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『こいつを見てください』
『ほぉ、おもしれーな。頭からかぶるのか。どうだ、似合うか』
『バッチリですね。こんなのもありますよ』
『おおー俺はこっちの方が好みだな。この表情、質感なかなかだな』
『それは般若というものですよ。頭からかぶるのがベールです。まだまだ色々ありますからいくつかもって行きましょう』
『なんだろうな、不思議な気分だぜ。子どもの頃みんなで出かける準備していたことを思い出すな』
『おやつは無いですよ』
『何だ、ねーのか』
お互い顔を見合わせて笑いあう。僕は自分の装備品の準備をしながら訊ねる。
『マケイジさんは何か必要なものないですか。ある程度のものなら今から作りますけど』
腕を組み顎に手を当てて考えている…しばらくして顔を上げる。
『軽い篭手が欲しいな。腕やられるとどうにもならないからな』
作業場の奥から、数点の篭手を出してきて並べてみせる。
『金属の肘まであるタイプと手首中心で腕輪のようなタイプ、中身は金属の棒でかなり軽いです。一押しはこれです、木でできています、肘までありますが表面におろし金のような金属板が貼り付けてあり、木自体にも圧縮処理で強度もかなりあります。軽さはダントツです』
『最後のにしよう。見た目もごつくて俺好みだな。借りてくぜ』
『あげますよ。どの道ベースが木なので長期間の使用は難しいですしね』
『そうか、なら遠慮はしない。それにしてもお前の装備は何に使うかよくわからんものが多いな』
『基本、相手は殺さないので無力化することが必要です。静かに、そして派手に…』
『お前、実は性格悪いじゃないか。楽しそうに悪い顔しているな』
『マケイジさんには言われたくないですがね。作戦中の呼び名ですけど、僕はアギョウ、マケイジさんはウンギョウで行きますから』
『へいへい。意味はわからねーが何でもいい』
他愛の無い話をしながら、当日の動きと役割を確認した。お酒を飲みながらの準備は夜遅くまで続き、時間はあっという間に過ぎる…
『ハクレ、準備が出来た。行こうか』
『クラッチさん、変更点はないですか』
『無い。すべて予定通りだ』
僕らは大きな荷馬車の中に隠れ、クラッチさんは馬車を走らせた…
『ママー、お城って本当にできるのかなぁ。早く欲しいんだけど』
『慌てなくても大丈夫、あなたは偉大なあの人の息子にして今の皇帝。心配は要らないわ』
私のかわいい息子…あの人が残してくれたこの国。私がしっかりしなければ、これ以上何も奪わせない…
『今日は、王都一の商人があなたに会いたいと言っているのよ。きっとあなたを喜ばせてくれるわ。きっとね』
『ママ、いつ来るのそいつは』
『夕方には来るわ、楽しみに待っていましょうね』
それにしても、このタイミングで話しとは、城のことしか考えられない…どこから漏れたのかしら。警戒は必要ね…
息子の部屋を後にして、玉座に座る…
『マルス、夕方の皇帝への謁見。この間の警備は大丈夫でしょうね』
『ご心配なく、この間へは商人1人しか通しませんし、荷物は全て中身を確認してから運び入れる予定になっています』
『よろしい、相手はかなり頭が切れるようです。注意なさい』
『了解しました』
この国も徐々に変わってしまっている…あの人がいた頃はこんなこと指示を出さなくとも警備が強化されたものだったわ…平和、といえば聞こえはいい、でもあの人が築き上げた強い帝国は時の流れと共に失われていく…
『あなた…』
私がしっかりしなければ、私が…
馬車に揺られながら、マケイジさん改めウンギョウと最終確認に入る。
『では、ウンギョウ』『何だ、アギョウ』
『呼び方はよしですね』『これくらいは忘れないだろう』
『では、初めが肝心です。クラッチさんが城門の兵士と話をして気を引いてくれているうちに詰め所と反対側、向かって左にある使用人用通路へ抜けます。この時間は夕食の準備で使用人はいないはず』
『それで、そのまま奥の倉庫に一時的に隠れるんだろ』
『バッチリですね。後は夜まで隠れてからです』
『もし、人が来たら…』
『イシュトさんの情報では、夕食の準備のために使用した後は翌朝まで人が来ないそうです。倉庫というよりは食料庫のようですから』
『その情報は間違いないのか』
『僕はイシュトさんを信じますよ』
マケイジさんは両手を上げて『はいはい』っと言っておどけて見せた。
後は、クラッチさんのお手並み拝見だな。そろそろ城門に着く…
さて、まずはこの城門が全ての始まりだな。ここでミスるわけにはいかない…
茜色の空の下、大きな荷馬車を操縦する、思えば自分で荷馬車を操作するのはいつ振りだろうか。まだ、駆け出しだった頃を思い出す。あの頃はただただ必死だった…自分より経験も年も上の商人たち相手に時にへりくだり、時に罠にはめ、侮られないように、生きる為に…できることは何でもやった。
それが今、金にならないこんなことをやっている…ハクレ…なぜだ、何が私を惹きつける。
いや、今はそんなことはいい。私にできることをするだけだ。




