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ちょっと遅くなったかな。サチルに後でなんていわれるか…後で考えよう。


ギルドの商売用窓口に事情を話すと、クラッチの使者もさっき来たところらしい。僕はエヌディさんの執務室へ向かっていく。もうすぐで目的地と思っていると部屋からエヌディさんの怒鳴り声が聞こえる。急いで部屋へと入る。


そこで見たのは、護身用の剣を抜き、相対する相手に今にも飛び掛りそうなほどの殺気を放っているエヌディさんと、まるで関係ないといった表情で立っているマケイジがいた。


『ハクレ、その男は危険だ。早くこっちへ来い』

僕は戸惑いながらもエヌディさんのいる部屋の奥へと進む…その間もマケイジは動かない。


『クラッチの旦那への返事を聞きにきた。会ってもらえるのか。もらえないのか』


マケイジは僕らに声をかける。


『うるさい、なぜお前がここにいる』

『俺はあくまでクラッチの旦那の代わりに返事を聞きにきただけだ、落ち着けよ』

『エヌディさんどうしたんですか。相手の言うとおりですよ、落ち着いてください』


ここまで取り乱すエヌディさんは始めて見るかもしれない…マケイジと面識があるみたいだけど、尋常じゃないなこの怒り…


『ハクレ、それは無理だ。この男は俺の親友、お前の両親を殺した男だ…』

僕の両親を殺した…マケイジさんが…


『それは事実だから何も言うことはない。俺は自分のために多くを殺し、奪い…そして守れず多くを失った。エヌディ、俺を殺したいのなら殺すがいい、そこの奴でもいい。親友の仇でも両親の仇でもどっちでもかまわんぞ』


『なら、望みどおりに殺してやる。覚悟しろ』

『ありがとよ、覚悟はいらないんでね。受け入れるだけだ』


とっさにエヌディさんの首に細い針を突きつける…


『ハクレ、何のつもりだ。あいつは俺たちの敵だぞ』

『エヌディさん、こそ剣を収めてください。早く』


いつに無く強く語りかける僕にエヌディさんもしぶしぶ剣を収める。

『ハクレ、お前いつの間に、そんな物を使うようになった』


『やっぱり、お前だったんだな…また会えて嬉しいぜ』


エヌディさんは展開についていけずに黙っている。


『クラッチさんに伝えてください。明日ここでお会いしますと』

『了解した…エヌディ、邪魔したな。では明日朝またここで』

それだけ言うとマケイジは部屋を後にした。残った僕にエヌディさんは無言で座るように促してきた。おとなしくソファーに座る。


『色々聞きたいが、なぜ俺を止めた』


『それは、あの男がそれを望んでいたからです…殺されることを…』

エヌディさんは黙ったまま、僕は続ける。


『先ほど、あの男は覚悟はいらない、受け入れるだけと言いました。きっと彼は死に場所を探している…殺してしまえば、それはあの男の望みを叶えてやることになると思いました。それにここでエヌディさんが殺してしまえばさすがに問題になる。モフィーさんやサチルの顔も頭に浮かびました、気がついたときには僕はあんなことを…』


エヌディさんは立ち上がり、僕のそばまで来るとその大きな手で僕の頭を掴み抱きしめてくれた。気がつくと僕は震えていた…


『止めてくれてありがとうハクレ。話してくれるか』


僕はエヌディさんの腕の中で小さく頷き今までのことを話しだした。


以前話したにんじゃの正体が僕であること、色町の女王アンナさん、商人トップのクラッチ、それにマケイジと勝負したことも…そして、にんじゃであることを封印しようとしたこと、でも訓練をやめることができなかったこと…


『ハクレ、俺はお前のやりたいようにすればいいと思う。だが当分はこのことは秘密だ。モフィーにもサチルにも俺は絶対に話さない。さっきの動きを見ればお前がどれだけ努力してきたかわかる。やり方は正直俺は好きじゃないが自分にあった方法としてそれを選んだのだろう、やめる必要は無い』


僕は声を上げて泣いた、にんじゃを封印したときよりも激しく泣いた…

エヌディさんは僕の頭をくしゃくしゃに撫でて向かいに座った。しばらくして気持ちが落ち着いてきた頃。


『当面の問題はクラッチとアンナだな…考えても仕方がない出たとこ勝負だ明日に備えて今日はしっかり寝ろ。大丈夫だ俺がついてる。今日はもう帰るぞ、家で飯食ってけ』


エヌディさんはギルドの職員に『今日はもう帰るから、あとよろしくな』といって僕と一緒に家に向けて歩き出した。


『ハクレ、親の仇を前にして良く冷静でいられたな』

『実のところ、僕は両親に関して覚えが無いので実感が無かったのもあります。じいちゃんはほとんど両親について話してくれなかったですし…』


『そうか…ソフィルさんも口に出すのも辛かったのだろうな…』

『ハクレ、それでもお前には俺やモフィーがいる。今でも息子同然と思っているし、それに』


『それに、なんです』

『いずれ、本当の息子になるんだからな、はっはっは』

『ちょっと、ちょっと待ってくださいよ。なんでそういう話しになるんですか』


とても不思議そうな顔をして僕を見てくる。


『サチルはてっきりお前を好きだと思っていたんだが、例のにんじゃの件で違うのかって思ってたんだ、その正体がハクレならやっぱりサチルが好きなのはお前だろう。なら名実共に俺の息子になるのは時間の問題じゃないか。俺の首に不意打ちでも針を突きつけれるぐらいなら反対する理由はないしな』


大口を開けて心底楽しそうに笑う姿を頼もしくも困った人だと思っていると。


『ん、待てよ。まさかと思うがサチル以外の人がいいとか思ってないよな…』


強い眼力で僕の目を見てくる。うっかり目をそらしてしまう。気がつけば両肩を捕まれ足が地面から離れていた。


『待ってくださいよ、サチルの気持ちもありますから、ね』


ポンと手を離し『そうだな、確認は大事だな。すまんすまん』といってさっさと前を歩いていってしまう。

その背中にそっと小声で『父さん』といってみる。悪くない…


『ん、何か言ったか。ほら、ぼーっとするな置いていくぞ』

『今行きますよ』

歩きなれた道が今日はちょっと違って見えた。


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