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『すげーな…言葉がでねえ…』


出来上がった刀は真っ赤な皮で編みこまれた鞘がまず目を引き、持ち手には白をベースに黒いラインの皮、重量バランスのための金属、流れるような美しいラインの溝、以前のシンプルで色身の少ないものとはまさに別物の仕上がり。


『抜いてみてください…』


僕の声に無言で頷くマケイジさん、クラッチさんや職人の皆さんが見守る中…


刀を腰に下げ、虚空を一条の光が走り抜ける…

振り上げ、振り下ろし、突き、なぎ払い、まるで舞を舞うように刀を扱い続け、しばらくして、刀を鞘に納める。


誰も一言も発しない…持ち主の声を待つ…



無言で僕に刀を渡し、マケイジさんは一粒涙を落とした。



『名前を、付けてくれ』

『では、血橋と名づけます』


『意味を教えてくれ』

『血にまみれた今の心をその刀で渡って、未来に進んで欲しい。僕の気持ちです』


無言で抱きしめられる…

『最高の仕上がりだ』


みんなから歓声が上がる。その日はクラッチさんのおごりで大宴会が行われた、クラッチさんは職人の皆さんと今後商売したいとお願いしていたが全員の答えはノーであった。

仕事を頼みたければ、僕を通すようにと答えたようで、クラッチさんは僕に重ね重ね頼み込むと言う場面もあり、新しいスタートを祝う宴は夜遅くまで続いた…


宴も終盤、みんな酔いもまわり、ぐだぐだになっているところでマケイジさんが近づいてくる。


『ハクレ、あんな楽しそうにしているクラッチの旦那はみたことがねえ…俺の刀のことも合わせてお前には礼をいわないとな』

『僕はみんなと一緒に出来るだけの仕事をしただけです。料金もしっかりいただきますしね』


『おかげで俺の財布はすっからかんだ…それに見合うものだがな、この血橋は』


腰の刀を愛おしそうに見つめ、続けた。


『にんじゃにはならねえのか』

僕はその言葉に顔を向ける…


『わかった、今度一緒に大物狩りに行こうぜ。どんな秘密兵器持ってくるか楽しみだぜ』


それだけ言うと『ほらほら、もう遅いからそろそろお開きにしようぜ』といいながらみんなのところに戻って行った。



みんなが帰り、1人作業場に立つ…目の前にはにんじゃ服、数々の装備品を並べ。僕は…


『ただいま、カクレ』




あの日以来、彼はにんじゃにはなっていない、マケイジの刀をクラッチや旧市街の職人達と仕上げている、本当はすぐにでも逢いに行きたい…でも、仕事に一生懸命な彼の邪魔はしたくない…


手紙の落ちる音…黙ってその中身を見る。


終わったようね…そこに綴られている彼等の仕事の結晶は文章だけでもその仕上がりが想像を超える創造であることを物語っている。うらやましい…私には道具は必要ない、彼に特別に何かを頼むことはない。


刀を仕上げている間に入ってきた情報、彼に伝えるべきかしら、それとも…



クラッチに接触するように指示は出した。どう出るか…



もう、私は十分我慢したわ。彼に逢いに行きましょう。ただの女として…




『こんにちは、お邪魔します』

『イシュトさん、いらっしゃいませ』


変わらないあの笑顔、大きな仕事をやり遂げた後なのに、自然体な姿に大きな安心感を与えてくれる。


『イシュトさん、まあ、座ってください。今日はどうしたんです』


ぼーっとしてしまったわ。私としたことが、照れながら勧められた席に座る。


『姉様に聞いて、何か大きなお仕事をやり終えたと、今ならお邪魔にならないかなと思いまして。あなたに逢いたくて来ました』


真っ直ぐ、あの人に深く届くように、ただ真っ直ぐ気持ちを伝える。


『さすがに、情報が早いな。今度マケイジさんに見せてもらってください。いい出来ですよ。常連の職人さん達の技術が活きている品です』


『そうですか、この目で見るのが楽しみですわ』

さらりと気づかないふりをするのね…

ちょっと待っててくださいと言い残して、奥の作業場に行ってしまう彼。私は見込みないのかしら…


『はい、イシュトさん』


突然小さな長方形の箱を私に差し出す、戸惑いながらも受け取る私。

彼はわくわくした目で早く開けて欲しそうにうずうずしている。


とにかく開けてみる…


『綺麗…』

乳白色の本体に、羽の彫刻、ペン先にも落ち着いた金色。持ってみると重さも太さもちょうどいい、手にしっかり吸い付くような感覚…


『今回の新しい素材で作ったペンです。この間のお礼に』


『大事にします。書いてみてもいいですか』


涙が出そうなのを堪え、このペンについての話を彼に聞きながら、紙の上でペンを躍らせる。ペンが踊るたび、私は彼と踊っているような幸せな気分が心を満たす。


楽しい時間は早い、泡が消えるようにあっという間…まるで幻。

でも、この手にある彼の贈り物が夢ではないと教えてくれる、私を支えてくれる。


帰り際、私は彼に告げる。

『ハクレ様、近くこの王都の中で大事が起きるようです。弱きものの味方が必要になるかもしれません。もし、あなたが動くのなら私はあなたの助けになります。いつでもお傍に…たとえ身体が離れていても』


『何が起こるかはわからんでござるが、拙者もそろそろ動こうと思っていた頃合。カクレはみんなの為にある。でござるよ』


『素敵なものをありがとうございました』

私は振り返らずに彼の元を去った…彼の中に私はいる、それが確信できたから。


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