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細々と商売をしながら、重りをつけての早朝、深夜の走り込みとスクワットは日課になっていた。それに僕は毎日文献に載っていた挿絵や説明文を調べながらにんじゃについて調べることも忘れてはいなかった。僕の心には幼い頃憧れたにんじゃへの想いとおじいちゃんの『ハクレはハクレでいいではないか』の言葉、それらが僕を支えていた。

調べれば調べるほど、にんじゃは僕に合っていると思えて嬉しくなった、僕は人と比べて特別小さいわけでもなかったが腕力は同世代の女の子よりも明らかに弱かった。

剣術が苦手だったのも木刀ですら満足に振ることができなかったから、戦う以前の問題だった。

足腰は小さい頃からの走り込みで十分鍛えられたとは思っているけど、足はそこまで速くない。


にんじゃが使う武器や道具は軽量なものが多いように思えた。当然軽い武器は攻撃力も小さいけど、どうせ満足に使えないものを使ったって結果は同じ。様々な理由からどちらにしても、一対一でも普通にやって僕が勝てるのは赤子や幼子くらい。

それならば、僕の非力を補うような道具を使えばいい。文献にも書いてある。


忍ぶのがにんじゃであると。


正々堂々と勝てないなら、使えるものすべて使えばいい。実力が無いことは恥だし、情けないとも思う。でもその恥を忍べば僕だって、にんじゃになれるはず、いやきっとなれる。


僕の調べたところ、にんじゃは相手の力を使い戦う方法がある、と書いてあった。体のバランスを崩させ、自分のバランスを崩さない。なるほど足腰の訓練はそのためか。僕はにんじゃの奥深さに触れるたび感動していた。


最後に、どの文献にも書かれていたことがある、それはにんじゃにとって一番大切だと思われることだった。実のところこれが一番自然に行うのに苦労した。



それは、言葉であった。にんじゃとはどの文献を見ても同じような話し方や独特の言い回しを使っていた。これほど色々な文献に載っているのならきっと一番大切に違いないと僕は思った。


「拙者」「にんにん」「~でござる」この3つは外せない。僕は寝る前に自然にこれらの言葉を使えるように練習している。にんじゃは闇に生きるもの、絶対に正体がばれるのを防がなくてはならないから…

僕はにんじゃとして活動するときの名前を「カクレ」とすることにした。文献の葉隠れの里というにんじゃの村の名前と、僕の名前に似ているから、こういうのはちょっと変えただけのほうが気付かれにくいのではないかと考えたからだ。


『拙者、名をカクレというでござる。にんにん。』うん、完璧だ。だいぶスムーズに言えるようになってきた。にんじゃとして動く日も近いな。

あとは、顔を隠す為のマスクと黒を基調とした服の用意、これも自分で試行錯誤しながら自作した。当然売ってないし、人に依頼すればそこから正体が分かってしまう。


そんな日々を繰り返し、僕はにんじゃになるべく努力を重ねた。




そして迎えた今日…


夜の闇を切り裂いて、僕はギルドの冒険者窓口へ向かった。

あ、今夜の窓口はサチルじゃないか。いや、ここを乗り切れれば僕はにんじゃとしてスタートを切れるんだ。自然に自然に…


呪文のように心に唱えながらサチルの前に進み出る。格好のせいなのかサチルは怪しい人を見るような疑いのまなざしを僕に向けていた。


『ここは冒険者用の窓口です、ご用件はなんでしょうか』

『せ、拙者はカクレと申すものでござる。冒険者の登録なるものをお願いしたく馳せ参じた次第でござる』


無言で不思議な顔をしている目の前のサチル、お互い無言で見つめあう。

『ええっと、冒険者の登録でよろしいのでしょうか』

『はい、それをお願いするでござる』


あまり文献通りでは意味が伝わらないのかな、今後は気をつけよう。

ギルドの仕組みは知っているけど、ここは初心者のふりをしたほうがいいかな。

『ギルドの説明は必要ですか』

『なにぶん、初めてでござるのでお願いしたい』


サチルは僕にギルドの仕組みを説明してくれた。

どの窓口でも同じだが登録した人にはランクがつけられる。

始めは鉄ランク、次に銅ランク、そして銀、金、白金とランクが上がっていく。普通の人が頑張って銀までいければ大成功と言われている。


ランクはそのレベルの依頼をたくさん達成し尚且つギルドから認められた場合にあがっていく。ランクの上の人の推薦も効果的である。

旨みが多い依頼はやはりランク上位の依頼なので、ランクを上げることはギルドに関わる者にとっては必須とも言えた。



『説明内容に不明な点はありますか』とサチルに聞かれ。

『はい、大丈夫です。でござる』ふと素に戻りそうになった。視線が痛い。


『それでは、こちらに記入をお願いします。名前とご自身のスタイルは必須ですのでお願いします。スタイルとは剣が得意なら剣士、重量のある武器が得意なら戦士といった具合になります』


僕のスタイルは決まっている。自信満々に記入を済ませ受付カウンターに用紙を提出する。


名前 カクレ スタイル にんじゃ


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