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イシュトさん、ありがとう…貴女のおかげで僕はすぐに動き出せる。
あのペンを贈ったあの日から準備に取り掛かることが出来た。お世話になった人達、育った街を潰させはしない…
『ハクレ、お前はどう動く…』
『クラッチ殿、以前の借り返してもらうでござる。マケイジ殿大物狩りの約束、一狩りいくでござるか』
『なにを考えている。そして私は何をすればいい』
『にんじゃ、珍しく悪い顔してるじゃねーか。どこでも付き合うぜ』
僕は2人に耳元でささやき伝える。
『正気か。しかし、すぐに手配しよう』
『おもしれー、そいつは大物だ。いつ行く、楽しみだぜ』
『では、クラッチ殿の準備が出来次第。狩りに行くことにするでござる』
僕は1枚の大きめの紙に筆を走らせる。
それを持ち、店の外へ
「店主、大物狩りの為しばらくお休み致します」
3人でその張り紙を眺め。誰からともなく笑い声が始まる。
『では、2人ともお願いしますね』
僕は1人、あの人のところへ向かう…
不思議なあの人、只者じゃないのはわかる…それはアンナさんの影響なのか、それとも…
そんなこと考えてもどうしようもない。僕に知る術はない…ただ、あの人の好意に甘える必要がある。
あの人は力を貸してくれるだろうか、僕から渡せるものはほぼないだろう、それでも去り際のあの言葉に甘えてもいいのだろうか。今日も空は雲ひとつなく、時折鳥が頭上を駆け抜けていく…風が気持ち良いな。
夜はにぎやかな色町も昼間は普通の街並み。各お店に品物を配達する商人や、洗濯物を干したりしている、子供が走り回ったり。
血の上の平和…
僕にできることは、なんだろうか。
扉を叩く…目の前で静かに開く、そこには真剣な表情のイシュトさんが立っている…
『お待ちしていました。準備はできています。これが貴方が必要としているものです』
紙の束を受け取っていいものか、僕がためらっていると僕の手をそっと取り。僕に受け取らせた。
『何も言わないで受け取ってください。私は貴方の為にしたくてやったこと…』
『この恩には必ず、お返しをします』
『いりません』
『1つ、お願いできるなら。今、抱きしめてください』
僕はイシュトさんを抱きしめる…
『今は、これで十分……ご無事を祈っております。心は貴方のそばに』
お互い目を見て、小さく頷き。僕はクラッチさんの店に足を向けた。
『クラッチさんをお願いしたいのですが』
『失礼ですが、お約束はおありでしょうか』
『いいえ、ハクレが会いたいとお伝えください』
『その必要はねーぜ。こいつは俺が旦那のところに連れて行く』
店員は僕とマケイジさんに軽く頭を下げ、仕事にもどっていった。
店の奥に進む僕の前の背中ははしゃぐ子供のように楽しそうだ。
扉を開け、中に入る。
『ハクレどうした、今日の今日で何かいい忘れたことでもあるのか』
『これはイシュトさんから頂いたものです。詳しくは見れていませんが、少し見ればこの情報の価値がわかるはず、見てみてください』
クラッチさんは紙の束に凄い速さで目を通す。
『これは…こんな内容、アンナめ…こういうことか…』
『1日時間を貰いたい。明後日の夕刻までに段取りを整える。この私が一番最後…まさか出遅れるとは…悔しいが最善を尽くそう。マケイジ、ハクレと共に行け、細かい段取りはハクレに聞け』
クラッチさんは紙束の中に数点しるしをつけ、一枚のメモ書きを書き、僕に渡した。
『必要な内容は把握した、私の動きは印とメモに書いてある』
2人で店を後にして僕の家に向かう…家に近づいた頃…
『なあ、ハクレ、もし正体がばれれば俺もお前もタダじゃすまないだろう。この狩り、俺に任せる気はないか』
『無いですね』
『そうか…』
『あ、ハクレ。大物狩りってなによ。危ないことじゃないでしょうね』
『サチル、違うよ。大丈夫だから』
『う~ん、パパも急に本部に行くからって慌ててたし。なんか変な感じなのよね』
いつもながら勘がいいな…
『こちらはマケイジさん、お父さんの仇で昔、エヌディさんを倒したこともある人だよ』
『おい、ハクレその紹介は正しいが色々誤解を招くぞ』
サチルは無言で家に戻ると愛用のロングソードを握り締めマケイジさんに一直線に向かっていった。
『父親そっくりだな』
振り下ろされたロングソードを真っ赤な鞘で捌き、サチルの剣は地面すれすれで止まった。
『なかなかやるわねあなた。もしハクレに何かあったら次は真っ二つにしてあげるわ』
『気性も父親そっくりか…』
『何も無いからね。でもこの人の強さはわかったでしょ、僕の安全は保障されたようなものだよ』
『まあ、いいわ、なんか考えてるんでしょ。いつもみたいに。ハクレが大丈夫って言うなら大丈夫でしょう』
ロングソードを肩に担いで自宅に戻っていくサチルを見送り、僕らも自分の店に入った。




