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侵入者とはいえ礼儀は必要か…
扉をノックして開ける。
『何者、こんなことをして生きて帰れると思ってはいないだろうな』
そこには黒いドレスアーマーを身につけた皇帝の母エリザ、その手には短めの槍…確かナギナタ。
気合の入った表情、いや鬼気迫るオーラは一歩引いてしまいそうになるほど。
怪しい格好、ここまで入ってくるとは…しかもノックだと、暗殺ではないのは明らか。あんな派手な音と光をわざと使うような者たち、目的はなんなのだ。
『皇帝の母、エリザ様で間違いは無いですか』
『いかにも。単刀直入に聞こう。目的は何だ』
仮面のせいで表情が読めない、語りも淡々としている。つかみどころが無い。
『前皇帝を殺しにまいりました、エリザ様。これだけ言えば貴女なら拙者の狙いがお分かりでは』
反射的に距離を詰め、目の前の首めがけてナギナタを振り下ろす。しかしそれが相手に届くことは無かった…
私の目の前には数羽の鳩が…部屋を飛びまわる。
『あの方が望んだのはどんな世なのでござろうか』
顔を上げたときにはすでに姿はなく。私は玉座の間に向かって走り出した。
これで、皇帝とエリザは玉座の間に来るはず。頭に地図は入っている、最短距離を駆け抜け目的地を目指す。
『おう、アギョウ遅かったな』
『あら、ウンギョウ早いですね』
たどり着いた時にはすでにマケイジさんが待っていた。
『あまりに、手ごたえが無くて予定より早く着いちまった。それにしても途中の兵士。あのセンスはどうかと思うぜ』
『話しは中でしますかね。あれ、いいと思ったんですけどね』
『俺があれやられたら相当凹むぜ。トラウマものだ』
2人してゆっくり玉座に近づきながら話をする。
『それ以上、あの人に近づくことは許さない』
肩で息をしながらエリザは鬼の形相でこちらを睨み、声をかけてくる。
僕らは歩みを止める。
『離れなさい、今すぐ』
『それはできません。先ほどの言葉、考えていただけましたか』
『離れなさい。お前達のようなものが近づいていいものではない』
これは駄目だ、話ができる状態ではないな。
『ウンギョウ、お願いします』
黙って、玉座を斜めに切り落とす。
エリザの悲鳴に似た叫び声が響き渡る…
崩れ落ちるエリザ。静けさが辺りを支配する。
『僕の両親は前皇帝の周辺統一の際にここにいるウンギョウに殺されました。両親は争いごとは嫌いな性格だったようです。私は両親の顔も知りません』
エリザは顔を上げ、こちらを見据える。
『お前はなぜ両親を殺した者と一緒に行動しているのだ』
『僕は両親の最後を、この男と両親の親友だった男から聞きました。誰かが大陸をまとめれば大きな争いは無くなり平和が来ると信じていたようです』
黙って聞く2人、しばらくして僕は続ける。
『前皇帝の真意はわかりません、それでも平和を求めていたと私は信じたい』
あなた…
私は、何をしていたの。あの子が生まれた日、そういえばあなたは言っていたわね。
『俺は、次の時代に平穏をもたらしたい。多くの犠牲を払っても』
戦争に明け暮れ、多くの血を流させ、政務に没頭し、会話も無くなって…そして私達を置いて逝ってしまった…
私は、あの人の想いを理解できず、今も…あの人の影を椅子に重ねて…もうあの人はいないのに。
ただ、現実を見たくなかっただけ、椅子とあの子にすがることで考えないようにしていただけ…
悔しい、こんな侵入者にあの人の想いを語られるなんて…情けない…
『私はあの人の妻として間違っていたようです。しかし、これだけの騒ぎを起こしてただで済ませるわけにはいきません』
『でしょうね…当然ですね』
この落着きは一体なんなのでしょう。わからない、この者たちの考えていることがまったくわからない…下手すれば命を取られることになるというのに。
『私から提案があります。聞いていただけますか』
『話してみなさい』
『私達を公開処刑していただきたい』
びっくりした、何て大きな音だろう、寝ようと思ってたのに目が覚めちゃったよ。
窓の外を見ると、さっきと同じ大きな音と目の前に広がる色とりどりの光…綺麗だ…
『皇帝陛下、ご無事ですか』
『マルス、見たかいあの光。とても綺麗だったよ』
『それどころではありません。何者かが城内に侵入したようです』
マルスは真面目すぎてつまんないだよな。
『じゃあ、そいつらに会いに行こう。こんな綺麗なものを作るなんてきっと面白い奴に違いないからさ』
後ろから3回目の大きな音…気がつくとマルスが僕を抱えていた。
『陛下、お怪我はございませんか』
『僕はなんとも無いよ』
マルスは素早く窓から外を確認する。
『マルス、頭の後ろが焦げて丸くはげちゃってるよ』
僕はおかしくておかしくて、床を転げまわる。
『陛下がご無事ならばこれくらいなんということはありません。陛下の身になにかあれば亡き先代皇帝陛下に申し訳無く』
マルスはほんとにつまらない…




