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ゆかりなさんと。  作者: 遥風 かずら
第三章:成長戦略的なヤツ
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27.ケーキと甘々な妹さんと


「なんだあいつ、超リア充か?」「世の中なめてんな!」いやいや、全然充実なんてしてないんですよ? これは単なる見世物であって、そこには混沌とした感情の変化が起きまくっているだけなんですよ。


 ミサキ姉さんと妹さん、そしてゆかりなさん。何故か3人の女子が同じテーブル席に座っている。ミサキ妹さん改め、華乃さんとゆかりなさんとでカフェの場所を駅前のお店に移した挙句の果てが、何故相席みたいになってますかね。


 ミサキ姉さん改め、柴乃さんは働きっぷりのいい店員じゃなかったの? どうして途中でバイト先を抜けられるんですかね。実は影武者なのか!? 


「高久君は華乃と付き合うの? それとも妹さん?」

「ううん、もう付き合ってます。そうですよね、高久さん」

「いやっ、何と言いますか。まだ試験的な……」

「わたし、彼のヨメなんで。だから付き合ってないし、彼女とかでもないんで一緒にしないでくれます?」

「いやいやいやいや! ヨメってのは何年後かの予定だよね? そもそもそれは約束もしてないよね!?」


 俺のヨメ。それはてっきり何かのネタのつもりかと思っていたのに、まさかの本気でしたか。というか、俺のステータスではとてもじゃないけど、同時に会話出来ません。いつもゆかりなさんとだけ話をしていたけど、それこそが俺の実力であって同時はムリゲーです。


「予定にはしてるんだね? その辺が私ら的にはハンデか。やっぱり一緒に住んでるってだけで好きにもなっちゃうし、話も盛り上がっちゃうものなのかな?」

「ハンデ? いやその前も気になりましたけど、どうして知っているんですか?」

「妹さんでしょ? 一緒に住んでるのが普通じゃないのかな?」

「俺は学校では彼女の事は妹と公表していないはず。何で知っているのかなと」

「え? なに? 高久くん。わたしがなに?」


 もしやこれが世に言うス○ーカー? それとも単に俺が知らないだけでみんなにばればれって奴か?


「それもそうですね。柴乃姉さんも知っていますし、私も知っているのは……高久さんをずっと――」


 うっ、怖い。怖すぎるぞ。マジなのか? そうなら激しく怖いぞ。


「あーいや、なんでもないです! 気にしすぎたかもっす。そ、それよりもここのケーキが美味いらしいんで、食べますかね」

「……ですね。そのことを花城さんに聞かせても意味がありませんから」

「わたしが何? ちょっと、高久くん! 後で聞かせろよ?」

「ハイ、もちろんでございます」


 ううむ。最後まで聞く勇気と根性は俺には無かった。何より、確かにゆかりなさんには聞かせては駄目な奴かもしれない。関係がない子に聞かせるのは何だか嫌だ。それよりもまずは機嫌取りをしなければ。


これは悪夢の再現なのか? それとも俺をそういう状態にさせることに目覚めたSなのか!?


「柴乃姉さん。そろそろ戻らないと怒られます」

「あ……だね。高久君と話が出来たし、華乃の気持ちも再確認出来たから今日は戻るね。後は妹さんと楽しくしてていいからねー。じゃあ行こうか、華乃ちゃん」

「はい。それでは高久さんとゆかりなさん。またです」

「あ、どうも」

「……ちっ」


 いやいや、去る時も舌打ちはどうなのかな。ますますガラが悪く成長中であられるようだ。


「……で?」

「ん? で? とは……なんざんしょう?」

「あの姉妹と、高久の関係! それとわたしのことで何か隠し事してる!」

「あー……柴乃さんはカフェでの俺の黒歴史証人。華乃さんは、よく分かんないけど俺と競いたいらしい。ゆかりなさんのことはまさしくそれだよ。その……どっちが好きかっていうことを競いたいって言ってたんだよ。決して隠し事とかじゃないよ?」


 嘘ではない。俺と何かを競いたいのは事実と言っていた。そもそも俺も彼女たちが何なのかすら分かってない。ゆかりなさんに説明を出来るほどの関係でも知り合いでもないのだ。


「へー競う、ねぇ? じゃあ今すぐにわたしと競ってよ!」

「へ?」

「姉妹のこととか、ぶっちゃけどうでもいい。そ、それに、今はせっかく高久くんと二人きりなんだよ? わたしとも競え! そしてわたしが勝つから何でも言うことを聞け!」

「ゆかりなさんが勝つのが決定なのか。それで俺が言うことを聞くのも確実なのかよ。まぁ、いいけど。で、何の競い?」

「わたしとキミとで、どっちが多く速く食べられるかを競う」

「な、何を?」

「ケーキ」


 俺はかつてのスィーツ太りの悪夢が甦った。駅前のカフェに移動したはいいが、なぜかケーキが食べ放題だった。それもお財布に優しすぎるお値段で。


「ぶべっ!? ゆ、ゆかりなさん……もう無理」

「遠慮すんなよ! わたしが奢ってあげるなんて有難い事なんだぞ? たかくんには最近厳しくしてた反省も込めて、わたしなりの甘えを出してあげてるんだよ? だから、ガンガン食えよ! 好きでしょ、ケーキ」

「い、いや、俺は女子と違って甘いものは別の腹には入りませんよ? ケーキってほとんどクリームが……あばばば……も、もう無理でげす。ぐぼぁ」

「情けないなぁ。それでも兄なの? それにしてもまたキミの体は甘い匂いをさせてしまったのかな?」

「はぁ、まぁ……」

「じゃあ、泳ぎに行こうか? ダイエットの為に」


 泳ぎに……待て、この誘いは罠だ。どうせ俺だけがウキウキ気分で水着になって、ゆかりなさんだけは服を着たままでプールに行くんだ。そうに違いない。「わたし、泳ぐなんて言ってないし」なんて。ん?


「今何て? お、おおお泳ぎに行くですと? そ、それはあの、水の中に入られるので?」

「うん、そうだけど?」

「おぉぉぉぉ! い、行くですよ! 行きましょう! ぜひ、ゆかりなさんと!」

「うん。行こ」


 おぉっ! これは本物の誘いだ。今度こそプールで、ゆかりなさんのお姿を拝見出来る!


 まさに孔○の罠。全然違うけど、そんな感じ。そんなことだろうとは思っていた。それをちょっとばかり期待する俺もどうかと思っていた。でも、彼女は間違いなくこう言ったんだ。「泳ぎに行こう」って。


「ゆかりなさん。あのーここはどこ?」

「デパート」

「いや、そりゃ分かる。売場は?」

「夏祭り特設会場だけど? ねえ、どの浴衣が可愛い?」

「そ、そうだね。どれも似合うし可愛いと思うよ」

「役立たず!」

「ちょっ!? だって、分からないよ? 浴衣が可愛いんじゃなくて、ゆかりなさんが可愛いのであって……あ」

「ふふふ……だよね? じゃあ、あれにする。たかくん、財布」

「ほあ!? お、俺?」

「違くて、たかくんに持たせてるバッグに財布入ってるから出して」

「あーですよね。てっきり俺自身が財布と言われたかと思いまして……」


 これを言うんじゃなかった。直後のゆかりなさんの不敵な笑みが怖すぎた。ゆかりなさんとの会話は難易度が超絶に高すぎる。絶対素直じゃない。だから期待なんてしない方がいい。


「よし、次は水着売り場に行こ?」

「ホワット!?」

「行くの? 行かないの? どっちでもいいけど」

「行きます!」


 おおっ! これはマジだ。いよいよ彼女の水着を選ぶ時が来たのだ。これぞ彼氏の醍醐味にして旨味! 意味はもちろん違う。


「じゃ、選ぼうか」

「はっ!? えと、誰の水着を?」

「キミの」

「俺の!? あれっ? ゆかりなさんのは?」

「買わないよ」

「だって、泳ぐっておっしゃってた……また俺を騙したので?」

「わたしと泳ぎたいの? 何で?」

「いやいやだって、泳ぎに行こ? なんて甘い囁きがありましたよ」

「あーうん……わたしもそう思ってた。でもね、駄目なの」


 くそう、言い訳かよ! そんな悲しい思いをさせるなら最初から言うなと言ってやろうか。


「ママから許可されなかったから。だから無理なの」


 くっ、またお母さんか。やっぱりそうだと思ったが、パパの言う通りだ。ゆかりなさんはママの言うことには忠実なんだ。だから俺への態度も変わったし、変えられた。そこに彼女自身の想いはあるのか?


「だったら、お母さんがいないところにゆかりなさんを連れて行って、俺とふたりだけの世界にするしかないな」

「――えっ」

「誰にも邪魔されたくない。お前はどうなんだよ? 本当に俺とそうなりたいのかよ。好きなのか?」


 こんなことをこんな水着売り場なんかで言いたくなかった。でもこれは俺の心の叫び。ゆかりなさんが水着を見せてくれないからではない。


「そ、そんなこと何で今言わなきゃいけない訳? バカッ! 大馬鹿野郎! バカ久! 帰る!」


 逃げたか。やはりどうにも分からないな。お母さんの言いなりで俺のことが好きなのか、それともゆかりなさん自身の想いは本当にあるのか。


 妹の真の想いはさておき、デパートで可愛い浴衣を見ていた妹さんは俺を夏祭りに誘ってきた。近所の境内ということで浴衣は着てくれなかった。


 そうは言っても妹さんと遊びに来れただけでも心はウキウキである。


「たかくーん、こっち! アレもよろしくー」

「ほいほい、獲りましょう。どうせ失うのは俺のマネー」

「なに? 何か言いたいことある?」

「何も無いヨー」


 ゆかりなさんの水着のことは、未来永劫忘れることにした。もう期待しても胸を熱くしてもきっと無駄。彼女自身がどう思っているかよりも、お母さんの言葉一つでそうなっているんならきっとそうなのだろうと。


「水で泳いでる子のこと好き?」

「そりゃあ大好きですよ! ずっと見ていたいです!」


 妹さんが泳ぐ姿を妄想するだけで幸せです。


「じゃあ、あの子を飼おうよ! お金はわたしが出すから、頑張ってね」

「ふぉっ!? 飼う……とは? いやいや、それは犯罪ですよ? 水で泳いでるどの子を飼おうとか闇組織の女ですか? ゆかりん、それはあかんぞ! その手に染めたらあかんって」

「は? バカだって思ってたけど、バカだね」


 思ってたんかい! 知的な賢さは俺の方が上なのに。何故こうもバカにされねばならないのか。可愛くて好きだからって俺が何でもかんでも許すと思ったら駄目だ。


「お前な、人の事をバカバカとそれはいくら何でも言いすぎだろ! お前、俺のことを何だと思っ……」

「バカな兄だけど、好き」


 くっ……曇りなき眼で俺のことを好きとか言って下さるゆかりなさん。怒れませんよ、ええ。


「ど、どうも」

「それはどうでもよくて、たかくんにはわたしが指してるあの囲いが見えないんですか? あそこで泳いでる子を飼いたいって言うのがそんなにおかしいこと?」


 ど、どうでもいいんかい。ショックだ。というか、言いたいことを理解させるように主語をはっきりさせて欲しい。


「赤くてすばしっこくて、可愛いヒラヒラが見えるあの子たちですね。おかしくないです」

「じゃあ飼おうよ!」

「でも、無理だな。俺の腕じゃあの子たちはきっと、何度も掬いの壁をぶち破るに違いない。それに一応、水槽とか買わないとだし」

「つまらない男。挑戦だけでもすればいいじゃん」

「俺はそういう男だ。それが嫌なら……」

「やめてよ。と、とにかく、綿あめとか焼きそばでもいいから食べよ?」


 やはり様子がおかしい。「好き」って言葉の意味を俺は考えるようになった。ゆかりなさんのスキはどういう好きなのだろう。俺はお前のことを抱きしめたいくらい好き。の好きになって来たのに。


「食べましょう! ゆかりんと食べるだけで俺、幸せもんだし」

「……バカ」


 小悪魔が隠れるようになってからのゆかりなさんとは、どうにも相手がしづらくなってきた。やはり知的な俺を出すんじゃなくてバカな高久を出して行くべきなのだろうか。

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