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仕掛けは上々、広間は真っ赤。演説も予想より静かなおかげで響き渡る僕の声。
意気揚々と威厳を持って予定通り、馬車の中へ…
この馬車は操作している人が外から見えない戦闘用小型をベースにしている、覗き窓をつけ、手綱を車内に引き込む仕様で馬の切り離しも車内から行える。
『ありがとうイシュトさん、助かりました』
黒い服を着て深めに帽子をかぶった人物が振り返る。
『ハークーレー、私を邪魔者扱いとはたいした度胸ね』
『サ、サチルッ』
手綱を放し、僕に飛びかかるサチル。マケイジさんの目にも留まらぬ早業、扉を閉めて狭い車内をものともしない動きで僕らを回避、手綱を手に取り馬車を南へ走らせる。
床に押し倒された僕の上から零れ落ちる滴…
『馬鹿、心配したのよ…』
『ごめん…』
それ以上の言葉は無く…馬車は街を駆け抜ける…
『2人ともそろそろ街外れだ、準備しな』
マケイジさんの声かけになんとなく救われたような気がしながら、下水の出口のある水場に飛び込む。馬は切り離され、火を残した馬車は轟音を響かせて激しく燃え上がった…
下水を僕を先頭に進んでいると、後ろから疑問が飛んでくる。
『そういや、俺たち真っ赤だっただろ。ここへの入り口ばれるんじゃないか』
『心配いりませんよ。ほら、自分を見てみてください』
灯りを後ろに向ける。
『あ、2人とも赤くない。どうなっているの』
『時間が経つと、色が消えて透明になるんだよ。空気中の成分に…』
『まあ、心配ないならいいや』
『その通りね』
仕組みの話しは難しいと思っているんだな。聞く気が無いなら無理強いはしないでおこう。
今頃、処刑場の赤色も綺麗に消えて、うわさ作りのネタになっている頃だろう。
『お帰りなさいハクレ様とおまけの皆さん』
家に戻るとイシュトさんが食事の準備を整えて待っていてくれた。
『ありがと…』
『何も、おっしゃらないで。無事に戻られただけで私は満足です』
『何が、満足よ。しっかり抱きついておいてよく言うわね』
『嬢ちゃんだって、馬車で押し倒していたじゃねーか』
『サチルさん、あれほどちゃんとやるからと言うから御者役を譲ったと言うのに』
居心地悪そうにマケイジさんに八つ当たりをする。
ひょいひょいと上手いこと逃げられているけど…
『まあ、どっちでもいいじゃねーか。飯食おうぜハクレ』
『そうですね。冷めてはもったいないですし』
『入るぞ』
店の方からクラッチさんが顔を覗かせる。
今日の役者が揃ったところで楽しい食事会が始まった。
『なんか、忘れてる気がするのよね…』
『どうしたの、サチル』
『思い出せないものは、大したことではないのであろう』
『そんなもんだぜ』
『うーん、そうかなぁ』
頭をひねる、サチルにイシュトさんが言った一言…
『あなたのお父様、このこと知ってるの』
『俺らは準備で忙しかったから連絡する暇なかったしな、ハクレ』
『私も、現場の指揮や材料調達に走っていたのでな』
『私は指示書通りのことしかしていませんよ』
『私、ハクレが無事なの言ってなかったわ…』
『モフィー、ハクレを失い、サチルは家出…俺は、俺はこれからどうしたらいいんだ』
『あなた、ハクレ君が死んだなんて縁起でもないこと言わないの、大物狩りに時間がかかっているだけよ。サチルだって年頃ですもの、友達と一緒にいるかもしれないでしょ』
『お前は知らないから、ハクレがハクレが…』
『もう、いい年して泣かないの。ギルドの職員さんが困るから仕事に行ってくださいね』
その日の夜、僕とサチルはエヌディさんの前で綺麗な土下座を披露したのだった。
それからしばらくして…
王都に謎の5人組が現れる。
その者たちは皇帝の印を刻んだ表情のない仮面を揃ってつけ。
黒装束をその身に纏い、王都の夜を駆け抜ける。
誰にも正体はわからないが、王都の誰もが知っている。
その者達は「にんじゃ」と呼ばれ。今日も人知れず人を助けているという。
【告白の手伝いから、地下組織の撲滅まで何でもやります。にんじゃ代表カクレ】
この看板を見たければ、ギルドに来るといい。きっとあなたのことも助けてくれるはず。
『今日はどんな依頼だ』
『店の決算帳簿が合わなくて困っているらしい。これは私とハクレが担当だな』
『じゃあ、私は両親に贈り物をしたい女の子の相談に行ってきますね』
『俺とお嬢ちゃんは最近流れてきた盗賊退治かな』
『えー私も女の子の相談がいいな』
『こっちは俺一人で十分だから好きにしな』
『じゃあ、週に一度のにんじゃタイム。張り切っていくでござる』
『『『『 にん にん 』』』』
5人組のにんじゃの活躍はまた別のお話。
『これにて終幕。また、逢う日までさらばでござる。にんにん』
完




