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ゆかりなさんと。  作者: 遥風 かずら
第一章:ゆかりなさん
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10.空気な兄と妹


「ねえ、ゆかりな。高久くんが気にしてるよ?」


「……みたいだね」


「喧嘩でもしてるの?」


「んーん、別に」


「ふぅん? じゃあ乗り換えるの?」


 あの二人は何を話しているというのか。もしやジャンプ出来るイケメンが気になっている!?


「そうだね、そうしよっかな?」


「え?」


「ねえ、まりか。梓をここに呼んで」


「う、うん」


 む? 奴を呼び出ししている? シメるつもりかな……ハラハラドキドキしちゃうぞ。


「花城が俺に何の用?」


「期間限定でわたしと付き合ってくれない?」


「花城って、他の奴と付き合ってるんじゃなかった?」


「そうだけど、倦怠期ってやつ。だから、距離置きたいんだよね」


「へぇ? じゃあオレにも協力してくれるだろ?」


「いいよ、それで」


「じゃあ、今から高久って奴のとこに行ってくる。それで合ってるか?」


「任せるし」


 まさかと思うが、俺とジャンプ力を競わせるつもりがあるのだろうか。それだととてもじゃないが勝てないが……おや? 奴単体が向かってくるのは気のせいか?


「ゆかりなは本気じゃないんだよね?」


「どうかなぁ」


「だって、梓くんは……」


「うん、知ってるし。期間が終わったら返すから心配しないでいいよ」


「高久くん絡みなんでしょ? また目隠しとかする?」


「それはもういいよ。今はとりあえず、梓に任せとくし。そしたら、必ずわたしに怒ってくるはずなんだよね。怒って来ないと駄目だし、そうしないとどこまで本気か見えないんだよね」


「好きなら好きって言えばいいのに。何で彼に無理難題なことをふっかけるのか、私には意味不明だよ」


 やはり世の女子とゆかりなさんは、スポーツ万能タイプに夢中になるものなのか。パン仲間の奴があまりに騒ぐものだから、俺もついつい梓とかいうイケメンを見つめていたら、以心伝心ですか? って感じで俺のところに向かって来るではありませんか。


 何故野郎同士で心が繋がらなければならんのか。


「お前、高久だろ?」


「俺が高久ですが、何か?」


「面白い奴だけど、それだけだな」


「何? 面白い以外に何がお望みなのかね? 梓ちゃんとやら」


「へぇ? 意外にムカつくね。まぁいいや、俺さ……お前の彼女と付き合うことにしたから」


 何だって!? 俺の彼女? はて……俺には彼女なんてそもそもいないはず。いやいや、落ち着け俺。


 彼女じゃないけど、同じクラス連中には彼女と思われているが、もしやそれか? 


「……いや、誰のことを言ってますかね?」


「花城だけど?」


 花城……聞いたことがある様な無いような。あっ……そ、そう言えば、ゆかりなさんの名字が確か花城だった気がする。いつもゆかりなさんとしか言ってないから、名字の存在をシカトしてたな。何てことだ。


「ふざけんな! そんなの認めるわけないだろ? いくら梓ちゃんだからってあり得ねー」


「ちゃん付けやめろ! マジでムカつく。てか、そういうことだから高久は今日からフリーな!」


「友達でもないのに呼び捨てやめろ!」


 そんな感じで梓ちゃんに掴みかかろうとする勇気と根性、そして体力は皆無だった。こう見えても俺は真面目な男子と先生の間では知られている。こんな下らないことで、目はつけられたくない。


 しかし妹でもあるし、将来の嫁でもある以上はコイツを許すわけにはいかない! 俺のゆかりなさんと付き合うとか、絶対認めない。何かの間違いとか嘘とかであって欲しい。そうじゃないと、また称号が泣きの高久に戻ってしまうじゃないか。


「うっうっうっ……」


「って、おい……高久、お前涙が滝のようだぞ? ま、まだ分からないんだし泣くなって! 梓って奴はモテるらしいけど、本気で付き合ったことないらしいし、高久が心配することはないはずだ。たぶん」


「ううう……」


 イケメンに泣かされた俺は素直に家に帰るしかなかった。帰ってからすぐに、兄妹喧嘩勃発ですよ?


「だからー言ってんじゃん! 梓と付き合うって。それの何が問題?」


「いや、あの……一応なんだけど、俺とゆかりなさんはクラス公認の恋人でございまして、それを覆すとなると、色々と問題がアレなんですよ」


「そうだけどわたしらは非公認で事実は異なるわけだし。そうでしょ? 高久くんはわたしにどうこう言う権利も強制力もないよね? 違う?」


「お、おっしゃるとおりです」


「じゃあいいじゃん! わたしが誰と付き合おうが、高久くんには無関係。それとも、キミはわたしに特別な想いでもあるのかな? あるなら答えてよ」


「そ、そんなのを今、家の中で……しかも親父とお母さんがいる前で言えって言うのかよ! それは違うだろ、マジで! お前それ、ズルいだろ流石に。ゆかりなさんはそういう所が――」


「なに? 言いたいことがあるなら言えよ? 高久くんにお前とか言われても嬉しくない! ってか、もうヤダ! 出てけー!」


「ここは俺の家! そしてキミの家!」


「ウザい! もういい! ふんっ」


 もの凄く深いため息をつかれて、ゆかりなさんは自分の部屋に入ってしまわれた。すかさずお母さんがダッシュで救援に……ではなく、説得に行ってくれたようだが、親父がニヤニヤしているのが気に入らない。


「高久。お前、早く仲直りしとけよ? じゃないと、取り返しのつかない事態が待ち受けているぞ」


「待ち受けられても困る! いや、俺が原因じゃないんだけど」


「だとしても、好きなんだろ? だったら悪くなくても謝れ。そんで、告れ!」


「それ親父が言うセリフじゃなくね? 一応、妹だぞ?」


「妹ってのは世間体でのことであって、別にそうじゃないわけだし。俺と母さんが許してんだぞ? お前もマジで本気になれよ。そういうことだから、頑張れよ」


 マジで本気って……同じ意味だっての。くそう、親父にすらバカにされるとは。しかしどうすればいいんだ。こうなればお母さまに全てをお任せしようそうしよう。


 その後、お母さんの説得により、ゆかりなさんの機嫌は良くなった。翌朝の登校も途中までは一緒だった。しかし――


「迎えに来たぜ、花城」


「うん、行こ」


 なんてやり取りが目の前で繰り広げられ、俺は空気となった。


「ポカーン……」


 そして教室に一人で入ると、信じられない光景が襲ってきたせいで、教室に入った途端に自分の足は一歩も動かなくなった。出入り口を占領していたのを見過ごせなかったのか、サトルが心配そうに声をかけて来た。


「おい高久? フラれた? 気をしっかり持って、そこから動け」


「ハハハ……フラれてなどないわー」


「お前の顔が強がりになってないぞ?」


 別れてもなければフラれてもいない。その前に付き合ってもいないのに、何故かみんな俺に優しくなった。パン仲間だけではなく、普段は関わりの無い同じクラスの女子までもが俺にお優しくなってしまった。


「高久くん。梓くんは次元が違うし、仕方ないよ」


 次元が違う? どこの人間だよ! それはともかく、周りは騒いでいるみたいだけど実のところ俺はあまり焦っていない。ゆかりなさんの表情を見ている限りでは、あまり楽しそうにしていない気がするからだ。


「なぁ、あいつ、ずっとこっち見てるけど。なんか言いに行くか?」


「余計なことしないでいい! 教室に着いたら自分の教室に戻れって言ったはずだけど? 見せつける場所なんて教室以外でもたくさんあるじゃん! 彼氏のフリをしてって言ったけど、騒がれるとか嫌」


「わがままだな。俺にはどうでもいいことなんだけど、高久って花城にとってどういう奴?」


「高久くんは……」


 むぅ……一体何を話しているんだろうか。俺のいる席は窓側だが、勉強好きな俺らしく一番前である。対して、ゆかりなさんは昼寝するにはバッチリな廊下側の真ん中あたり。


 ゆかりなさんは他の女子よりも小柄な上に可愛い……じゃなくて、なるべく目立たないように過ごしている。だが残念ながら、一番目立っているのが現実だ。彼女が目立ちたくない人間なのは見ていれば分かるが、梓とかいう奴が目立たせようとしているようで、かなり機嫌を悪くしている。


「ははっ! あいつ、花城にとって空気なの? だからさっきもあいつを置き去りにして俺と一緒に歩いたのか。それなら学食とか、帰る時とかに歩くだけで十分っぽいな。んじゃ、昼も一緒に食べようぜ?」


「昼はまりかたちと食べるし、帰る時だけでいい」


「……お前って、彼氏とあまり一緒にいたくない系?」


「何故?」


「――まぁいいや。じゃ、帰りに迎えに来るから」


「よろしく」


 お? 自称彼氏が出て行ったぞ。ゆかりなさんが明らかにため息をついているのが見えるんだが、あいつと付き合うんじゃないのかな? はっ!? ま、まさか、悔しかったらあいつに勝てと仰っておいでなのか? し、しかし、スポーツじゃ勝てませんよ。


 それとも、俺もゆかりなさんに見せつけられるような彼女もどきを作れというのだろうか。


「空気って無いと困るしあるのが当たり前なんだよ? わたしにとって高久くんはそういう存在。だから、梓は高久くんの為に働いてもらわないとね……」


 ゆかりなさんと見せかけ彼氏の梓か。帰る時は一緒に歩くはずだから、そこで俺の技を使うしかなさそうだな。空気な俺を舐めるなよ? 

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