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『ママー、ちょっと欲しいものがあるんだよー』

『なにが欲しいの。言って御覧なさい。あなたは皇帝、あなたの望みはこの国では全て叶うわ』


『僕はね、僕の城が欲しいんだよママ』

『誰かいないか、皇帝の母エリザが命ずる、この王都に新しい城を建てます』




『アンナ、それは本当のことか。正気とは思えんな…』

『あんたは、この情報にどう乗るきだい。これだけの大工事、動く利益は計り知れない。私でもわかる』


『その情報の詳細を買おう』

『まいどあり、新しい城は今の王城の反対側、旧市街。スラムもまとめてぶっ壊してそこにいる住民は少しの金を支給して開拓民として外へ放り出す計画だよ。現時点で予定になっている区画の地図がこれさね』


これは…旧市街のほぼ全域が立ち退き対象。これだけの規模の工事、どれだけの費用がかかるのか。国としても払いきれるものではない。こんな計画は計画と呼べない。机上の空論。わが商会にも相当な被害が出る。


ギルド、商人組合も動かす必要があるな。あのエリザが簡単に計画を取りやめるとは思えんがな。


『アンナ、お前達はこの情報にどう乗る』

『そいつは別料金だよ。まいどあり。私らはまだ動きを決めていない。待っているのさ、一人の男がどう動くかをね…ここまで言えばわかるだろう』


アンナはそれだけ言うと、私から受け取った金を持って出て行ってしまう。

『あの男か…』


私はギルド本部とこの町の有力商会に宛てて急ぎ手紙をしたためる。面倒なことだ…


『誰かいないか、至急この手紙をギルドと王都の有力商会へ届けろ。事態は一刻の猶予もないぞ。わが商会の金、一枚たりとも無駄にはさせるな』



翌日にはクラッチの声掛けによって有力商会のトップ達がギルドに集まっていた…


『クラッチ、手紙の話は本当なのか』

『エヌディ、それに皆。この私が根拠のないうわさでこのようなことをすると思っているのか』


まったく、これだから私に及ばないのだ、残された猶予は無いというのに…馬鹿者どもが…


『おそらく、5日以内に皇帝命により、旧市街の取り壊し、新王城建設協力命令が出る。ここまでは手紙に書いた通りだ。私の計算ではこれに関わる費用はこの国でも用意できる額ではない。これの意味が商人ならわかるはずだ』


『では、どうしたらよいというのだ。手だてがないのに我々に声をかけるお前ではあるまい』



『今、商業組合としてできることは時間稼ぎしかない。これが現実だ…』


その頭は飾りか…まあ、初めから期待はしていないがな、俺の手の上で規則正しく動けばいい。あとはギルドが動くかどうかだけだな。先代皇帝は今はいない、しかしその軍事力はいまだ健在…


『エヌディ、この情報を聞いて、ギルド本部は動くか否か』

『ギルドは国の政治には干渉しないのがルールだ。しかし、この件は多くの人間が巻き込まれる事案…俺は今から本部へ向かう。ただし返事がどうなるかはわからない、主要都市のギルドマスターが集められてから議論が始まる。お前の予想期日までにどんな結論も出ないだろう…では行く』


では、私も次の手を打たなければな…


『我々は商人として、黙って国に搾り取られるわけにはいかない。今は団結して要求を拒む。これは誰かひとり裏切ってしまえば終わる話だ、忘れるな。では私は用があるので失礼する。よく考えてみてほしい』


私は外で待つマケイジを引き連れあの男の元へ向かった。



馬車に揺られながらどう話したよいものか、私にしては珍しく迷っていた。自分の商会の利益だけならば守る方法はある…今までやってきたように、他人を盾にし、踏み台にし、切り捨てれば…なぜ、今回私はこんな回りくどい方法を取ったのか…なぜ…


『旦那、もうやられちまったんだよ。あいつに』


急に何を言い出すのか、この私がやられた。馬鹿なことを…


『大事なんだろう、旦那も俺も変わったもんだ』


お前と一緒にされては困る、まったく…




『ハクレ、話がある。邪魔するぞ』

『おう、やっぱりあの爺婆凄腕なんだな、実戦での使用感も半端なかったぜ』

『それはよかったです。皆さんも子や孫に小遣いやれたって喜んでましたよ』

『あの金額だぜ。小遣いどころじゃねーだろ。はっはっはっは』


『そういえば、クラッチさん話があるんじゃないですか』

『うむ、そうなんだが…』

『どうかしたんですか、なんか変ですよ』

本当だ、私はなぜ話すのをためらっている…


『クラッチの旦那。もういいじゃねーか。どうせらしくないとか思ってるんだろ自覚無くな。ハクレが、あの爺婆が大事なんだろ』


『どういうことです。まさか、イシュトさんが言っていた大事のことじゃ。内容は一切知りませんが…』

『そうか…』


私は私の知るすべての情報をハクレに伝えた。その上で私は自分が今進めていることも話をした。


『そこまで僕に話してしまってよかったのですか』


『まだ私にもわからないが、頭ではない。私の気持ちがこの選択をさせたのだろう。どんな形であれ私が自分で決めたことだ、後悔もない』


私も変わったのか…悪くない。


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