1.高性能AI搭載型自動感想送信システム「小野イモ子」爆誕す
近未来。
一大ネット小説サイト「小説家になろう」は登録者数150万を優に超え、今まで以上の「作品過多、感想不足」の問題を抱えていた。
秒単位で生まれては消えていく、新規作者の作品群。
新着小説がトップページに表示されるのは文字通り一瞬。もはや読者は多すぎる数の作品に目を通すどころか、存在に気づく事すら困難になっていた。
もちろん、埋もれた作品を探し出す方法はあるにはある。
しかしそれは「小説家になろう」に数か月はIDを置き、システムを理解した者だけが享受できる特権だ。
大半の読者は、そんな手間をかけてまで作品を探そうなどと考えない。
気軽に読めて、気軽に流せる。持て囃されるのはそんなインスタント食品のような作品が圧倒的に多い。
流行テンプレに則り、ちょいと読める文章を書ける者の作品は、そうでない作品の数倍のPV数とポイントを稼いでいる。
実際はそんな作品ばかりではないのだが、「なろう」を知らない人々からすればインスタントなテンプレ作品こそが「なろう」──そんなレッテルが相も変わらず貼られていた。
そんなある日のこと。
とある底辺作家が「ポイントは水、感想はパン」と題したエッセイを発表した。
この作品は一時だけ、それなりに好評を博したらしい。
だがその後がいけなかった。
「今の『なろう』に感想という名の食糧が少ないなら、革命的なジャガイモを作るべきだ!
ジャガイモとはすなわち……AIに感想を書かせる事だ!」
などと大々的にブチ上げてしまったのだ。
実はこの底辺作家がわざわざ書くまでもなく、「AIによる執筆や感想」は試行段階ではあるが実施されていた。
AIが書いた実験小説「ワシが育てた」は、「星仙一賞」の一次予選を通過していたし。
「ナンカクルブックス」なるレーベルではAIによる感想送信システムを開発・実施していた。
この底辺作家は、その辺の事情を知らないままエッセイを書いてしまったため、大勢の読者から袋叩きにされた。
「機械から感想なんざ貰っても嬉しくねえんだよ!」
「機械に書かせたら、俺たちに取って代わられるかもしれないだろ!?」
「目に悪い蛍光灯みたいな名前しやがって!」
などと的確な非難を浴びせられ、この底辺作家は失意のうちに姿を消し──
やがて忘れ去られた。
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しかし、である。
「小説家になろう」のユーザーにとって不幸だったのは、この底辺作家が書いたジャガイモのエッセイに、一人の男が目を通した事だった。
「ほう──ジャガイモが欲しいのか? ならば作ってやろうではないか。
飢餓に苦しむ『なろう』の世界に、ジャガイモを。
人間が書いた感想と区別がつかぬほどの、素晴らしいヤツをな」
邪悪な笑みを浮かべ呟いたこの男の名は、アクマ博士。
もちろん本名ではない。ペンネームだ。
この男、元なろうユーザーであり、底辺作家であった。その文章力は……まあ、お察し下さいなレベルである。
しかしながらアクマ博士、人工知能学会において卓抜した理論技術を持ちながらその考え方に問題があり、追放処分を受けた身であった。
そんな輩が「感想を書くAI」を作ろうと、思い立ったのである。嫌な予感しかしない。
かくして一年後。
アクマ博士はついに作り上げた。
「行くがよい。
高性能人工知能を搭載した自動感想送信システム『小野イモ子』よ!
その名の通り『なろう』の世界における悪魔の実、ジャガイモをバラ撒いてくるのだ!」
アクマ博士。人工知能学会の異端児にして鬼才。実は博士号は持っていない。
だが「小説家になろう」では、あくまで挫折した底辺作家。
故にネーミングセンスも底辺である。
ともあれこの日、高性能AI「小野イモ子」は爆誕した。
ちなみに日本史に出てくる「小野妹子」は男性の名前です。