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ゆかりなさんと。  作者: 遥風 かずら
第二章:妹とヨメの狭間
22/68

22.命令するゆかりなさんは

 あの男は誰だ……誰なんだ。気になって追いかけているだけで、俺は決して怪しい奴じゃない。それなのに補導されてしまった。


「高校生にもなってハメを外すのはどうかと思うよ? 気を付けてね」

「はぁ、すみませんでした」


 こういう時に仲間……いや、友達がいて良かったなんて素直に思いたくない。俺はただ、ゆかりなさんを遠くから見ていただけなのに。


「俺が通りがかって良かったな? 高久」

「むむむ……」

「素直じゃない奴だな。認めろよ、お前は花城のス○ーカーなんだよな?」

「ちげー!!」


 俺の第一の友人であるサトルは、たまたま塾の帰り道で通りがかった。連行されそうになった俺にすかさず、「こいつ、探偵願望あるんすよ。好きな女の子の浮気調査とか寂しい奴でして」などと、トチ狂ったことを言い放った。もちろん、信じられた。


「何か俺に言葉があるよな? ん?」

「アリガトウゴザイマシタ」

「心の無いお礼だな。まぁいいけど、花城と喧嘩でもしたか? てか、一緒にいる男は誰だ?」

「俺が聞きたい!」

「どう見ても高校生には見えないけど、花城可愛いしな。これはアレだ……高久くん。諦めろ」

「えっ……」

「分かれ! 見たら何となく分かるぞアレは。残念ながらお前じゃ彼女の相手は務まらなかったんだよ。花城は俺が言うのもなんだけど、学校の中でも可愛い部類だ」

「いやー照れるね。さすがだ」


 ゆかりなさんは確か以前、モデル事務所にスカウトされたはず。たぶんそれだろう。その関係者と仕事の打ち合わせでもしているに違いない。


「はっはっはっはー! サトルの思うソレとは違うぜ! あの子は俺に負けないくらいに賢いんだ。いくらなんでも悪い子ではないんだぜ?」

「あっ、どこか事務所に入ってった」

「えっ!?」

「じゃ、じゃあな。俺は何も見てない」

「サトルくん、待ってぇ」

「お前も諦めて家に帰れ! また捕まんぞ」


 事務所か。いや、そう見えてそこじゃないかもしれんし、モデル事務所かもしれないし……そんなはずはないんだぁぁ。


 俺は久しぶりに泣きじゃくって、そうじゃないと信じながら家に走って帰った。


「あれっ? あれって……」

「どうした、ゆかちゃん」

「んー、何でもないよ。今は放置が一番だし」

「うん? そうか、まあいい。じゃあ、夕飯はウチで食べてくってことでオーケー?」

「うん、お願いします。パパ」

「任せてくれ」


「今に見てろよ高久くん」


「ん? 入らないのか?」

「んーん、入るよ」


 ゆかりなさんの考えている事とは裏腹に、翌日の登校まで泣きじゃくった。朝になっても彼女は帰って来なかったので、一人寂しく登校である。


「おっす、高久くん。くよくよしてる? そういう時は黙ってジャムパン!」

「な、何だ? 何故急にくん付けをしてきた? それにくよくよなんてしてねえよ!」

「いや、お前の顔見てたら慰めたくなったよ。サトルから聞いた。詳しくは聞いてないけど、残念だったね」


 拡散でもされたか? どうやらサトルは、俺が完全にゆかりなさんにフラれたというデマを広げてくれたらしい。今のところはパン仲間ネットワークだけのようだが。


「ジャムパンは食っていいんだろ? なぁ、チヒロくんや」

「お前もくん付けやめろ! そのパンは俺からの祝い……じゃなくて、慰めだし。大口開けて食べていい」

「ありがてえぜ」


 お昼にパン仲間からパンを恵んでもらえるようになった。それというのもゆかりなさんが学校を途中で帰って、家にも帰って来なくなったからだ。


 何より、俺がお昼に何を口にしても何も言わなくなったというのも関係している。刺々しい視線も浴びせて来ないなんて寂しいじゃないか。


「ほら、見てるよ……」

「しっ! 健気~」

「クスクス……あの真面目な葛城くんがね……」


 聞こえてますよ? どうやらパン仲間だけでは無かった。少なくとも同じクラスの女子にも、俺がフラれたらしいという真実ではないことを憐れみ始めた。


 一番前の席から廊下側のゆかりなさんをジッと見つめているだけで、こうも裏で言われるとは予想外です。


 さすがに同情をしてくれたのか、彼女は周りの状況に関係なく俺の前に立った。


「ちょっと、廊下に来い」

「行かせて頂きます」


 ゆかりなさんは、スパルタな女子にパワーアップしていた。これはこれで好きです。


「何してんの、マジで!」

「……と、申しますと?」

「女子も男子も、何あれ? ふざけんなよ、マジで!」

「えーと?」


 さっぱり分からん。だがお怒りになられてらっしゃる。もしかして頬をぶっ叩きになられるおつもりか? 俺は覚悟を決めて目を瞑るしか無かった。


「な、何? 期待してんの……? しないからね? まだわたし、しないもん」

「あのー何をそんなに怒って……」

「わたし、嫌いになんかなってないから! 高久くんも気にするな! 自由に言わせておけっての! で、でも、それとこれとは別で、しばらくに家に帰るつもりなんてないから。それだけ!」

「う、うん。でも帰って来ないという……何というお預け状態。俺、Mじゃないんですよ?」

「うるさい、バカ! 早く教室に戻れバカ!」

「ハイ」


 そうバカバカと言わんでもいいのに。そうか、とりあえずは気にしていたのか。


 家出したままとか、俺の忍耐度を底上げさせてくれてる!? それとも好きって気持ちを変異させようと……?


 俺はゆかりなさんに対して、どういう好きになっているのだろうか。

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