第1話 ゼラムリット
初めて書く作品になります。
文章力、表現力などまだまだ乏しいですがこの作品と共に成長していこうと思っています。
少しでも楽しいと感じていただければ幸いです。
気がつくと俺は暗闇の中にいた。
そこは無に等しい世界。
少し前まで俺は家でネットのフレンド達とMMO RPGをやっていた。1日で1番楽しい時間だ。
俺はというと、ゲームが趣味の28歳会社員。絶賛彼女募集中だ!!
「紅蓮の騎士アクト参る!」
そうチャットで叫ぶと真紅の装備に身を包んだ我がキャラが敵の懐に飛び込んで行く。
アクトとは俺の自キャラの名前だ。
そう、俺は中二病という病気を患っているらしい。
ちなみに今俺の中で流行っているのは固有スキルに勝手に自分で中二的ハイセンスな名前をつけて、そのスキルの発動と同時にチャットで叫ぶという上級技だ。
少し周りの目が冷たいがそんなこと気にしてはいけない。
そしてこの日は待望の大型アップデート当日だった。
俺はあらかじめ運営が出していたアップデートの情報から新たな装備、新たな強敵に胸躍らせていた。
「じゃあまた後でね!」
アプデのためのメンテ前。みんな続々とログアウトしていく。
俺もそろそろ落ちよう。
みんなにアプデ後に新コンテンツに挑む約束をしてログアウトする。
…静まり返る部屋で一人。
その静けさが俺を一気に現実へと引き戻す。
メンテが終わるのを待つ間仮眠という名の昼寝をすることにした。
社畜の俺は寝る暇を削ってゲームを楽しんでいる。
貴重な睡眠だ。
眠りに落ちるまで時間はかからなかった。
……世界が……崩れる
…早く……
誰かの言葉が聞こえる。
しかしそれはノイズのような音に邪魔されてかろうじて聞き取れたのは「世界が崩れる」という言葉。
もやもやしながら目を開けるとアプデ終了の時刻を過ぎていた。
やべえ!!
急いでパソコンを起動し、ソフトのアップデートを行いログインを試みる。
しかし、何度やってもインできない。
どうしてだ?
パスワードが間違ってるなんてことはないはずなんだが…
毎日のように入力しているログインパスワード。
間違うはずなんてない。
まさかこれがアカウントハックか?!
やられた!
最悪の展開が脳内をよぎる。
青ざめていると勝手にパスワードが入力されていく。
アカウントハックてこんな感じなのか?
いや、違うよな?
不思議な感覚を覚えながらも画面はサーバー選択画面へと進んだ。
あれ?
ふと違和感を感じた。
サーバーが一つ増えていた。
そのサーバーは「ゼラムリット」
……聞いたことのないサーバーだ。
アップデートの事前情報でもそんなサーバーの追加情報は出ていなかった。
みんなのいるサーバーに急ぎたいところだったが、もう俺はそのサーバーを選択してしまっていた。
…急に意識が遠のく。
なんだ、これ…?
体が熱い。
「この世界を壊して」
また声が聞こえる。今度ははっきりと聞こえた。
透き通るような女性の声だった。
「世界を…壊すだと?」
…………
そして今俺は漆黒の暗闇の中にいるわけだ!
こわいこわいこわいこわい。
いくらぼっちだからと言っていざ暗闇に1人放り出されると心細いことこの上ない。
さらに不思議なことは暖かくも冷たくもない。
上下の感覚も感じないのだ。
この暗闇は思ったより広いらしく適当にばたばたしてみた。
誰かいますかー!
叫んでみても反応はない。
よく考えろ。
俺はさっきまでゲームをしていたんだぞ?
これはこの前みたアニメのようなゲームの世界に入り込んでしまったというやつか!
うおおおおおおおお!
そこには非現実的なこの状況に興奮を覚える俺がいた。
でもちょっと待てよ。
感覚があるんだ。
音も「聞こえてる」んだ。
声も出せる。
アニメのようなバーチャルリアリティはまだ現実では開発されていない。
まさかその実験?
いや、その可能性は低い。
そのための機材なんてなにも身につけていない。
だったらここはなんなんだ?
俺はどなっちゃったんだ!?
突如不安が襲ってくる。
そして気になるのは最初から「聞こえていた」あの音。
炎が静かに燃えるような儚く悲しい音。
だが周りにはそれらしきものは見えない。
「よく来ましたアクト」
誰かが語りかけて来た。
この声・・聞き覚えがあるな。
どうして俺のキャラの名前を知ってるんだ?
「ここはどこですか!?そしてあなたは誰ですか!?僕は死んだのでしょうか!?」
「…ここはあなた方が神と呼ぶ存在の次元。そして私は世界を憂う者とでもいいましょうか。」
…まさにアニメやゲームのような答えが返ってきた。
予想通りすぎるその展開に俺は言葉が出なかった。
「もうひとつの質問ですが、あなたは生きています。」
その女性らしき影はそう続けた。
よかった…生きてるのか、そして夢じゃないんだな…
じゃあ俺の意識だけがここにいるということか?
「いえ、そうですが正確には違います。あなたの体はこの世界に適応出来るように作り変わっています。容姿も全て。」
じゃあこの体は本当の俺の体ではないということか。
ではここは本当にゲームの中の…
「あっ!さっきから聞こえるこの音はなんですか?とても悲しい音だ。」
「その音はいずれあなたの運命を大きく変えることになるでしょう。」
「運命・・・」
「この世界は崩れかけています。でもあなたならそれを止められる。いえ、正確には作り変えられる。」
…なんですって?
「さあ行きなさいアクト!クリエイターよ!汝に永遠の加護があらんことを。」
「え?え?ちょっと待って!!まだ聞きたいことが…クリエイターって!
遮るように視界が開ける。
なん、です、か・・・」
そこは見たこともないような世界。
とても非現実的。
そしてあまりにも美しかった。
そして俺が立っていたのは湖の上。
そう、水の上だ!
(水の……えっ水の上?!……これ落ちr)
ばっしゃーんと盛大な音を響かせて俺は湖に飲み込まれた。
(こんなオープニングありか…クソゲーの匂いがするぞ……。)
濡れた服を絞りながら湖から上がる。
俺は水面に映った自分の姿を見て驚愕した。
そこには齢18くらいの青年が立っていた。
え?誰これ?俺…なのか?…
炎のような瞳に黒髪。
イケメンとは言い難いが整った顔立ちをしている。
たしかに俺の体ではない…
俺これからどうしたらいいんだ?
とりあえず進むか?
まさかモンスターとか出ないよな?
いや、ゲームなら出るよなぁ…
………とりあえず探索してみるか!
不安はあったがこの世界への興味と好奇心の方が強かった。
体は変わっても意識等はそのままらしい。
少し走ってみると体が軽いことに気づいた。
前より速く走れるのだ。
「うひょおおおおおおおお!」
気持ちいい!
こんなゲームなら悪くない!
――――――うおっ?!
俺は盛大に転んだ。
いてて…なんだ?
後ろにはネズミのようなウサギのような白い生物。
俺のいた世界よりはるかに大きい。
かなりご立腹らしい…当然だ今俺が全力で蹴り飛ばしたのだから……!
(…どうする。戦うか、だが武器もアイテムもない。
……だったら素手で!)
武術など習ったこともないがこの体なら!
突進してくる生物に全力の正拳突きを放つ!
「必殺!アクトスペシャル!」
……決まった…!最高の正拳突きだ…!
ゆっくりとその生物が倒れて……あれ?
倒れ…ない?
その生物は何か頭上に光の玉を集めている。
(まさか魔法!?)
そう思った瞬間その光が放たれる。
…やばい!!
まさか魔法まで存在するなんて…!
不恰好な回避でなんとか避けることができた。
(待て待て待て待て待て待て待て。)
ちょっとゲームバランス悪くないか?!
序盤だよこれ?序盤だよ?!
敵強すぎない?しかも俺丸腰だよ?!
じりじりと距離を詰めてくるネズミ。
(…あっ死んだ(泣))
「危ない!!」
シュインッ!という風切り音とともにそのネズミが消え去っていく。
その後ろには美しい金髪の女性が立っていた。俺と同い年ぐらいだろうか。
現実の俺には縁のないような女性だ。
吸い込まれそうな青い瞳と目が合った
「あ、ありがとうございます…!」
「こんなところで危ないわよ。」
「す、すいません!(なんで謝ってんだ俺!)ついさっきこの世界に来た者でしてっ!」
それを聞いた彼女は見てわかるほどの表情で驚いている。
「あなたが言ってること嘘ではないようね。こんなところにそんな丸腰のプレイヤーが来れるわけないもの。」
こんなところだと?!まさかここはかなりの高レベルフィールドなのか?!しかもプレイヤーというワードがひっかかる。俺のほかにもあっちから来てる人間がいるのか?
「こ、ここはなんというところでしょうか?」
「ここは「アリエスの森」そしてこの世界は「ゼラムリット」というわ。」
ゼラムリット、その言葉にすぐにピンと来た。ログインしたサーバーの名前だ。ではやはりこれはゲームの世界。そう考えるのが妥当か。
「お困りのようでしたら町までご一緒しましょうか?このまま放ってもいけませんし。」
「お!お願いいたします!!!!!!!!」
俺は全力で日本の土下座を披露した。
こうして町まで同行させてもらえることになった。