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ゆかりなさんと。  作者: 遥風 かずら
第一章:ゆかりなさん
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11.ゆかりなさんの熱い視線


 俺は俺なりの解釈で、ゆかりなさんからの挑戦状を勝手に受け取った。そして俺が選んだ彼女もどき……いや、「お友達からお願いします」な相手を、バイト先のコンビニで見つけることにした。


「……というわけで、店長。誰か紹介してください」


「高久くん、彼女いるんじゃなかったっけ?」


「いえいえ、いないですよ」


「あれ? ……すぐやめていったけど、あの子とは別れたの?」


「彼女じゃないです……」


 かつて俺とゆかりなさんは、店員だけがお先に頂けるスィーツ目当てにバイトを始めた。しかし目的を果たした妹さんは、体調不良を理由に辞めてしまわれたのであった。本人曰く、接客は向いていないという理由だった。バイト経験があると言っていたのに、何のバイトをしていたのだろうか。


「しかし高久くん、どんな過激な運動を施したの? あれだけパンパンになってたのに。すごいね! キミのことは他の女性たちで一時期話題になってたから、話をしたい人はいると思うよ」


「本当ですか! じゃ、じゃあ是非、お近づきに……」


 話によると、俺の劇的な変わりようは女性たちからすれば、悪い見本といい見本という前例を作ってしまったとかで、密かに人気者になっちゃったらしい。


 そもそも店員自体は多くないが、同い年の女子店員もそこそこいて、週に一度とかしか来ていない人が興味を持っているという影情報を得た。


 ふっ……ならば、週一の女性とお友達になって、ゆかりなさんに仲良しな所を見せつけちゃうぞ作戦を実行してやろうじゃないか! 


「なにあいつ、コンビニでバイトしてんの?」


「うん、頑張ってる」


「客として入らないの? 俺らのことを見せつけるチャンスだろ」


「ここから見てるだけでいいし。それに、梓が高久くんに言ったことがすごく効き目あったし。だから、これ以上はいい」


「ふーん……よく分かんないけど、そんなにあいつのことが好きなのに、どうしてこんなことしてんのか理解出来ないな」


「……しなくていいし」


「まぁいいや。店の中に入らないなら帰るか?」


「先に帰ってていいよ。わたし、ここで見てるし」


「じゃあな、花城。それともゆかりなって呼んだ方がそれっぽいか」


「名前で呼ぶのは許可してないから。じゃあね、梓」


 むっ!? ど、どこからか視線を感じるぞ。どこだ……あっ! 外におわすのは、愛しのゆかりなさんではないか。もしかしてずっと俺を眺めていたのか? それともシフト上がりをお待ち頂いておられる?


「お疲れ様です、お先です」


 ゆかりなさんの視線を感じつつも、気付けばあれから2時間くらい経って夕日が沈んでいた。さすがにいないよな? 


 そもそも何故店の中に入らずに、ガラス越しであれだけ見つめていたのだろうか。家に帰ればいつでも会えるのに。


「……って、ゆかりなさん!? な、何で」


 裏口を出たら、そこには子猫が……ではなく、しゃがんだまま俺の顔をジッと見つめてる彼女がいた。


「やっ高久くん、お久しぶり! お疲れさまー」


「いや、家でも会ってるよね?」


「違うし。家は家。外とか学校とか、全然違うよ? 会えて嬉しい? 嬉しいでしょ」


 嬉しいに決まってるだろうが! などと口に出して言えるはずも無い。家で会ってるのとは違う? 


 何でこんなに長時間も俺を待っていられるのか、その根性論を是非ともお聞きしたいじゃないか。


「高久くん、一緒に帰ろ?」


「喜んで!!」


「なんか素直だね。何か企んでるのかな?」


「と、とんでもございません! 単にゆかりなさんに会えたのがとてつもなく嬉しいだけですよ?」


 クスッと笑う妹が何故こんなにも可愛いと思うのだろうか。出会って一年ちょっと。家族になってからそこそこ同じ空間にいるはずなのに、俺だけがこんなにも妹を想うとかおかしいのでは。


「――しい?」


 いやいや、待て待て。この想いをどこまで上昇させれば届くというのか。届かせたとして、その先の事は考えているのか? 答えろ、高久よ。分かっているぜ? 


「おい!!」


「へっ? っでででで! い、痛いデス」


 気づけば耳たぶを掴まれて引っ張られていた。


「わたしをシカトとはどういう身分なのか、言え!」


「身分と申されましても、一応、兄でございまして……妹のことを思い浮かべていただけに過ぎませんですことよ?」


「キモい!」


「ひ、ひどい」


「ウソだけど? あ、痛かった? 痛くしてごめんね。だって、キミと話をしたかったんだもん」


 ぬおおおおお! やめろ! その上目遣いは危険すぎるぞ。ゆかりなさんに発情してしまったらどうするつもりなのかね。「だもん」とか、それはあまりにアレだ、アレなんだ……。


「いやいや、ゆかりなさんに耳を引っ張られるとか、ご褒美以外の何物でもないんですよ? いや、嬉しいなぁ」


「うわ……それ、マジな奴? キモ……」


 あぁ、幸せだ。キモイとか言われてのことじゃない。妹と毎日登下校するのが当たり前だったのに、今はそれが無くなってろくに観察を……いや、彼女の傍にいられなくなった。


 それだけに少しの会話でも胸が勝手にどこかで踊っているなんて、俺の生まれは南国かどこかに違いない。


「あ、その……今晩の夕食は何かな? なんて」


「ふふ……あなたはどっちにする? パン、パン、パン、パン……それとも?」


「いや、パンは夜に食べませんよ? って、選択肢になってないぞ」


「それとも、わたしとか? なんて言うとでも思ったか? キモイ!」


「言ってないです……でも、ゆかりなさんにご飯作ってもらいたいです」


「あーうん……その内ね。あと百年くらいしたら?」


「アホか! 生きてないっての。ん? でも、作って頂ける機会はあるのでございますな。よかろう、ならば待とうではないか。ゆかりなさんがその気になるのをな! そしてその機会を早めるのを努力するぞ」


「頑張りなよ?」


「おう!」


 ゆかりなさんに自称彼氏のこととか聞けなかったが、そんなのは邪道だ。今は愛しい妹とこうして一緒に歩きながら彼女の笑顔やら小悪魔やら、その全てを俺だけが想いに刻めればいい。


 必ずゆかりなさんを俺の彼女にするその時までに。それにしても「しい?」はて、何のことを聞いていたんだろう。気になるけど楽しいから聞かないでおこう。

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