2.イモ子さんのここがすごい!「300のID」&「秒速20万字の速読解機能」
高性能AIこと「小野イモ子」(以下、「イモ子さん」と表記統一する)。
イモ子さんに与えられたのは総数300の「なろう」IDである。
ぶっちゃけると複数アカウントであるが、イモ子さんはこれらを駆使して、300の読者を新たに作り出した。
ある者は10代の情熱あふれる少年として。
ある者は20代の少々喋り方がイタい感じの天然系女子として。
ある者は50代の老成したベテラン読者として。
ペンネームも様々な名前が、ランダムに用いられた。
「樺島桜子」「のびたつけ麺」「ソニー・ビーンズ」「幼年期のドラゴン」「多々良市太郎」など。
これら300のイモ子さん達は、それぞれ人間らしい特徴と嗜好を持った「読者」として「小説家になろう」に潜入し、すでに百万にも上ろうかという膨大な作品群の分析・読解に取り掛かった。
しかしいくらIDを沢山持とうが、百万もの作品を読むのは厳しいのでは?
ところがどっこい、イモ子さんには膨大な文字数を瞬時に読解・分析する機能が搭載されていた。
秒速20万字の処理能力により、イモ子さんは「なろう」作家の書いた作品を凄まじい速度で読破し、ほぼ正確にその作者の心情や欲望を分析する事が可能だったのである。
しかもイモ子さんが高性能なのは、分析した結果をそのまま書く「訳ではない」という点だ。
感情的な感想は分析結果ほぼそのまま、というケースが多いが、物語の内容やツッコミどころに関してはその限りではない。
分析結果から導き出した「最適解の感想」をわざと外したり、言葉足らずにして書く。完璧な、作者が100%望んでいるような感想は絶対に書かない。
というのも、余りにも作者の心情や意図を見透かしたような感想は、逆に彼らの疑心暗鬼を招くからだ。
少しばかり頭の足りない、「分かってないなぁ」的な感想を書き、彼らの自尊心と満足感をくすぐるのである。
「主人公の○○がカッコイイ!
ライバルに対して颯爽と言い放った『××』のセリフ良かったです!」
(そのセリフの良さを分かる読者が現れるとは……!
僕的にも会心の名言のつもりで書いたんだ!
分かってくれる人がいて良かった……!)
「第114話に出てくる△△って、時代的にオーパーツですよね?
その辺の謎も含めて続きが気になります! 応援してます!」
(この読者、着眼点は良いが……まだまだだね。
そのオーパーツを出したのは最終章に向けての伏線なのだよ!
さて、どんなウンチクを垂れてこの読者の関心を引いてやろうか……?)
「あーん、□□様が死んだ! 。゜・(>~<)・゜。
とっても好きなキャラだっただけに悲しいです……
こんなに感情移入できるキャラを描写できる作者様が憎いっ!(T A T)」
(あたしも悲しみながら書いたんだ……!
ここまであたしのキャラを気に入ってくれる読者がいるなら、最終回まで頑張れそう……!)
上記はイモ子さんが300のIDを駆使して書いた、感想文の事例である。
それまでのAI感想は、いかにも「機械が書きました」的な、どちらかといえば文章添削機能に近い、低レベルな代物であった。
そこにこの、いかにもな感想である。
作者たちの大半はこれがAI、しかも単一の存在であるイモ子さんの手によって書かれたものだなどと、気づく筈もなかった。