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なに、この人カクレさんのこと本気ですって。控えめな感じかと思ったけど、強いわこの人、気が抜けない…


肝心のカクレさんは…駄目ね、急な展開に頭が真っ白状態だわ、直立不動で目が泳ぎ回ってる。ここは引けない、引いたら駄目って感じがする。


『私だって、カクレさんのこと好きです。本気です。そのために毎日夜勤にしてるんですから』


『あら、それは私的な理由でギルドの仕事を行っている。と言うことかしら』


『うぅぅ…それは…』

しまった、勢いでうっかり喋っちゃった。何者なのこの人、さっきまでと雰囲気が違う…


『政治にすら関与しない、ギルドという組織の一員であるあなたが、カクレ様に会いたい理由で勤務する…これは問題ではないかしら。上に報告してもいいのよ』



何も言えない…カクレさんにも知られてしまって、これで上に報告されれば私は罰を受けることになる…



『何も言えないようね、でも安心して。カクレ様はあなたを恩人だと私に話してくれた、彼の恩人ということは私にとっても恩人であることと同じ。意地悪をいってごめんなさいねサチルさん』


苦手なタイプだわ、首根っこを押さえられた上にナイフを突きつけられている気分…


カクレさんが復活しそう。


『先ほどの話しは置いといて。サチル殿、夜勤の連続は身体にも悪い故やめたほうがよいでござるよ。それに拙者少しの間冒険者業を休む故しばらくお別れでござる。修行の旅から戻ったら昼間も活動する予定にしてるでござるよ』


カクレさんさりげなくイシュトさんと私の告白を流したわね…でも、引かれるかもって思ったけど、心配してくれるんだ…しばらくおやすみか、さみしい…

でも、少しの間って言ってるしがんばれる。私はがんばれるはずよ。


『わかりました。正直体調も悪くなりかかっていたし無理な勤務はやめるようにします。カクレさんちゃんと帰ってきますよね』


『もちろん、すぐに帰って来るでござるよ、サチル殿』


『ところでカクレ様。私とサチルさんの想いについて…まだお返事をいただいていませんが…ねーサチルさん』


そうだった、危ない、カクレさんに流されるところだった。抜け目無いわねイシュトさん。でもナイスだわ。


イシュトさんと一緒にカクレさんを見る。



『なぜこんなところにあなたがいるでござるか』

カクレさんはギルドの奥を指差しながら急に大声を上げる。

とっさに後ろを振り向く私とイシュトさん…そこには誰もいない…


『お2人とも、今夜はこの辺りで失礼するでござるよ、ではごめん』


『カクレさん』『カクレ様』


取り残された2人。

『サチルさん、これからもよろしくお願いしますね。カクレ様を慕うもの同士きっとまた合うことになると思いますわ』


『そうね、私は頭は良くないけど負けないわ。私の気持ちがそう言ってるもの』


『1つだけ教えてあげますわ。彼は旅には出ない。この街にいる』


何のことだろう、カクレさんは旅に出るって言ったのに聞いてなかったのかしらこの人。


『私は、彼の正体を突き止めます。近いうちにね。ではごきげんよう、また』


それだけ言うと、美しい姿にふさわしい歩みでギルドから出て行った。




もう、いろんな意味でドキドキが止まらない。クラッチとのやり取り、人のうわさの当てにならないことを実感した、おじいちゃんの名前が出てきたのは驚いたけど…マケイジさんも凄かった、でも僕は生きている。あれほどの人と対峙して僕は生きている。僕の使えるもの全て使って…

格上の商人と渡り合い、剣の達人相手の勝負に駆け引きで勝った。イシュトさんの指輪は無事に本人の手に戻り喜んでもらえた…僕は紛れも無くにんじゃだったはず。


にんじゃになれたと思う気持ちがどんどん湧き上がり僕を満たしていく。


街外れので仰向けに寝転がる…足元からは水の音、風のない静かな空間に1人夜空を見る。


とびっきりの1日だ、今までの全てが今日のためにあったんじゃないか、そう思えるほど。



でも、僕はミスも沢山してしまった…



にんじゃは人知れず、正体がばれてはならない…カクレは力を持った多くの人と関わりすぎてしまった。今頃、クラッチとアンナさんは僕に関する情報をやり取りしているのだろう。


僕の正体に気付くのはすぐのはず…短い時間だった、まだまだにんじゃでいたい…でも僕はにんじゃであるが故、にんじゃをやめなくてはならない…


涙が止まらない…


泣きながら下水を歩き、家に戻る。そして僕は箱を取り出してにんじゃの服を丁寧にたたみ、倉庫の奥にそっとしまった。



明日からは、また道具屋としてがんばろう。にんじゃとして頑張れた、だから今度はじいちゃんより凄い道具屋になるんだ、僕はあのクラッチが認める男だからきっとなれる。きっと…



次の日の朝、いつものように朝の走り込みをしながらギルドでのことを思い出す。

イシュトさんはどこまで本気か読めないところがあるからわからないけど、サチルの方はかなりの本気さを感じたんだよな。てっきり僕のことが好きだと思ってたのになんか複雑な心境…兄弟なのかなやっぱり…


朝の空気は変わらずに僕を包みこんでくれる、なぜ走り続けるのか、それは考えないようにしよう…


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