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『ナギ…ナギ、下がっていろって言ったじゃないか、なぜ出てきた』

『もう、あなたは本当に…困った人ね…ハクレを…おね、が、い』


俺の突きは奴をかばった女の胸に深々と突き刺さり、その命を終わらせようとしていた。

片手で刀を振り上げ、女をなぎ払おうとした…


『馬鹿な、なぜ』

俺の刀は女には届かなかった。




『僕の言葉を信じて欲しい。皇帝に王の首を、敵も味方も命が失われるのは悲しいことだよ』

『その女を放せばいいものを、死にゆくものを庇ってなんになる』


『僕の愛する者をこれ以上傷つけられたくないだけさ。早く行け。1人でも多くの命を助けたいのだろう、なら早く、早く行け』


大男が腹から血を流しながら迫ってくる。俺は何も考えられなかった…




気がつけば俺は王の首を持ち、皇帝の前にいた…


『全軍戦闘をやめよ、この国は終わった』


なんだったんだ、あの男が言ったとおり…こんな簡単なこと。俺はあいつらに、なんて言えばいいんだ。俺の命令で死んでいったあいつらに、こんな首1つで…


まだだ、まだ終わっちゃいない…あいつを殺す。


ボロボロの身体で皇帝に切りかかる。

わかってた、万全の状態でも勝負になるかわからない相手、振り向きざまの一撃で吹き飛ばされる。


『いい腕だ、俺に仕える気は無いか』

『できないね』

『いつでも殺しに来るがいい。そのときは殺してやろう』


それだけ言うと座り込む俺に再度背を向けて、去っていった。

その遠ざかる背を睨みながら必ずこの手で殺すと心に刻み込んだ、まだまだ休んではいられない、走ることもできない、ふらふらした足取りで死臭に満ちた道を進み都を抜ける、住人達が逃げた後方の門から先にはかなり先まで死体の道が続いていた。


生き残った兵士が自分の家族を探している。


死体の道を一歩一歩、俺も進んで行く。できればずっと遠くから戻ってくることを期待しながら。


しかし、再会はすぐに訪れる…


片腕になっても息子を庇うようにしている妻、胸に真っ赤な花を咲かせて苦痛に顔をゆがませた息子。



悲しくは無かった、いや、感じれなかった。この国の光景は俺が作ったのだと。馬鹿王が皇帝の挑発に乗った時点で止めておけば、攻め込まれ、皇帝が王の首を出せといった時に差し出していれば…全ては遅い、遅すぎる…何を考えても、何を思っても。目の前の2人は戻らない。


2人を担ぎ都の自宅へ向かう…


庭にある木の根元に穴を掘る。3人で過ごした思い出が浮かんでは消え、消えては浮かぶ。

2人を並べて穴に入れる、土をかぶせ手を合わせる。自宅から金目の物と旅支度を手早く整えその日のうちに都を出る。目指すはギルド本部の街ギャラガ、皇帝を殺すには今のままでは無理がある。もっと力をつけなければ…俺は冒険者となって、強い魔物相手に自分の腕を鍛え、同時に皇帝の動向に関する情報を集め続けた。



毎日があっという間に過ぎて、強くなったと確信できるぐらいには時間をかけた。

皇帝の奴は周辺の国を順調に屈服させ、その統治を安定させる為、城から出ずに内政に力を入れ始めた。


俺は待った、機会を…


そうしている間に皇帝の周辺支配が終わり国内は表向き安定した。


機会はついに訪れる、国の安定を祝い王都で式典が開催されることとなった、俺はギャラガから王都のスラム街に移り身を潜め、街の様子や道の確認等の準備をしながら数ヶ月過ごした。


式典まで後1月というところで皇帝は死んだ、病にかかりあっという間に死にやがった。あれほど強い男の、多くの争いを制した男の最後にはあっけなさすぎる。



俺はやり場の無い気持ちにどうしていいか判らず、酒に溺れる日々を過ごした。

ギルドでのランクは高かったし、魔物討伐等で金はあった。


俺が生きている意味は消え去り、1人この世に残された。





『俺には生きる意味も、死ぬ意味ももう無い。考えないですむだけ死のほうがましなだけだ』


ハクレの奴は黙って俺の話を聞き続けていた。

『お前の両親は強かった、後でわかったことだがお前の両親が通った進行ルートは死者が圧倒的に少なかった。戦争には向かない性格だったということかな』


俺は酒を注ぎ、一気に飲み干す。


『もし、あの時俺が右に向かっていたら、逃げた住人は助かっていたかもしれない、俺の妻も息子も…そして俺も、お前も失わなかったかもしれないな』


『かもしれないは、無意味ですよ、マケイジさん。戻らないものは戻りません。それでも進んでいかなければ。あの刀、必ずお返しします』


『無意味か…邪魔したな。刀、期待してるぜ』


俺は何を期待しているのか、あの甘い男の息子に。


酒、やめるかな…できればだが…


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