リズとの出会い
あれから幾度となくモンスターに遭遇したが襲われることは少なかった。
この人と一緒だからだろうか。
「あの、名前を聞いてもいいでしょうか?」
「…リーズレット・シュトルム。リズって呼ばれてる。」
「リズさん・・ですね!」
前を歩く彼女の頬が少し赤くなるのが見えた。
名前を呼ばれただけで照れるなんて案外女の子らしいのかもしれない。
「あの、リズさんはどこから来たんですか?」
「私はトールレギオの出身よ。」
「ト、トールレギオ…ですか。」
「そうだよ?なにか不思議?」
「い、いえ聞いたことない地名だったものでっ」
(予想していた答えと違った。確かに日本人離れした綺麗な顔をしているがヨーロッパとかの地名が出ると思っていた。)
「聞いたことがないのも無理はないよ、ここからは随分遠くになるからね。トールレギオには剣術学校もあって私はそこの出だよ。」
剣術学校・・そんな施設まであるのか。
「次は君のことを聞かせてほしいな。なぜあんなところに?」
(実はゲームにログインしようとしたらこの世界に飛ばされてきたんです!!)
・・・・なんて言っても信じてもらえないよなあ、でも事実だし・・・・
「実は俺は別の世界から来たんです、気が付いたらこの森にいました。」
「異界人!?それが本当なら初めて会ったよ!」
彼女は少し驚きこそしたものの、その表情には興味の2文字が踊っていた。
信じているのかいないのか。
「そういえば君の名前を聞いていなかったね。なんて呼べばいい?」
・・・名前か。現実の名前もあれだからなあ。アクトってさっき呼ばれたしアクトでいいか。
「じゃあアクトって呼んでください!」
「わかった。・・アクト。」
彼女は微笑んで俺の名前を呼んでくれた。
これが現実ではないのがとても悔やまれる。
「違う世界から来たのならこの世界のことわからないんじゃない?よかったら教えてあげようか?」
「おお!!ぜひお願いします!」
この世界のことを知る願ってもないチャンスだ。
あの憂う者とかいう人には色々聞きそびれちゃったからなあ。
「まずこの世界はゼラムリット。ゼラム・ハーリットによって作られた世界。」
「ゼラム・ハーリット・・・・ですか。」
「ええ、ゼラムは創造する者。この世界では「クリエイター」と呼ばれているわ。クリエイターはその力で大地、海、そして命に至るまで全ての万物を生み出した。」
俺はその言葉にピンときた。
憂う者も俺のことをクリエイターと呼んでいた。
でも俺はそんな神様的存在じゃないしなあ。
「創造する者・・・じゃあゼラムが僕の世界で言う神様みたいな存在なのでしょうか」
「いいえ、ゼラムは人間よ。神は別にいたわ。」
(人間だって!?そんな人間もうチートじゃないか!!!)
「神は別にいた。ってなぜ過去形なんですか?」
「もういないからよ。神に代わってゼラムがこの世界に救いをもたらした。少し長くなるけど…聞く?」
「はい!お願いします!」
その昔、ここゼラムリットは全く別の世界だった。
その世界には「ゼダリウス」という神がいたそうよ。またの名を「永遠の神」。
私たち人間はその加護を受け生活していた。
ゼダリウスの力によって生まれる豊富な資源が底を尽きることはなく。永遠の繁栄がもたらされると思われていた。
・・・・だが違った。
ある日を境に作物は育たなくなり資源も枯れていった。
食料は底をつき人々は飢餓に苦しむようになった。
そこで人々は永遠の神に救いを求めた。教会には人々が押し寄せ神に祈った。
・・・・だが、永遠の神からはなにも与えられなかった。
そして人々はある結論に至った。
「もう永遠の神はいないのではないか。この世界は神に捨てられたのだ。」と。
人々は嘆き、悲しんだ。まだ神にすがろうとする者もいた。
・・・・神は残酷だった。
この世界には何も生まれなくなった。
草木は枯れ果て作物も育たない。魚も一切獲れなくなった。
極めつけは命が生まれなくなったことだ。
人間はもちろんこの世界に現存する生物はすべて子が出来なくなった。
人々は飢えに苦しみ次々と力尽きて行った。そしてそれだけでは終わらなかった。
追い打ちをかけるように生物の亡骸から病が蔓延し、大規模なパンデミックを引き起こした。
世界のほとんどの生物が死に絶えた。まさに地獄絵図だったそうだ。
そんな世界に1つの希望が出現れた。その希望の名はゼラム。
ゼラムが手を天に掲げると天に空が覆われんばかりの魔法陣が現出した。
そしてゼラムはこう唱えた。
「数多の精霊よ、大いなる大地よ。我は世界を破壊するものなり。古き楔を捨て新たな世界を創造する者なり。絶望する世界よ渇望せよ。神が与えし絶望を我が希望へと昇華しよう!我が名はゼラム!新世界を統べる者なり!」
ゼラムの詠唱が終わると魔法陣が赤く輝きゼラムへと1筋の光が差した。
「現出せよ!バルムンク!その力をもって世界を破壊し創造せよ!!」
・・・・そうしてゼラムによってこの世界は生まれ変わった。神のいない世界へと。
「バルムンク・・・・」
俺の頭からはその言葉がどうしても離れなかった。
リズはふふっと微笑んで話し始めた。
「バルムンクが気になるの?」
「あ、ああ、まあ。」
「バルムンクはゼラムが召喚した破壊と創造の剣よ。その剣の力で前の世界を壊し新しい世界を創造したと言われているわ。」
(破壊と創造の剣。そんな剣あったらもう最強じゃないか・・・。)
「神様・・・どこいっちゃったんだろうな。」
「それは私にもわからないわ。」
「そ、そうですよね」
(たしかに神様の部屋って言ってたあの暗闇に神はいなかった。)
そしてもうひとつわかったことがある。彼女には意思がある。自分で考えて行動し発言しているのだ。
初めはあらかじめプログラムされたAIかと思っていたが明らかに違う。なにより感情が存在している。
ここは本当にゲームの世界なのか。
「話が長くなっちゃったね。」
「いえとんでもない!おかげでこの世界のことがわかってきました。」
「お役に立てたならよかった。あとそれともう敬語は使わなくて大丈夫だよ。少しの間だけど一緒に旅した仲間だからね!」
「は、はい!」
そう言って微笑んだリズは女神そのものだった。
「さ、世界の事は教えたし今度はモンスターとの戦い方も教えちゃおうかな?自分の身を守れるくらいはね。」
「でも俺武器とか何も持ってなくて。使ったこともないし戦いなんてしたことないんだ。」
「じゃあド素人ってわけだね!」
おっふ!
女の子に面と向かってそう言われると軽くショック。
「いい?武器がなくてもこの世界には魔法やスキルがある、それを利用する。まずはアクトの魔法の素質を見てみよう。それによって発現する魔法も変わってくるんだ。」
「素質を見る?」
「そう。魔法を発現させるには素質が重要なんだ。まあ簡単に言えば魔法を使うためのベースだね。素質がないと魔法は使えないし人によって素質はもちろん違う。」
「なるほど、でも俺にそんなものあるのかな?」
「まあやってみよっか。これ両手で持って腕を前に突き出して。」
そう言うとリズは水晶玉のような小さな球体を取り出した。
俺は言われた通りに球体を手に腕を前に突き出した。
「いいね。じゃあ私に続けて詠唱して。」
「お、おう!」
「…魔の理を司りし精霊よ、我が生は汝のもの汝の生は我のもの。我が問いに答え、力を示せ!」
俺はリズに続いて詠唱した。
すると水晶の中にゆっくりと虹がかかっていく。
「なに…これ。私こんなの見たことない…」
リズは驚いているようだった。
「ちょ、ちょっと説明してくれよ!この球なんなんだ?!」
「初めて見たからわからないけど、普通は炎の素質だと炎が灯ったり雷の素質だと玉の中に雷が発生するはず。でもこれは…まさか!?」
リズはあごに手をやり少し考えるようなポーズをして口を開いた。
「あくまで私の予想だけど。つまりあなたにはすべての属性の魔法を使う素質があるということだと思う。この球体はMI「クリスタルゲージ」個人の属性を特定する道具よ。」
「全ての属性をか・・・あんまり実感湧かないな。」
「最初はそんなものよ。じゃあひとつだけ初級魔法の詠唱を教えてあげる。」
「詠唱やっぱり必要なんだな…」
「当り前よ!詠唱を通して精霊達から借りた力と自分の魔力と合わせて初めて魔法が発言するのよ!中には詠唱なしで使えちゃう規格外な奴とかいたりするんだけどね。まあとりあえず初級呪文からよ。今から教えるのは「ブレイブ」。身体強化の基礎魔法よ。詠唱呪文は「大いなる聖霊よ、我に世の理を超えし力を与えよ」これを口に出さなくていいから心の中で唱えてごらん。」
俺は言われた通り意識の中で詠唱した。
「ブレイブ!」
体を暖かな光が包み込む。力がみなぎるのを感じた。
「上出来ぃ!」
リズはウインクしながら親指をこちらに向けていた。
やはりかわいい。。。
「じゃ、その強化状態でモンスターと戦ってみようか!また拳で!」
からかうようにリズは笑みを浮かべている。
「やってやらあ!!!」
「あ!さっき戦ってたフェアリーラットだよ!」
少し先にさっき殺されかけたあのネズミのような生物がいた。
あのねずみうさぎ、フェアリーラットというのか、まあ白いし言われてみれば見えなくもない。
「くらえ!アクトスペシャル改!」
そう叫びながらラットに渾身の1撃を叩き込む。
それと同時に背後にいたリズからの冷たい視線も感じた。
先ほどとはうって変わってしっかり手ごたえがある。
1撃をもらったラットはゆっくりその場に倒れ、光の粒子になって消えていった。
おお!ゲームらしい!
「いい感じね。技名はともかくバトルセンスはあるみたいね。」
「あ、ありがとう。リズのおかげだよ!」
「ふふ、私はただ戦う手段を教えただけよ。」
リズが少し照れているのがわかった。照れ屋なのかこういうことに慣れていないのか。
まあどちらにしても可愛いことに変わりはない。
そしてなによりすごくいい人だ・・・
「まあ魔法はこれから君の行動で発言していくと思うから。がんばりなさい!あ、それと、私の魔力を見てごらん。」
「魔力を見る?」
「そう!おでこのあたりに魔力を集めて私を見てごらん。」
「・・・・あ!すごい!これは・・リズのレベル?」
「そう!これが「魔力可視」という魔力を使ったスキル。相手の強さを見ることができるわ。」
「レベル11。これがリズの強さか。俺は・・・2だ。」
「そうよ!さっきのモンスターを倒して1つレベルが上がったようね。」
センス。俺はどうにか他のことに使えないかと考えていた。センスと同じ要領で別のスキルを開発できるのではないか?例えば物質を透視したり瞳術みたいな催眠をかけたり。そうすればリズのことも・・・いかんいかん、リズは恩人だ。そんな不埒なことをするわけにh・・
「どうしたの?鼻の下が伸びてるよ?」
「!!!!!す!すいませーーーん!!」
「わ、私何も言ってないよ?」
驚いて飛び上がった俺を見てリズは戸惑いながら微笑んだ。
俺も一緒に笑った。いつしかリズとは完全に打ち解けていた。
「そういえばリズはこの森でなにをしてたの?」
「私は…ある人を探しているの。」
「ある人?大事な人なのかい?」
「ええ、私の育ての親よ。本当の両親は昔モンスターに殺されてしまった。そんな私を拾って育ててくれたのが父だった。」
リズの表情が曇るのがわかった。よほど父のことが好きなのだろう。
「時々思うわ。なぜゼラムは世界を作り変えた時モンスターを消さなかったのだろうって。そうすればモンスターに怯えることもなくなる。戦うこともないのに。平和でいいのに・・・」
今にも泣きだしそうになるリズを見て俺はそっと肩を抱き寄せた。あの笑顔の裏にそんな悲しみを隠していたのか。たしかにゼラムなら世界を作り変える時にモンスターの存在も消せるほどの力を持っていたのではないだろうか。しかし、それをしなかったのは何か理由があったのだろう。
「ごめんねみっともないところみせちゃって。」
「辛い時は泣いたっていいんだ。リズは女の子なんだぜ?俺より強くてもな!だから思いっきり泣いてまたその人を探せばいい。つらかったら俺も一緒に付き合うからさ!」
「え?…」
リズは少しきょとんとしていた。
そしてすぐにクスッと笑って微笑んでこう言った。
「ふふ、私より弱いのに私を手伝うの?」
「う、うるさいな!すぐに強くなってやるさ!」
「そっか、じゃあアクトが私より強くなったらお願いね。」
「うん!まかせてくれ!」
そのためには、まずは強くならないと。
俺がリズの心を救ってみせる。
「アクトはどうしてこの世界に来たんだろうね?」
「んーわからない。ただゲームしてただけだしなあ。」
「ゲーム?って?」
「あっこっちの話だから!気にしないで!」
(やっぱりこっちの世界にはゲームという概念は存在しないんだな。)
「友達と遊んでたら急に意識が遠くなって。気が付いたら暗闇にいた。」
「え?アクト友達いたの?」
「ど、どういう意味だそれは!」
「あははっ。なんでもないよ!」
リズはそう言うと少し距離を取って逃げる仕草をした。
「まあその暗闇でだな。俺はある人物?に会ったんだ。」
「人物?なぜ疑問形なの?」
「それは人の姿をしていたんだけどなんていうか。神様みたいな感じがしたんだ。綺麗な女の人なんだけどとても静かで大きな存在の輝きを感じた。」
「アクト、もしかしてその人憂う者とか言ってなかった?」
「言ってた。私は憂う者って。」
「え!本当に?まさか本当にいるの?ただの言い伝えだと思ってたのに。」
「誰なんだよあの人。」
「憂う者は世界を案じる者。神に等しい存在だけど神ではない、だから神ほどの力は持っていない。でも世界に脅威が迫った時に現れ、助言や救済等何らかの形で世界に干渉し支えていると言われているわ。そんな存在に会うだなんて、アクト本当にあなたは何者なの?」
「俺は俺だよ!でもここに来た目的は俺にもまだわからない。」
「そうだよね。ごめんね変なこと聞いちゃって、」
「いいんだ。でも今はリズに頼らなくても道を歩けるようになるのが目標かな。」
「そうね、じゃあ村で装備とかアイテムとか必要なものを買い揃えるといいわ!」
「おお!武具屋もあるのか!…でもお金なんて持ってないよ。」
(ほとんどのゲームは最初にある程度の武器とかアイテムとかお金とか貰えるはずなのにここは貰えないな。リズがいなかったらほんとどうなってたんだ俺・・・)
「そうだったわね。じゃあ私の「ゼル」(この世界の通貨)を少し…と言いたいところだけど、私に頼らないんだったね。」
「そう!お金まで女の子に出してもらうなんてそんなヒモに何てさすがになれないよ。」
「え?ヒモ?糸の事?」
「な、なんでもないから!気にしないで!」
(まさに今の俺の状態です!・・とは言えなかった・・)
「とりあえず。ゼルだけどクエストや素材を売ったりすることで稼ぐことが基本ね。レベル2のアクトには後者がいいよね。」
「素材か。さっきのフェアリーラットの素材とかどうだろう。」
「あの子の素材は安いからたくさん倒す必要があるね。」
「そっかぁ、がんばるしかないか。」
「モンスターを倒すのもいいけど素材は鉱石や果実、薬草とかもいい値段が付くのよ!」
「なるほど!じゃあ鉱石とかひろいまくればいいんだな!!!」
そう言って飛び出した俺は木の陰に淡い光を放つ石を見つけた。
(これ売れそうだな、拾っておくか!)
追いついてきたリズが不思議そうに俺を見ている。
「その石どうするの?」
「どうって、売るんだよ。」
「…その石は売れないわよ。ただの石ですもの。」
「え!?ただの石なの?!よく見て!めっちゃ光ってるよ!!なんか熱いし!!」
「それは魔法の影響を受けたのよ。誰かがこの近くで炎属性の魔法を使ったのでしょう。」
「そうなのか…じゃあ意味ないな。」
そう言って俺はその石をポイっと投げ捨てとぼとぼ歩きだした。
すると後ろで「カツン」という音がした。
振り返ってみると先ほどの石がなにかの鉱石に当たったようだ。
「なんだこの小さな石はやけに黒い色してるな。」
そう言ってその石に手をかけた。
「おっも!なんだこの石は!」
「待ってアクト!まだ下に埋まってるみたい。見えてるのはその鉱石の一部のようね。」
「よし掘り出してみるか!」
そう言って俺はその石の周りを少しずつ掘っていく。
「痛って~!指がなくなりそう!リズさっきの剣貸してくれない?」
「絶対スコップの代わりにする気でしょ。絶対いやよ!」
「ばれてたか。」
「当り前よ!!!」
「そういえばリズ、あの剣はどこにしまったの?見たところどこにも見当たらないけど。」
よく見ればリズは旅をしているという割に丸腰と言っていいほどあまりにも軽装だ。
「剣はここにあるわよ?」
そういうとリズの手に小さな魔法陣が出現した。そこから出現した剣には確かに見覚えがあった。
「この剣は聖剣レーヴァテイン。炎の聖霊スヴァローグの加護を受けし剣。これはトールレギオの王より授かったものよ。」
「炎の聖剣・・・すごいな。そんなものがあるのか。」
「この剣には炎を司る力がある。私にはまだまだ扱い切れていないけれどね。それとこの剣をしまっていた魔法陣だけど。あれはプレイヤーならほとんど持ってるMI、「収納空間」よ。亜空間を召喚して物をしまっておけるの。」
「そんなものまであるのか、MIってすごいんだな。」
「すごいよ!MIだけで戦うプレイヤーだっているのだから!」
「俺もいつかそのコーロスってやつ手に入れないとな!」
「少し大きい街のMI専門店に行けば売ってるよ。」
「おお!それまでにゼルを稼いでおかないとな!」
「そうだね!」
そう言ってリズは微笑んだ。
「あ!もう少しだね!」
俺の手ははぼろぼろになりながらもその鉱石発掘作業を止めることはなかった。
ついに全体像が見えた。
その鉱石は黒い色をしていてとても固かった。これは俺の世界で言う鉄に近い。
リゼのほうを驚いた顔をしてこちらを指さしている。
「アクト、これすごいよ!鉄鉱石だ!あの村じゃ高値で売れるよ!しかもこんな大きい!」
なんでもこの石は鉄鉱石というらしい。なんでも武器や防具を作る基本となる素材のようで駆け出しプレイヤーの村では重宝されるようだ。俺のいた世界での鉄に近い鉱石らしい。
「これならなかなかのゼルになるね!」
「ほんとうか!やりいっ!」
手がボロボロなことなど吹っ飛んでしまった。アドレナリンってすごい。
「じゃあ急いで村に向かおうぜ!!」
「待って!その前に。」
そう言うとリゼは俺の手の上に自分の両手をかざし、目を閉じて詠唱を始めた。
「偉大なる隣人大いなる聖霊よ、慈悲をもって我らにその加護をもたらさん。この者に治癒の光を。」
そう唱え終わると目を静かに開き唱えた。
「キュア!」
その瞬間ボロボロだった俺の手が瞬く間に治っていく。これが治癒魔法。
「ありがとう。リズって何でもできるんだな。」
「そ、そんなことないよこれは学校で習う基本の回復魔法なの。」
「なるほど。そのアカデミー俺も行ってみたいかも。」
「え!・・・アカデミーは入学を認められた子供しか入れないの。でも案内なら任せて!魔法とかは私が教えられる範囲なら教えるし。」
「そ、そうなのか。」
どうやら敷居の高い学校らしい。リズはもしかしたら俺が思っているより、お嬢様か名門の出なのかもしれない。
「もうすぐ村が見えてくるよ!」
「お!その村なんて言う村なの?」
「アルギスの村。アリエスの森に隣接する村でこの森を訪れるプレイヤーの拠点となっているの。店もギルドも宿屋もあるから不自由することはないと思うわ。」
ギルドとかも存在するのか。じゃあそこでPTとかクエストとか受け取る感じかな?
「じゃあクエストはギルドに行ったら受けられたりするの?」
「あら、よくわかったね!ギルドではクエストの受発注、PT編成だったり報酬の受け取りができるのよ。」
「クエストか。レベルが上がったら受けてみるよ!」
「そうだね。低レベルクエストもあるみたいだから試しにやってみるといいよ!」
大体は想像通り。とりあえず村に着いたら鉱石を売ってそのお金で武器防具、アイテムを買い揃えよう。それからなんとしても風呂に入りたい!戦闘と採掘で俺の体は汗と土でドロドロだ。これではリズに嫌がられてしまう。
「あ!見えたわよ!あれがアルギスの村だよ!」
俺の予想は土の上にテントを張ったり木の柵で村の周りを囲っただけの村を予想していた。しかしその村はモンスターの侵入を防ぐ強固な鉄でできた壁に囲まれ、家屋もとても丈夫なもので村というレベルをはるかに超えていた。
「これがアルギスの村・・大きいな。」
「ふふ、アルギスには人がたくさん集まるからね。それに合わせて村も大きくなっていったらしいの。」
「さすがは拠点。」
「じゃあ私は村長に君のことを話してくるからここで少し待っててね。このままじゃ門番の人に村に入れてもらえないから。」
「門番・・いよいよ村離れしてるな。もう村から町に名前変えたほうがいいのでは。」
そういうとリズは村の中に走っていった。
リズがいてくれて助かったな。このままじゃ村にも入れなかったのか?いやきっと入ることができてもお金もなかったしいろいろやばかっただろうな。
それにしても俺はこっちの世界に来てどれだけ時間がたっただろう。元の世界に戻れる感じがしない。
このゲームにはセーブやロードといった概念が存在しないのか?だとしたらゲームオーバーかクリアまで戻れない。そしたらいよいよやばいな。あっちの俺は大丈夫なのだろうか。
そうこう考えているうちにリズが走って戻ってきた。
「お待たせ!!村長に許可をもらってきたよ!ようこそアルギスの村へ!」
リズは両手を村に向けて俺に微笑んだ。
「ほんとにありがとな。」
俺も微笑んでリズに伝えた。