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サチルめ、気を抜きおって。それを差し引いてもなかなかハクレもやるな、接近と同時に足をかけ、対角線の肩を後ろから引き後ろに倒す。その後もハクレらしいなサチルが頭を打たないように抱きとめるとは、ちょっと抱えてる時間が長くないか…


なんか急に喉の調子が悪いな、ん、ん。あーあー。


サチルに怒られた…もういい、モフィーの所に行こう。


ん、夕飯の準備で忙しいからあっちにいっててだって、ん、やっぱり呼んでる、モフィーの奴めさっきのは照れ隠しか…準備手伝って欲しいからハクレを呼んできてくれ…早くって急かすなよ。


俺の居場所って無いのかな…まあ、ご飯もデザートもおいしいからいいか…ふん…




1人作業場で物思いにふける、これからどうするか。

エヌディさんに知られたのはある意味都合がよかったかもしれない、協力者としてとても心強い。今日の件で僕の正体はクラッチも決定的に確定しただろう、もっともアンナさんが調べたのならもっといろいろ知られている可能性の方が高いか…


クラッチは動いた。アンナさんはどう動くだろう。


自分で入れたお茶をすすりながら、いろんな可能性を模索する。しかし相手がすごすぎて考えが浮かんでは消え、浮かんでは消え…埒が明かない…


気が付くと僕は作業場で寝てしまっていたみたいだ、寒気がする…風邪ひいたかな。


簡単に朝食をとり、今日は念のため走り込みはやめてスクワットを行い、準備を整える。


『ハクレー、準備はいいか。そろそろ行くぞ』

エヌディさんの声がする。外に出るとエヌディさんとサチルが並んで待っていた。


『3人で出勤なんて、初めてでわくわくするわね、ハクレ』

『そうだね、僕は基本的にこんなに早くギルドに行くことはないしね』


上機嫌に1人前を進むサチルの隙を伺い、エヌディさんに声をかける。

『なんてサチルに言ったんですか』

『うむ、ハクレの品物の出来に商人のトップが会いたいといっている。心配ないと思うが護衛も兼ねて俺の執務室で会うことになったとな。サチルの奴お前が認められたのがよほど嬉しいのか、見てのとおりの浮かれようだ』


サチルはくるりと僕らの方を振り返るとにこにこした愛くるしい笑顔で、

『パパからもハクレの凄さをしっかりと伝えてよ。ハクレもしっかり自分を売り込むのよ。自信をもって行きなさい。先に行くわ』


それだけ言うと、朝日に照らされたギルドの中へ走って行ってしまった。


『俺たちも準備しないとな』

『はい』


ギルドに入ったエヌディさんは窓口にクラッチが来たら執務室に通すように、来客中は誰も入れるなと指示を出して僕と一緒に奥へ進む。


部屋に入ったエヌディさんは机の後ろから一振りの剣を取り出して腰の護身用の剣と取り換えた。その表情が引き締まる。


『その剣は…』

『俺がソフィルさんから頂いた、お前の親父の剣だ…どんな話か分からんが、お前には触れさせん』


『大丈夫ですよ。今回の話はそこまで悪い話ではないでしょうし。クラッチという男は噂より面白い男ですよ』

『ハクレよ、あの男を面白いというとは。いつの間にか大きくなったものだ』


扉を叩く音がする。『クラッチ様がおみえです』職員の声に『入ってもらってくれ』と返事をするエヌディさん。


2人かと思っていた相手は3人であった…職員は扉を閉め持ち場に戻って行った。

少しの間の沈黙。





『座らせてもらってもいいかな。エヌディ君』

『自由にするといい、悪いが俺は立ったままでいさせてもらう。危ない男がいるんでね』


ふむ、マケイジを警戒しているのか、無駄なことだな過去に囚われていても金にはならんというのに…


『マケイジ、腰の刀をエヌディ君に預かっていただけ。これでは話が進まない。無駄が多すぎる』


マケイジは黙って腰の刀をエヌディ君に渡す。それでも彼は座ろうとしない、好きにするがいい。マケイジは入り口まで下がり壁にもたれかかり、アンナは私の横に腰を掛ける。


『また、お目にかかりましたね。クラッチ殿…まどろっこしいのは嫌いでござろう。要件をお聞きするでござる』


私のことをよくわかっている。商人とはこうでなければ、ますます気に入った。


『では、要件を言う。ハクレ、私の息子にならないか』

『お断りします』

『理由は』

『僕には父がすでに2人いるからです』

『2人いるなら、3人でもいいではないか』

『あなたのことは嫌いではないが、父と慕うことはできない』

『わかった、息子の件はあきらめよう。今後仕事の依頼をしたいと考えているが受けてもらえるか』

『内容によります。報酬ではなく内容です』

やはり賢いな、このテンポの会話に急な話題変更も答えもこちらの狙いもある程度つかんだ対応が出来ている。知れば知るほど彼の価値は上がるな、面白い。


『今度、店に遊びに行きたいが構わないか』


これは予想していなかっただろうな、この私が「遊びに」などと口にするとは思わないだろうからな。即答できないだろう。


『クラッチさん、甘いものはお好きですか』


ん、何を聞くのか。何が狙いだ。私は返事に詰まる。


『甘いものはとても好きだが、なぜそんなことを聞く』

『いないときもありますがいつでも遊びに来てください。手作りの菓子をごちそうしますので…遊ぶお時間があなたにあればですが…』


やはり、この男は面白い。


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