七章 来る者、去る者
また誰か来るかもしれませんね、と言った時、ユランはその場しのぎのつもりであって、本当にそうなると予想していたわけではなかった。
だが、ユランの与り知らぬところで、確かに人は訪れていたのだ。
犬神様の薬がよく効いた、との噂が少しずつ遠くへ運ばれ、ユランがまだ行ったことのない別の集落から、はるばる薬を求めてやって来る。
ユランはヨギと共に巡回していた折、一番遠い民家にはなかなか行けないから常備しておくようにと一揃いの薬を渡したのだが、彼らはそれを、訪れるよそ者に売っていたのだ。
「あれっ、もう全部ないんですか? そんなに具合が悪くなっていたなんて」
久しぶりに巡回したユランが驚きと心配の声を上げると、家のあるじはごまかすようにへつらい笑いを見せた。
「それが、評判を聞きつけたよそのもんが、くれくれって来るもんで……犬神様んとこまで行かせるのは遠いし、あんまりお姿を見せちゃ、面倒なことになってもいかんでしょ。それで、うちに備えてあったぶんをね」
「そうなんですか。それじゃあ、今回は多めに渡しておきますね。もし足りなくなったら、遠くてもうちまで来るように教えてあげてください。あと、渡す時には間違えないようにして下さいね。飲み方も、ヨギさんが教えてくれた通りに、きちんと伝えて」
「へぇ、それはもう」
あるじが揉み手で答えた直後、外から荒々しい足音がやってきて、
「おとうッ! 犬神様が来てんのに、なんでアレを出さないのさ、渡すって言ってたろ!?」
顔を真っ赤にした娘が怒鳴り込んできた。ユランが首を傾げ、あるじはぎくっと身を竦ませる。娘はずんずん歩いて二人の間を通り過ぎ、板の間へ上がって奥に入っていく。
「あ、ああ、今から出そうと思ってたんだよ」
あるじが言い訳をしながら、ちらちらとユランを見て気弱な笑みを浮かべる。じきに娘が、両手にあれこれ抱えて戻ってきた。
「犬神様、これ、よその人たちが薬のお代にって置いてったもんです。本当は、菜っぱとか団子とかも貰ったんですけど、そういうのは日持ちしないからっておとうが勝手に食べちまって。ごめんなさい」
苦々しく言って、娘が父親を睨みつける。ユランは目をぱちぱちさせて、薬が化けた品物を眺めた。
干した根菜類や、芋、木の実などが多い。それに、おそらくは大変貴重であろう干し肉が少し。木彫りの犬を見つけて、思わずユランは小さく笑った。娘も同じものに目をやり、ちょっと表情を和ませたが、すぐにきりっと口元を引き締めた。
「もうちょっと頻繁に、こっちの方まで来てください。そうしたら、おとうが勝手にあれこれ自分のもんにしちまうの、止められますから。せっかく犬神様があたしらのために作ってくだすった薬を、よそもんに高く売りつけて、自分は畑仕事もしねえで楽しようとして……あたしがいる時はそんなことさせねえけど、ほかのもんは頼りになんねえし」
最後の一言はやや声を低め、奥の間にちらりと視線をやる。娘には婿がいるのだが、一昨年に大病をして以来すっかり心も体も弱ってしまい、家のことに意見する力まで失ってしまったのだ。
ユランはちょっと首を傾げて考え、いとも無邪気に提案した。
「だったら、ここでお薬を作ってよその人に渡して、代わりに畑仕事を手伝ってもらったらどうですか? 僕もそんなにしょっちゅうは来られないし、お薬作りだけやってるってわけにもいきませんから」
「えっ」
父娘が揃って目を丸くする。だから、とユランは説明を付け足した。
「僕が山とか畑で採った薬草を持ってきますから、洗ったり乾かしたりは、ここでやってもらうんです。畑仕事するより楽でしょ?」
悪意のかけらもなくそんなことを言われて、怠け者のあるじが赤面する。娘が弾けるように笑い出した。
「あっははは! 犬神様にまで、楽したいんでしょ、って言われちまったんじゃ、恥ずかしいったらありゃしないね! うん、でも、いい考えだ。うちの人も、外で鍬はふるえなくても、納屋で葉っぱや根っこを広げるぐらいはできるし……ほらおとう、しゃっきりしな! 一から十まで犬神様にお世話してもらおうなんて、甘ったれてる場合じゃないだろ!」
「誰もそんなこと言ってねえだろ……」
あるじはぶつくさ言い返したものの、さすがに少々情けなくなったらしい。ユランが持ってきた薬を眺めて、心配そうな顔になった。
「けど、わしらにもできるんかねぇ? わしらが触ったら、効き目が薄れちまやしねえか」
「大丈夫ですよ」
思わずユランは笑ってしまう。だってそれ普通の薬草だし、とうっかり言いそうになって、急いでごまかす。
「お薬が効くのは僕の力じゃないです。ほら、僕は元々ただのお使いなんですから。山の神様が恵んで下さってるんですよ、採ってきたら後は誰が触っても変わりません。ちゃんと手順とかを守って作れば、おんなじ効き目の薬になります」
そうか、なるほどねぇ、と父娘が納得する。ユランはほっとしながら、薬の代価を背負い籠にまとめて入れた。
「預かってくださって、ありがとうございました。もしまた日持ちしないものをお薬代に持ってこられたら、皆さんで分けてください。この辺りの人が何か必要だったら、自由に持っていってもらって構いませんし」
「駄目ですよ、そんなの!」
慌てて娘が止めにかかる。きょとんとするユランに、娘はきつい口調で言った。
「そんなことを許したら、おとうは何もかも自分のものにしちまうか、隣近所にばらまいて恩を売るに決まってます。これは犬神様がくだすった薬に、皆がお礼にって持ってきたもんなんだから、犬神様が受け取るのが筋ってもんです!」
そこまで言われてもなお、ユランは目をぱちくりさせている。
「でも、あるものは要るひとで分け合うものでしょ?」
当然の口調で言った彼に、もはや人間二人は何を言うこともできなかった。
ユランがそんな調子なものだから、いつの間にかその家が薬の販売を一手に担うようになり、外部からもたらされるささやかな富によって、近隣の生活が潤い始めた。
評判が広まるにつれて訪れる人が増していく。そうなると、消滅しかけだった集落から出ていく人が減って、少しずつ少しずつ、一帯は村らしい活気を取り戻していった。
犬神様の姿を見ようと奥地までやって来る者もいたが、だいたいユランは山に入っているか巡回に出ているかで不在だったし、畑仕事をしていた場合は、よそ者の匂いを嗅ぎつけた途端に隠れてしまう。
会えなかった者が不満たらたらなので、イダルはひとつの妙案をひねり出した。
祠を建てたのである。
「納屋を修繕するんじゃなかったんですか」
言われるがままに材木を用意したユランは呆れたが、ミカは可愛らしい祠がたいそう気に入って、嬉しそうである。
場所は川の上流、畑が終わって山に入っていく辺り――初めてイダルとミカが、迷い仔のユランを見付けた大樹の陰だ。両手でひょいと持ち上げられそうな程度の祠だが、それなりの格好は整っている。
「うふふ、ユランのおうちだね!」
中には入れないけど、と笑いながらミカがしゃがみ、屋根を撫でようと手を伸ばす。それを軽く払いのけたのは、隣のサダン少年だった。無愛想に「まだ乾いてない」とだけ言う。ミカはちょっとむっとしたが、すぐにぱっと立ち上がった。
「お花をお供えしようっと! 待っててね、ユラン! すぐ採って来る!」
ほら行こうじぃじ、と下僕のごとく祖父を従えて、小さな姫君が花を探しに行くと、祠の前には少年二人が残された。
サダンは黙ったまま、用意した刷毛で屋根や柱を塗っていく。塗料といっても上等のものがあるわけではなく、赤く脆い石を細かくすり潰して水に溶いただけのものだ。
意外なことに、祠をつくるとなった時、一番熱心に取り組んだのがサダン少年だった。集落を回って、大工仕事の心得が少しでもある大人や老人から話を聞き、自分でもあれこれと考えながら組み立てていった。
そのサダン少年が、祠に向き合ったまま、つぶやくように言った。
「おまえ、ずっとここにいるのか」
「そのつもりだよ」
ユランは少年の背中を見下ろし、慎重に答える。今はもう、少年の心中は以前ほどあからさまではない。寂しさや不安は窺えない。何を思いどう考えているのだろう。
じっとユランが待っている間、サダン少年は細かい場所を塗るのに集中する。それが済むと、彼はふっとため息をついた。
「でも、ずっとはいられないだろ」
「……?」
「犬神だって言っても、大人になるってことは」
ぼそっと言われたことに、ユランはぎくりと身を硬くする。神の使いと言いながらも、普通の生き物と同じく成長する。ならばいずれ、老いて死ぬのだろう。サダン少年はそう指摘したのだ。
一呼吸、二呼吸。心を静め、ユランはできるだけ平静に答えた。
「うん。そうだね」
「……だな」
「何を考えているんだい?」
「別に」
素っ気ない返事。それ以上詮索もできず、ユランは黙ってちょっと尻尾を揺らす。しばしの後、サダンが仕事を終えて立ち上がったのを機に、ユランは頭を下げた。
「ありがとう。祠をつくるの、手伝ってくれて」
「…………」
サダン少年は何とも答えず、ふかふかした茶色の頭をがしがし撫でて、そのまま自分の家へと帰って行った。入れ違いに戻ってきたミカが、不審げにその後ろ姿を見送る。
「ユラン、いじわるされなかった?」
「なんにもなかったよ」
小さいのに守護者気取りのミカが可愛くて、ユランは小さく尾を振った。イダルが縁の欠けた湯呑を祠の前に置き、ミカは摘んだ花をそこに活けた。
「これで、いつでもユランに会いに来てもらえるね!」
ユラン本人にではなくとも、『犬神様』には、ここに来れば『会える』――そういう意味だろう。そうだね、とユランは微笑んでうなずいた。
◆
小さな祠には、ぽつりぽつりと参拝の者が訪れた。外の者ばかりでなく、近隣の者も、ユラン本人に会えなければ祠へ回り、ついでとばかり山の神を拝む。
そうこうして、辺り一帯に山の神様と犬神様のことや、その特別な薬についてが知れ渡ると、役人の耳に入るのも当然の成り行きであった。
「これがその『犬神様』の祠か。薬については、都の薬草採りに教わっただけだ、と」
いかめしい顔で、役人が祠の前に仁王立ちする。まわりにはイダルとミカのみならず、サダン一家やニウルはじめ近隣の者が揃っていた。どうなることかと皆、一様に心配そうな顔で成り行きを見守っている。
徴税吏を兼ねる役人は口をへの字に引き結んだまま、ぐるりを見回した。
「確かに、山の神の恵みでもあったようだな。今年は去年にまして、畑の様子が随分と良いではないか。冬に死んだ者もおらんかったようだし、これは税を上げても……」
思わせぶりに言葉を切り、住民の動揺を眺めまわす。何かを隠している、というのが役人の直感だった。もう一押し脅せば、と役人が口を開いたところで、頭上からこつんと何かが落ちて、頭を直撃した。
「なんだ? ……木の実」
訝りながらのけぞった役人は、そのままぱかんと大口を開けて硬直する。その目の前に、樹上から大きな獣が飛び降りた。
ああ、と諦めの吐息がイダルの口から漏れる。ニウルとサダン少年が、役人を逃がさないよう、さりげなく後ろの方へ動いた。だが当の役人は、村人のそんな反応に気付くどころではなかった。
「なっ、お、狼っ!?」
二本足で立ち、大人の男を余裕で見下ろす巨躯の狼だ。それが服を着ていることの不自然も、これこそが『犬神』か、という考えも、役人の頭から消し飛んでいる。食われる、殺される、といった恐怖に全身を貫かれ、堪える間もなく腰が抜けた。
へたっ、と役人が座り込む。ユランはその前に屈み、じっと顔を覗き込んだ。
「ひっ」
琥珀色の鋭い目に間近で見据えられ、役人は縮み上がって後ずさる。そのまま祠に体当たりしそうになったので、ユランは慌ててそれを止めた。片手で役人の後ろ襟を捕え、ひょいと持ち上げて安全圏に移動させたのである。
「はわわわわわ」
役人が恐怖と混乱で口をぱくぱくさせる。それを見下ろして、ユランは小首を傾げた。村人を脅すのをやめさせたいが、さてどうしたものか。
「あの」
「ふゃっ!?」
「……あれっ」
話しかけようとして、はたと気付く。様々な匂いに紛れていたが、もしかしてこれは。
「干し肉、持ってます?」
「はいぃぃぃどうぞ差し上げますだからおらは食わねえでくだせぇ美味くねえですぅぅー!」
地元の訛りを丸出しにして叫び、役人は大慌てで帯に結わえた小物入れを開く。ぶるぶる震えながら差し出されたそれを、ユランはありがたく受け取った。
「わあ、こんな大きな干し肉なんて初めてです。美味しそうだなぁ! イダルさん、これ、お粥に入れて皆で分けましょう」
無邪気に喜ぶユランに、イダルが苦笑し、役人は涙目をぱちぱちしばたたく。
結局そのまま、役人は村人達と共に、戸外で鍋を囲んで肉入りの粥を馳走になるという、よくわからない事態になってしまった。
「なんじゃあんた、役人ってっても都者じゃなかったんか」
「あー、東隣のハルベツ出身で……十三歳でラク市に出て官吏の勉強始めたけども、成績悪くて都にはいっぺんも行ってねえんだ」
「そんでもこんなでかい干し肉が買えるんだ、ええ身分じゃのう」
「いや、それは……犬神ってぇから、ほれ、なんかあっても餌づ……いやその、ご機嫌を取れるかと用心のために、へそくりはたいて」
イダルや老サダンにねちねちいじめられながら、役人はちらちらとユランの様子を見る。その度にユランは律儀に目を合わせ返し、ぱさりと尻尾を振って見せる。何度もそれを繰り返した末に、役人はとうとう降参した。
「おらが悪かった……頼むから、そんな目で見ねえでくれ……」
消え入るような声で謝罪した役人に、村人達はどっと笑い崩れた。ユランは何がなんだかわからずきょとんとなったが、それでも、皆が楽しそうなので安心して警戒を解く。
「それじゃあ、イダルさん達をいじめるのはやめてくれますか?」
「い、いじめるだとか、人聞きの悪い!」
慌ててぶんぶん首を振った役人に、イダルはわざとらしく悲しげな声音をつくる。
「こんな何にもない貧しい村で、少ぅし黍の出来が良かったぐらいで、すぐさま税を上げようというんじゃからのぅ。年寄りに早う死ねと言うようなもんじゃ」
「やめてくれよ! 徴税人が勝手に税を上げられるわけがねえだろ、ちょっと脅かしただけじゃねえか!」
「ほぉ、今の言葉、しっかと聞いたぞ。皆も憶えておくんじゃぞ」
「ああもう! そうだよ、どうせおらァ下っ端だよ、だから不作で税下げてくれって泣きつかれてもどうしようもねえの! 憶えとけ!」
「ふん。いちいち言い訳がましい奴じゃ」
横から老サダンが追い討ちをかけ、役人が頭を掻きむしる。
そんな奇妙に打ち解けた雰囲気のうちに、それぞれが満足するまで食べ、鍋が空になった。鍋や器を洗いに皆が井戸の方へ移動する。その流れから外れて、サダン少年が役人に近付いた。
ユランは重い鍋を軽々持って行くところだったが、微かな話し声を聞きつけて耳をぴくっと震わせた。立ち止まって振り返ったユランの傍らで、器と匙を持ったミカも不審な顔をする。
「ないしょ話してる」
「なんだろうね。真面目な話みたいだけど」
二人がじっと見ている前で、役人と少年はしばし言葉を交わし、やがて少年は火の始末にかかり、役人がぶらぶらとこちらへやって来た。
ユランが無言で首を傾げ、相手から話してくれるのを待っていると、役人はややこしい顔でちょっと頭を掻いた。
「あー、ええと……騒がせて悪かったよ、犬神様。あんたがこの辺の者に良くしてくれてるってのは、話を聞いてわかった。都に知らせるようなことじゃねえし、あんたのことは黙っとくから、急いで山に帰っちまったりはしねえでくれろ」
もとよりユランはよほどの事態にならない限り、逃げ出すつもりはない。素直にはいとうなずき、それから彼はサダン少年を見やった。
「あっちで、何を話していたんですか?」
「ん、ああ、いろいろな。……町に出て、勉強したいんだと」
「えっ!」
素っ頓狂な声を上げたのはミカの方である。ユランは目を丸くしたものの、先日の祠でのやりとりを思いだし、なるほどと得心した。役人はうむと腕組みして続ける。
「もっと楽に耕せる道具の作り方とか、土に合った作物とか肥やしとか、役に立つ勉強をしたいそうだ。なんか薬草採りにあれこれ教わったんだってな? それで、もっとちゃんと勉強したら、暮らしが良くなるんじゃねえかって思ったらしい。犬神様にばっか頼ってたんじゃいけねえってさ」
ユランがいなくなったら、この辺はまた寂れて人の住まない土地に戻ってしまう。いつまでいてくれるかわからない『犬神様』を当てにしていてはいけない。だから、今のうちに。
そんな風に、サダン少年は言ったらしい。
そして、実際に彼は行動を起こした。
黍の収穫が一段落ついて、見慣れた島立ての並ぶ季節が巡ってきた頃だった。
川の向こうが騒がしい、と思ったら、サダン少年と父が怒鳴り合いながら道に飛び出してきた。
「また派手に喧嘩しとるのぉ」
イダルが呆れたが、ユランははっとなって、そちらへ駆けだした。川を跳び越えて対岸についたところで、少年が父親の振り上げた拳骨を避け、ユランを振り向く。
「ユラン!」
大声で名を呼ばれ、ユランはそばまで駆け寄ろうとしたが、強いまなざしに止められて立ち竦んだ。
「俺が帰るまで、頼む」
今までにない真剣さだった。ユランは声を出せず、こくりとうなずく。気迫に呑まれて父親もしばし動きを止めていたが、少年が身を翻して駆けだすと、呪縛が解けたように拳を振り回して怒鳴った。
「身のほどってのを知れ、てめえなんかが学問して役に立つか! 畑放りだしやがって親不孝もんが! 町でおまえなんかが……っ、この、馬鹿野郎!!」
涙まじりの罵倒を背に受けて、それでも少年は止まらない。どんどん小さくなっていく。ユランは深く息を吸うと、天を仰いだ。
オォォ――ン……
遠吠えが青空に響く。初めて聞くそれに、道のずっと先で少年が足を止め、振り返った。そして一度だけ大きく手を振り、今度はゆっくりと歩きだす。
少年の姿が見えなくなるまで、ユランはじっとその場で見送っていた。