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ハクレの顔色はもともと白いけど今日は特に白いわね。今日は私の手作りのお粥を作ってあげましょう。
『看病は腕の見せ所だぞ』私はパパの言葉を頭の中で復唱する。望むところよ。私の本気を見せ付けてあげるわ。
ずるずるとハクレの手を引いて家へ急ぐ。
『サチル、自分で歩けるから』そう言うハクレを無言で引っ張る。
家に着くと、真っ直ぐにハクレの部屋に向かう。
『サチル待ってよ。部屋は汚れてるから待って。ちょっと片付けるから』
年頃の男の子、あまり無粋なマネもいけないわね。でも早く寝かさなきゃ。
『じゃあ、作業場にとりあえず布団をひきましょう』
我ながら完璧なフォローだわ。そうと決めたら早速布団を敷きましょう。
勝手知ったるハクレの家、手早く作業場に布団を敷いて、ごちゃごちゃ言ってるハクレを寝かせる。
台所に立って辺りを見渡すと非常にきれいに整頓されている光景に思わず。
『さすがハクレだわ…』と感嘆の声を漏らしてしまう。しかし、今日は私の腕を見せる時…
土鍋を取り出して、お米を投入。目分量で水を注ぎこみ、かまどに火を入れる…
よし。これで、お粥はできるわ。
次は水分ね、栄養も必要だから、とりあえず牛乳と卵、花の蜜もいいわね。そうそう、身体を温めるためには生姜がいいと聞くわ。入れましょう。
後は…お酒は百薬の長とパパが言っていたわ。入れましょう。
この知識と決断力、私の感性の凄さに、自分で歓声をあげたいくらいだわ…やればできるのね私って。
店のほうから音がするわね、急いでいて閉店の看板出し忘れたわ。
『ハクレ、駄目よ寝てなきゃ。私が対応するから寝てなさい』
もう、すぐ自分でやろうとするんだから。布団をもっとかけておきましょう。
布団の山の中で何か言ってるけど、安静が一番。ほかっておきましょう。
店のほうに向かいながらお客さんに声をかける。
『すいません、今日はもうおやすみなんですよ…』
そこには、あの女がいた。
『あら、サチルさん。奇遇ね、店主のハクレ様はいないのかしら』
『ハクレは調子が悪くて寝ているの。イシュトさん、日を改めてもらえるかしら』
お互い笑顔のまま、どちらも動かない…先に動いたほうが負ける、時が止まったように静か、徐々に相手の顔が曇ってくる…煙に包まれているみたいだわ…
イシュトが口を開く…先に動いたわね、私の勝ちよ。
『サチルさん、あなた何か火を使っていたんじゃないかしら』
あ、後ろを振り返ると煙が台所のほうからもくもくと流れてきている。私は急ぎ、台所に戻りかまどの火を消す…よし、お粥は焦げてないわ。一安心ね。
『ハクレ様、ハクレ様しっかりなさってください』
あの女、勝手に上がってきたわね。急ぎ作業場に戻る。
そこで見たものは、真っ赤な顔をして布団の山から這い出しているハクレと布団を一生懸命どかしてるイシュトの姿…
『大丈夫ですか、ハクレ様』
『う、うん。助かったよイシュトさん』
……………
『大丈夫…ハクレ…』
『大丈夫だよ、サチル。なんか飲むものもらえないかな』
ここで挽回よ。私は全力で先ほどの飲み物を取りにいき、さりげなくハクレとイシュトの間に入って、ハクレの頭を掴み、一気に飲み物を口に流し込んだ…
激しく、むせ込み、白目をむいたハクレはそのまま動かなくなった…
『サチルさん…いったい何を、飲ませましたの…』
イシュトの冷たい視線を受けながら、私は事情を説明する。
『あきれた、言葉を失うわ…』
イシュトはハクレを愛おしものを見るような慈愛に満ちた眼差しでハクレを見つめ。そっと頬に手を当てた。近くにある小さな布を取り出し台所へ向かい固く絞った布をハクレの額に当てた。
『イシュト、ありがとう』
『あなたのためにやったのではないわ、ハクレ様のためにやったことよ。お礼を言う必要はないわ』
私は自分無力さに、イシュトに頭を下げるとハクレの家から飛び出してしまった…
『うーん、サチル、サチル…』
こんな目に遭わされたのに、あの子の名前を呼ぶのね…
目の前でうなされながら片手を伸ばす彼…私はそっとその手を握る…
『サチル…』安心した彼の顔。今は、それでもいい。ゆっくり休んでくれれば…
静かな寝息をたてている彼を起こさないように作業場や台所を片付ける、あの子が作ったお粥らしきものは一応取っておいてあげましょう。私に頭を下げるのは苦痛だったでしょうに、直接聞きたかったけど、あの子の気持ちわかったから。
最近、私変ね。これも彼の影響かしら…
彼の元に戻り、熱を確かめようと額を近づける…
目と目が合う。
『わ、わ、わ、イシュトさん』
壁際まで凄い速さで下がっていく彼、ちょっとさみしい。
『ハクレ様、大丈夫ですか』
『あれ、サチルは』
『彼女なら私に後を頼んで帰りましたわ』
『そうですか…』
辺りを見渡し、私を見る彼。
『色々、ありがとうございます。片付けやってくれたんですよね』
『私が好きでやったことです。気になさらないでください』
彼は台所へ行き。あの子が作った明らかに失敗作と思われる物を持ってきて食べ始めた。一口噛むたびゴリゴリと音がしている。
『何か、作りましょうか』
私の提案に『もったいないので』と苦笑いしながら答える彼。
『また、遊びに来てもいいでしょうか』
『アンナさんに聞いたんですよね、いつでもどうぞ。今度は手作りのお菓子をご馳走するでござる』
優しい彼の笑顔が見れた、今日はそれでいい…お土産に持ってきたハーブティーを置いて私は彼の家を去った。




