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この私が浮かれている…それにしてもあの刀、私もばらしてはいないが素晴しい完成度。あれに手を入れる…普通は尻込みする、見る目が確かであればあるほど、あのバランスを失う恐怖がでるもの。持ち主の許可とかではなく、技術者の本能として。それを乗り越えるか…


『ハクレ、あのバランスが失われるのが怖くはないか』

『旦那、それは俺が言いといったんだ。問題ないだろう』


この男は戦うこと以外は駄目だな、わかっていない…

『マケイジさん、クラッチさんの言っている意味はそういうことではないですよ。あの刀は武器ではなく芸術品の域…しかも古代の品、それが失われることへの恐怖…あっていますか』


そうの通りだ、やはりこの男は技術者としての高い資質と目を持っている。それ故に手に入らないのが残念だ。


『その通りだ』

『僕はマケイジさんに思いを残したまま、進んで欲しいと願っています。そのためにはあの刀を進化させる…それが僕にできることかと』


『まあ、気楽にやってくれ』

わざとらしく外など見て、素直じゃない男だな。



それほど時間はかからずにハクレの店に着いた。ふむ、小さいが綺麗にされている。品物もいい。作業場はこの規模の店ではありえないほどの設備、ソフィル様が使っていただけではないな、物の配置、手入れ、十分に活用されている。これでは工房が欲しくなることはないか。


『ハクレ、早速だが。どのような方法を考えている』

『クラッチさん、それはもう少し待ってください。協力者が昼に来ますので、そのときに』


いかんいかん、私としたことが商人として急ぐことと焦ることは違う、落ち着かなければ。しかし、気になるものは気になるな。


ハクレは奥に下がると、手にお盆を持って戻ってくる。


『これでもつまみながら、仕様の調整もしたいのでどうぞ』


ん、これは芋か、細長く切って揚げてある。盆の上には調味料か。目の前でハクレがその中のひとつをちょっとつけて食べてみせる。では、食べてみるとしよう…


この赤いのは、トマトを煮詰めているものか、酸味が無いな、旨みは凝縮されているな。他の料理にも使えそうだ。


こちらは花の蜜、甘いが口の中でちょうど良くなるな。好みで量が調整できるのはいいな、パーティー等に適するな。


次は、塩と胡椒、刻んで入っているのはハーブか、シンプルだが香りが素晴しい、食をそそる。


この白いものは…さわやかな酸味とまったりした旨み、原料は判らないがこれは美味い。


『ハクレ、これらのソースはどこで覚えたのだ』

『おじいちゃんが古代の書物を集めるのが趣味でした、それらの中には食物に関するものも多くあって大体はそこからですね』


『古代の書物が読めるのか』

『全部は読めません。おじいちゃんが解読したものを教わったので、絵が使われているものも多くあるので、わかる部分から推測してと言う感じですね』


ソフィル様の知識を受け継ぎ、さらに自己研鑽をしている…喉から手が出るほど欲しい…


『それにしても、お前はなぜ大きく商売をしないのか不思議で仕方ない。今日ここに着てからどれだけ商売に繋がるネタがあったことか』

『そうでしょうか。手を広げるには元手も必要ですし、人を使うには教育も必要、軌道に乗せるまでが大変でしょう。自分の手が入らない商品は売りたくないですし』


ハクレは技術者、いや研究者といった方がいいか…私と組めば、未練がましいか。


『そういう考えであれば仕方がない。しかし、その気になったら必ず私に声をかけてくれ』


この辺りにしておくか。食後のハーブティーを飲んでいると店の方からにぎやかな声が聞こえてくる。ハクレの言っていた協力者か…



『坊ちゃん、表のでかい馬車はなんだ、邪魔でしょうがねえ。客のか』


騒がしいな、ハクレが店の方に出迎えに行く。

『皆さん、お客さんを紹介しますから入ってください』

『上がらしてもらうぜ』


3人のご老人が作業場に入ってくる。3人が私の姿を見て目を見開き。


『『『げ、クラッチじゃねーか』』』

失礼なじい様達だな、いい年してハクレの後ろに隠れるとは、そもそも私を化け物かなにかだと思っているのか。こそこそ話しているが聞こえているぞ。


『坊ちゃん、なんでクラッチがここにいるんだよ』

『依頼主の雇い主だよ。個人的にも良くしてもらってるんだけど』

『坊ちゃん騙されてないか、坊ちゃんは腕もいいが、お人よしだからな、大丈夫かよ』

『商売に関して、そんな酷いことはしないと思うけどねあの人』

『そうかのぉ、色々黒いうわさも多い奴じゃし』

『まあ、きわどいことはしてるかもね。でも、信用はできる人だよ』


埒があかないな。私はこそこそ話しているところへ近寄る。


『クラッチと言います。今日は見学について来ました。お邪魔なら帰りますが』

手を差し出し、声をかける。

私が普通に挨拶したのを不思議に思ったのか、どうかはわからないが、じい様達が順番に手を出してくる。


『わしは、ゲン。旧市街で貴金属の加工をやってるもんだ。坊ちゃんの店の常連の1人だ』

『俺は、シゲ。皮加工をやってる。坊ちゃんに何かやったらただじゃおかねーぞ』

『ガンじゃ、鍛冶屋をやってるもんじゃ。うわさほど恐ろしい感じはしないの』


口は悪いが、熟練の職人なのだろうな。手を触れば判る、長い時をかけて技術を積み上げてきた手だ、高い価値があるな…


『このじいさん達が手伝いか、ハクレ大丈夫なんだろうな』


マケイジの馬鹿者め本当に戦い以外は節穴だな。

『なんだと、この小僧が。髪なんぞだらだら延ばしおって。わしが切ってやるわ』

『ん、ゲン、ガン。こいつ中々いい筋肉してやがるぞ、見た目より力あるな』

『しかしのー、口の利き方も知らん小僧にはあの刀はもったいないくらいじゃ』

『クラッチはわし等にきちんと挨拶をした。年上を敬えん小僧は馬鹿者以外何者でもないわ』


マケイジのせいで時間が余計にかかるわ…奴の評価を下げざるおえんな。


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