかりなさんはいなくなり、俺は涙を枯らす日々突入なのである。


「うぅっ……てやんでぃ、チキショー」


 ちょっと、いや、かなりふてくされながら家に帰ると、予想外すぎる親子が俺を待ち構えていた。顛末を全てご存じな様子でお待ちかねである。


「やあ、高ちゃん。元気してた?」

「元気でもない。母さんこそお元気?」

「まあね。姉妹が可愛いからね。高ちゃんもワクワクしてるんじゃないの? もう想像出来たよね?」

「どうかな……」


 そんな予感はしていた。三咲姉妹は俺のことを、あんなことやそんなことまで知っていた。つまり某国の謀略ではない限り、恐らくそうなのだろうなと思ってた。


「そういうわけですので、高久さん。私はあなたに好きになってもらうように努力しますので、よろしくお願いしますね」

「はぁ、まあ、ほどほどによろしく。でも、俺の好きな子は変わらないから」


 俺の好きな子は小悪魔でわがままで、全てが可愛い奴だ。こんな謀略には屈しない。たとえ一緒にいるようになったからといっても、あらゆる誘惑には屈しない! そして必ず成長してやる。

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