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ゆかりなさんと。  作者: 遥風 かずら
第二章:妹とヨメの狭間
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20.迫り来るYの想い 前編


 最近家でゆかりなさんと二人きりで留守をすることが増えた。彼女いわく、「ママとパパは夫婦水いらずの旅行に行ったよ」ということだった。


 嫌な予感がしないでもないが、何かの意図があって俺とゆかりなさんは二人きりにさせられているのだろうか?

 考えると闇にのまれそうなので思考を停止させることにした。別に今までだって妹と二人きりになることくらいあったのだ。それがほんの数日程度なら何も問題は起きないわけで。


「たかくーん! 今夜どうする?」

「ふぁっ!? ど、どうする……とは?」

「だからっ! 夕飯どうする? って話なんだけど、何かおかしなこと聞いた?」


 俺は何を考えていたというのか。二人きりに何の意識もしないって心に決めていたのに、出だしから自分に試練を課してどうする!


「ナニもナイヨ」

「いつ帰ってくるか分かんないけど、出前とか取るのってバカになんないよね?」

「二人きりだからね。コンビニのパ……」

「あ?」

「イイワケナイデスヨネ~」


 パンの話はゆかりなさんには禁句。パンとコンビニは、彼女にとってのタブーになったくらいの出来事と化してしまった。


「じゃあやっぱり、出前かファミレスに行くしかないんじゃないかな?」

「なんかさー、たかくんってとある選択肢から遠ざけようとしてるよね?」

「へ? な、何のことですか」

「わたし女子! 可愛い妹です!」

「はい、存じておりますよ?」

「男子って、その身近で可愛い女子の手料理を食べたいものじゃないの?」


 手料理なんてあり得ない。彼女の料理を食べることによって、記憶を失いそうで怖い。


「食べ……たいですね」

「じゃあいいじゃん! わたしが毎日愛を込めて作ってあげるよ。たかくん、わたしのクッキーを食べてすごい笑顔だったし!」


 クッキー? はて、そんな美味なるクッキーなんて食べたかな? 確か俺は学食で寝ていたはず。

 意識のとてつもなく深い所で、ゆかりなさんの手料理は危険だとさっきから訴えている。手料理を食べたことがないはずなのに、彼女の記憶では俺はクッキーを食べたらしい。


「毎日だと大変だから時々でいいよ。昨日はカフェで食べたし、明日……いや、数日後でもいいよ。今夜は俺お腹空いてないから必要ないよ」

「ふーん?」

「うん、だから本当に無理しなくて大丈夫だから」

「……分かった」


 た、助かった……か? 

 俺は見通しが甘すぎたことをのちに知ることになる。


「ねえ、たかくん。明日の晩御飯――」

「ごめん! 俺、初めてご飯に誘われたんだよ。だから、明日もごめん!!」

「それって誰に?」

「ゆかりんも知ってる連中だよ。と言っても話したことは無いだろうけど、俺のぼっち生活を無くしてくれた仲間だよ。パ……じゃなくて、いつもその手の話で盛り上がってるくらいに仲がいいんだ。嘘じゃないよ?」


 ゆかりなさんには間違っても言えないが、モソモソとぼっちでパンを食べていた俺をパン仲間に入れてくれた連中のことである。普段は滅多につるむことはないが、本当に偶然にたまたま……新作のパン食べ歩きツアーinコンビニに誘ってくれたので行くことにした。


「そうなんだ……そっか」

「う……ごめん。ほ、本当は行きたくないけど(いや、行きたいけど)、同じクラスの仲間(ぼっち集合体)との付き合いも重要だろ? それはゆかりんだってそうだよね? 女子友と遊びに行ったりするだろうし、それと似たようなもんだよ」

「行ってないし」

「え?」

「わたし、たかくんと一緒にいるほうがいいし。だから、最近は遊んでない」


 うおう!? お、俺の為にとか、こいつぁマジですかい? ううむ……どうしてゆかりなさんはこんなにも、俺のことを好きなのだろうか。


「そ、そっか。で、でも、まりかさんとか友達付き合いはあるだろ?」

「梓とのことがあって話さなくなった。仲を取り持つ予定が駄目になったから」


 梓ちゃん……名前こそ可愛いが、スポーツ万能イケメンでとても嫌な野郎だった。唯一認めているのは、俺が口にしていないゆかりなさんのクッキーを口にしたことだ。

 ゆかりなさんのクッキーはどんな味だったのか、それだけは聞いてみたかった。


 そもそも奴がいなければ、俺とゆかりなさんの関係はこんな風にはなっていなかった。小悪魔で可愛い妹だが、「好き」というワードを使って恋愛関係に進めるにはまだまだハードルが高すぎる。


「あー……」

「あ?」

「いやいや、そこでヤンキー風に凄まれても困るなぁ」

「明後日は作っていいよね?」

「えっあ……ま、まだ新たな予定が入るかもだから、明日にはきちんとスケジュール見ておくよ」

「スケジュール? いつも勉強しかスケジュール無い人が?」

「いやいやいや、俺だって遊びに行きますよ? はっはっは」

「じゃあ付いてく」


 何なんだ。どうして手料理を作りたいがためにここまで食い下がるんだ。何か回避手段は無いのか!? 俺の中の何かが警報を鳴らせっぱなしなんだぞ? 


 何か考えよう、何か……何かないのか。

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