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ゆかりなさんと。  作者: 遥風 かずら
第一章:ゆかりなさん
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13.ゆかりなさんの気持ち

 

「あれ? 俺は何をしていたんだっけ?」


「そこの学生さん、もう夕方だよ。早く帰らないと閉まってしまうよ?」


「へ? す、すいません。帰ります」


 むむ? 何で俺は学食にいたんだ? しかも授業もさぼってずっと寝てたとか、それは駄目な奴だ。教室に戻ってカバンを取りに行かねば。


「花城帰らねえの?」


「うん、もうちょっと」


 まだ教室に誰かいるのか? ……あれはゆかりなさんと奴! ど、どうしよう、入っていいのか? いや、俺のクラスに違う奴がいる時点でおかしい。ここはむしろガツンと注意をしないと駄目だ。


「こらー! 何勝手に俺のクラスに入って……? 誰もいない。確かにゆかりなさんと奴の姿を見たのに」


 あれ俺のカバンが無い!? まぁいいや。校門が閉まったら本当にシャレにならんし帰ろう。


「それ誰のやつ?」


「ん、うん。誰かの忘れ物だから、交番に届けようかなって」


「だったら普通、職員室とかじゃねえの? 教室の忘れ物を交番に届けたってそれは見つからないだろ」


「それは交番に行くまでに考えるし。梓は気にしなくていいよ」


「大事そうに抱えて、そのカバンが好きなんだな?」


「うん、好き」


 手ぶらで学校を出るだけで、不審者扱いされるとは思わなかった。


「ただいまー」


「おかえり! 遅かったね?」


「学食でずっと寝てたし、カバン持ってないからって先生に止められた」


「そっか、それは大変だったね。それってさ、最初から忘れてたんじゃないの? そこにあるのが高久くんのじゃないかな?」


 ゆかりなさんは、テーブルの上にあるソレに向かって指をさした。おう! ソレはまさしく俺のマイバッグではありませんか。ということは朝から忘れて行ってたのか!? い、いやしかし……そんなはずは。


「真面目くんのはずなのに意外に軽かったよ? キミのマイバッグ。今度から肌身離さずに持った方がいいと思う。今日はたまたまわたしが持ち帰ってあげたんだからね? そんなわたしに言うことは?」


「そ、そうだったんだ。そっかありがとう、ゆかりなさん」


 大したモノが入っているわけでは無かったけど、俺のカバンを親切に持って帰って来てくれたゆかりなさんを見ていたら、思わず自然に頭をなでなでしてしまった。


「――た、高久くん?」


「ごごごご、ごめん! ついつい嬉しくなっちゃって」


「ううん、許す。でも次は無いからね?」


「は、はい。ごめんなさい」


 そう言いながら、ゆかりなさんは顔を真っ赤にして自分の部屋に戻って行ってしまった。そんなに押さえつけるようにして頭を撫でたわけじゃ無かったんだが、思いの外強すぎたのか。


 翌朝になり、久しぶりにゆかりなさんと登校することを許可された。まさか昨日のなでなでが痛かったのだろうかと怖れていたが、そうではなかったようだ。


「行こ?」


「はい、行かせて頂きます!」


「……ねえ、高久くんにお願いがあるんだけど?」


「何でございましょうか?」


「それ、止めて欲しいなぁ……」


「どれでござい……」

「その言葉! それ、マジでやめてくれる?」


 そういや、いつからかゆかりなさんに対しての言葉遣いが全て変な敬語もどきになってしまっていた。それに対して彼女も慣れたのか何も言わなかったのだが、実は我慢していたのか? 


「分かった。じゃあ、これからは普通に話すけどそれでいいんだろ?」


「う、うんっ! その方がいい。高久くん、その方がすごくいいよ! 格好良さが増してる気がする」


 増している……ということは、今までがマイナス過ぎたんだな。そうか、だから呆れて何も文句も言わなかったんだな。妹に恥ずかしい思いをさせていた俺を許してくれ。


「それと……梓とは何でもないから。高久くんはマイペースに育ってね?」


「へ? わ、別れたってこと? てか、育つって何?」


「そ、そういうことだから、キミはそのままでいてよね? 返事は……?」


「あ、あぁ。分かった。ゆかりなさんがそう言うならそうする」


「うんうん、それでおっけ!」


 何でもないと言いながらも、梓はゆかりなさんに会いに来ていた。それも最初の頃よりも近い感じだ。


「おい、高久! 俺の授業で余所見をするとか、いい度胸だな?」


「げっ!? あ、スミマセン」


「お前だけが真面目に授業受けてんだから、頼むよ」


 俺だけが……とか、大袈裟のようだが事実、一番前に座っている俺だけが唯一の真面目生徒。俺の取り柄は勉強だけ。だからこそ頑張るしかなかった。


「高久、今日ってバイトか?」


「まぁな。それがどうかした?」


「新発売のパンとかオススメ教えてくんない? 俺ら、帰りに寄るから」


「分かった。じゃあ、放課後な!」


 今日は週一のあの人がシフトにいる日だ。怪しまれても嫌だから、俺はパン仲間にも協力をしてもらって、コンビニ限定の彼女さんとそのフリをしてもらうことを決めた。ゆかりなさんへ嫉妬を抱かせれば、悔しいという気持ちが彼女にも芽生えるかもしれないからだ。


「花城、一緒に帰るだろ?」


「帰るけど、今日で最後ってことにしてくれる?」


「何で? 限定期間が終わったってやつ? それは寂しいな。俺、結構好きになってんのに」


「気になる人が他にいるし」


「あいつだろ? あいつに気付いて欲しくて付き合うフリしてんのに、あいつちっとも気付いて無くね? そんな奴、放っておいてマジで俺と付き合わね?」


「とにかくそういうことだから、一緒に帰るのは今日で最後」


「……まぁいいや。帰るのが最後でも他で何とかするし」


 俺はいつものように張りきりながら高速でレジ対応。コンビニ彼女さんと笑顔で話し続けた。もちろん、レジ前の客はパン仲間である。


「花城、じゃあな!」


「バイバイ」


 そして俺とコンビニ彼女さんとで新製品のパンで盛り上がっていた時、どこからか視線を感じていた。


「――ど、どういうこと?」


「なるほどね~高久くんって意外に面白いね。それで、キミの好きな子って誰なの? 私と仲良くなって嫉妬させるとか、大丈夫なの?」


「それは平気っすよ。そもそも彼女じゃないし、悔しい思いをさせてみろって言われたかもなんで、それで協力してもらおうと思ってたんですよ。すみません」


「その子がそう言ってたの?」


「そんな気がしただけなんですけど、彼女も俺の知らない所で彼氏みたいなのを作ってたので、俺も彼女作りたくなりまして」


「そうなんだ。高久くんは面白いし、いい感じだからモテると思うけどね」


「いやーそれほどでも!」


 これはもしや周りから見たらいい感じに見える関係なのではないだろうか。パン仲間はパンを買ったらすぐに帰ったから、店内には俺と彼女の二人だけになっていた。これはもっと親密な関係を築けるのではなかろうか。


 そう思っているとお客さんが入って来た。そんなに上手く二人きりにはなれないらしい。


「いらっしゃいま……」


「ねえその人、誰?」


「えっ? ゆ、ゆかりなさん……えと、同じ店員の」


「ふーん? どういう関係?」


「そういうあなたは? 私は今さっき告られて返事をするところだったんだけど、彼は優しいし面白いから付き合ってあげようかなぁ? なんて」


「告った? 高久くんが……? え、だって――」


 ど、どうすればいいんだ。そもそも俺は告白すらしてない。何で勝手に挑発しちゃってくれてんの? そのフリをしてもらえればそれだけでいいと思っていたのに。


「ち、ちが――」


「ばか野郎っ!!」


 ええ? な、何でそんなに怒ってるんだ? 俺に彼女作れよとか言ってたし、友達を紹介してあげるとか言ってたくせに俺が勝手に作ったら怒るとか、どういう理屈だよ。俺も彼女を作って見せつけてみせなよって意味じゃなかったのか? 


「高久くん、アレやばいんじゃない? もう上がっていいから。すぐに追いかけないと、あの子どっか行っちゃうかも。変に勘違いさせたと思う」


「でも俺と付き合うんですよね?」


「私、彼氏いるし無理なんすよ。ごめん」


「おいおい……マジすか? ってか、行っていいんですか?」


「早く行かないと取り返しつかないぞ? 店長に言っとくから! おつかれー」


 彼女でもないのにあんなに怒って、妹は俺に何を求めてるっていうんだ。俺の気持ちを放置して、彼氏を作るとか、あの子の気持ちが分からないけど、追いかけないと駄目だ。

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