12.Yのメッセージ!?
ゆかりなさんの挑戦状をしっかり受け取った俺は、密かに着々と作戦を実行していた。彼女からの挑戦状すなわち、悔しかったらヤキモチを焼かせてみなさいよという俺の勝手な希望的憶測によるものである。
数日前に彼女と一緒に帰る時に「キモい」を連発されて身悶えるくらいに嬉しくなっていた俺だったが、あの時に聞き逃した「しい?」の全文は恐らく、「悔しい?」だったに違いないと確定した。
その悔しいという意味を俺なりに分析。要約すると、「妹に先に彼氏が出来て悔しい? 悔しかったら兄も彼女作ってみれば?」なんてことを言っていた……という結論付けをした。
「ねえ、キミのダイエット方法って何かな?」
「ええ、お教えしましょう。ですが、ひとつお願いがあるんです」
「うん? 何かな?」
「俺の彼女になってくれませんか? いやっ、体ごと退かないでくれませんか。とある事情で、とある彼女に見せつけたいだけなんです。シフトが合った日だけ、たった一日だけでいいんです。どうかお願いです」
「ふぅん? 彼女がいるけど、今はフラれてしまったと……なるほどねぇ」
「彼女じゃないですよ。でも、そんなもんです」
「いいよ、じゃあ交換条件ね。確実に痩せられる方法だけこっそり教えてくれるならその日だけ、そういうフリをしてあげる。優しいでしょ?」
「あ、ありがとう!」
かくして俺は同僚の女子に、そういう役をやってもらう約束を取り付けた。それこれも全ては、ゆかりなさんにヤキモチを焼いてもらうためである。
それはそれとして……今日の授業は調理実習。何の気まぐれなのかゆかりなさんは俺の為にクッキーを焼いてくれている。判明したのは妹様は料理が出来ないということだった。
しかし、俺が食べなければ彼氏役の彼が犠牲になる。具合が悪くなることが目に見えているから、そのまま看病する日々が――それはいかん!
「食べるの? 食べないの? なんか頭の中ですごくわたしをキレさせようとすることばかり思っているんでしょうけど、高久くんに食べてもらうために心を込めて焼いたのにひどいなぁ」
「と、とんでもございませんよ? 喜んで食べます! ゆかりなさんから作られた食べ物は俺の口に放り込まれる運命なんですから!」
「……じゃあ、あ~ん」
うおおお! こ、これは伝説の「あーん」ではないですか。どんな甘い関係ですか。そしてクッキーも甘いに決まっている。たとえ、見た目がボロボロに朽ちていてもきっと美味いに決まっている。
「……んーぐがっ!? ガガガ……こ、これは――」
「あっ、立ったまま意識飛んじゃった? 高久くん? おーい!?」
「センセー、花城さんがまた犠牲者を増やしました」
「ち、違うし。ただほんの少しだけ塩と砂糖を間違えただけで、クッキーとして成り立ってるし」
やはりそういうことだったらしい。ゆかりなさん本人に悪意などなく、本人の自覚なしに料理は成立したと思っているということなのだ。とは言え、俺にとって調理実習がトラウマとなったことを彼女は知らないだろう。
そしてまた一つ、クッキーに罪は無いが、クッキー恐怖症としてしばらく食べることが出来なくなった。いずれゆかりなさんからの愛情弁当を作って頂く予定の為に、料理も教えねばならんと意識を落とした俺は決心を固めた。
「ふふっ、高久くん。わたしのクッキーはキミへのメッセージだよ? 成長よろしくね」
俺の意識が回復し教室に戻った時、ゆかりなさんは穏やかではない女子に呼び出しを食らっていた。もしやこれはA関係か?
「花城さん、放課後に話があるんだけど来てくれるよね?」
「いいけど……」
「逃げんなよ?」
「は?」
誰がどう見ても梓親衛隊とかいう女子たちが、わざわざ俺やゆかりなさんがいる教室にまで呼んでも居ないのに乗り込んできた。
実はあれ以来(どれ以来?)、ゆかりなさんと梓が恋人として一緒にいる姿は俺の目からは捉えなくなった。そしてそうなると、相手側に今まで近付いていた女子たちは、ゆかりなさんの存在を知ってしまう時間が出来る訳で。
付き合ってるように見えないにも拘らず、彼女たちは脅威と見たのか、とうとう公開呼び出しを実行してしまった。
「花城さん、大丈夫? 先生に言おうか?」
「ううん、平気。先生とかそんなの必要ないよ。ありがとね」
むっ!? またしても強烈な視線を感じる。ゆかりなさんは俺をジッと見つめている。きっと仲間が欲しいに違いない。
いいでしょう、兄の役目を存分に発揮してやろうじゃないか。
放課後。ゆかりなさんは、数人の女子たちと共にひと気の無い学食にいた。確か呼び出しと言えば、体育館の裏とかトイレとか、校舎の裏とか人目のつかない所に呼ぶのが定番だった気がするが……時代が変わったようだ。
「ウチらの梓に毒を盛ったってお前だろ?」
「は? ……それ、クッキーなんですけど? 毒とかすごい失礼じゃない?」
「お前、自分で食べたのかよ? これ食べて、梓が飛べなくなったらどうするつもりだよ?」
「知らないし。っていうか、梓ってクッキーごときで飛べないとかヤワいの? それは予想外。っていうかぁ、それがどうかした?」
どうやら俺だけじゃなくて、自称彼氏のあいつも毒入りクッキー……いや、捻くれ曲がった愛のクッキーを頂いてしまったらしい。そして飛べなくなる可能性があると。
それはいいことを聞いた。飛べないなら俺も奴に勝てるかもしれない。
「このクッキーが毒入りじゃないなら食べてみろよ! いっとくけど、ウチらは食べない」
「分かるー。自分たちよりも美味しいクッキーだったらショックだもんね? そうなんでしょ?」
「ふざけんな! 毒クッキーなんて食べたくないだけだ。早く口にしな!」
「えー? 何で自分のを……あっ! それなら、他の男子に食べてもらって毒じゃないことを証明するけど、それでいいよね?」
ぎくっ……。くそう、やはりな。俺が心配で付いて来ていることはご存じのようだ。そして再び試練をお与えの様子。意識を落としてしまえばゆかりなさんは、梓の取り巻き女子たちにやられてしまうじゃないか。くっ……なんてことだ。
「高久くーん。こっち来て」
「はいっ! 行きます」
「じゃあ、ゆっくり食べて味わってね? わたし、毒クッキーなんか作ってないって証明してあげてね?」
「よ、喜んで……」
一口目は普通の味だ。二口目は、明らかに甘くなくて塩しか感じない……。クッキーとは多少なりとも甘いお菓子なのでは無かったか? それはともかく、味わうんだ。味わってゆかりなさんの愛を……。
「お、おい、何かコイツ、幸せそうにきしょい笑顔を浮かべてるんだけど……ど、どうやら毒は入ってないみたいだ。と、とにかく、梓にあまりちょっかい出すなよ? 特定の彼女とかそれはルール違反なんだからな! キモいそいつに関わりたくないし、ウチらは行くし。とにかく、そういうことだから!」
「勝手なこと言ってくれるなぁ。別に梓とは限定的な関わりなのに、勝手に相手になって来るとかいつの時代の話なんだか。んー……それにしても、高久くん。笑顔のままで意識を落としたんだね。頑張ったね。そんなキミにご褒美をあげよう。わたしの二度目のキスをあなたにあげる」




