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マケイジさんを見送り、僕はエヌディさんに無事を報告する。
エヌディさんと飲みながら聞いた話をする、エヌディさんは複雑な表情をした…
『あの戦争の時、俺はお前の両親に命を助けられた。ナギを抱きながら最後にアレンは言ったよ…人が死ぬのは悲しいなって。ハクレ、お前を頼むとな』
エヌディさんは腹をさすりながらうつむいてつぶやいた。
『あいつは、いつも言ってた。戦争は嫌だけど、誰かがひとつにまとめれば大きな争いは減るよ、それまでがんばるしかないと』
甘い、甘過ぎる。率直にそう思った。自分が死んでしまっては終わりなのに…
『甘いよな、俺はそんな奴が好きだった。けど、後悔している。しかし何を言ってももう遅い。あの戦争の後、俺は軍を辞めてギルドの仕事に就いたんだ。今の平和は多くの血によって作られた、皮肉なものだ…』
僕は自宅に戻り、マケイジさんの刀をチラッと見て眠ることにした。
翌朝、いつものように走り込みを行い、体調を確かめる。うん、大丈夫そうだ。
気合を入れて刀を見るため今日は休みの札を入り口にかけて、作業場に入る。
持ち手の根元部分の皮のようなものを丁寧にはがし、中を確認する。持ち手はパズルのように複数の部品を組み合わせて構成されていた。
一番端を軽くひねり外す、順番に1つずつ外して行く…刀身には3ヶ所穴が開いていて部品をはめながら固定されている。
部品は思いのほか軽めで材質は他の古代の品にも良く使われているもの、しかし同じ材質は作り方がわからない。
うーん、困ったな…木では軽すぎる、水にも弱い。魔物の骨はパーツの整形が難しい、刀身を固定する部分は骨では心配だ、金属…他の素材との重量差が…
あの速さで振るわれる刀、若干の緩みも許されない…気がつくとお腹がなっていた。太陽はとっくに傾いている時間であった。
いろんな案が浮かんでは消え、浮かんでは消え…完全に煮詰まった。
気分を変えるために、旧市街を散歩する。頭から持ち手のことが離れない…
『坊ちゃん、珍しい時間に歩いてるな、散歩か』
ゲンさん、シゲさん、よく見ると家の常連の職人さん達が集まっていた。
『皆さん、どうしたんですかいったい。なんかの会合ですか』
『みんな、仕事が少ないからな、この時間には暇つぶしで集まっているのよ。坊ちゃん、この間の糸いい具合だぜ、高く売れよ』
シゲさんはいつもの調子だ。僕の糸はいい品のようだ、この人達に認められる素材なら一級品といってもいいだろう。
『なんか、考え事しとったみたいじゃが、悩みでもあるんかい』
鍛冶屋のガンさんが覗き込んでくる。
『実は…』
僕は古代の品の刀の持ち手をどう作るかについて色々考えているがどの案もいまひとつ納得いかない、不満が消えないと話した。
『難しいな、そんなたくさんの部品でできているとなりゃ、ひとつひとつの精度が誤差ゼロに近くないと歪むな。ガン、お前武器は専門だろう、なんか知恵だせ』
『ゲン、簡単に言わんでほしいのぉ、普通は持ち手なんて刀身と一体で作るか、簡単な部品で作るもんじゃ。いまさら刀身に持ち手を継ぎ足すこともできんしの』
『暇だし、坊ちゃんの店に行って現物拝もうぜ』
シゲさんの提案にみんなで僕の店に移動する。
『ほー、こりゃ凄い。きれいな刃じゃの』
『坊ちゃん、この持ち手の素材そこまで硬くねーな』
『いっそのこと持ち手固めちまえばいいんじゃねーか』
ん、持ち手を固める…固める…あ、そうかその手があったか。
『シゲさん、それだよそれ』
シゲさんの手を取りぶんぶん振り回す、それにはみんなの協力が必要だ。
『みなさん、力を貸してくれませんか』
頭を深く下げて頼み込む。
『坊ちゃん、頭を上げな。よくわからねーが何か思いついたんだな、教えてくれ』
僕はみんなを集めて思いついたことを伝えた。
『おもしろそうじゃのー』
『では、明日の昼集まってもらっていいですか』
『『『まかせとけ』』』
明日が楽しみだ、それまでに型を取って、あれの調整しとかないと…
翌朝、僕はクラッチさんの店の前に立っていた。店に入り店員さんに声をかける。
『すいません、マケイジさんはいらっしゃいますか』
『お待ちください、確認してまいりますので。あなた様のお名前は』
『ハクレと申します』
さすがはクラッチさんの店、店員さんのレベルも高いな、しっかりしている。
さほど待たされずに店の奥から2人の男が出てきた。
『ハクレ、昨日のつまみは美味かったぜ。なんか用か』
『刀の件で相談が、今日時間ありますか』
『もう、目途がついたのか。はやくねぇか』
目を見開いて驚くマケイジさん。クラッチさんは興味深く話を聞いている。
『マケイジ、刀の件とはどういうことだ』
マケイジさんは事情を話し説明する。
持ち手の長さを、重心を変えずに指2本分伸ばして欲しいと依頼したと。
『マケイジよあれほど完成されたものをそのまま仕様変更すると言うことが、どれほどのことかわかっているのか。しかし、ハクレの表情を見るに出来そうなのか』
クラッチさんはかなり興味を引かれているようで身を乗り出してこちらに聞いてくる。
『僕1人では無理でしょう。マケイジさん金はいくらかかってもいいといいましたが本当でしょうね』
『ああ、かまわねえ』
『ちょっといいか、今日の私の予定は全てキャンセルだ、先方にはお詫びの品と伝言を今すぐに行え。私もお邪魔したいがかまわないか』
即決…目の前でそこまでされて断れるわけないのに。
『クラッチさんもどうぞ』
『誰か、すぐに私の馬車を出せ、出かける』
手際よく準備がなされ、3人で僕の店に向かっていった。




