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『旦那、おかしな動きはなかったぜ』
『ごくろう、先ほどのお前を見て妙な動きができるとは思わなかったがな』
クラッチは自分の席に座り先ほどの装備を満足気に見ながら再度机からそろばんを取り出した。
一振りした後、指でそれをなぞり『では、始めよう』といってこちらを見る。
『アンナよ、面白い男に合わせてくれたことまずは礼を言おう』
面白い…あのクラッチが面白いだって…
『何を不思議そうな顔をしている。私をなんだと思っているのか知らんが。私とて人の子、金勘定だけの機械ではないぞ。まあ、私自身も少し驚いているがな』
そろばんから手を放しこちらに語りかけてくる。ここは相手の出方を見たほうがいいのかどうか判断がつかない。
『今回の件、こちらから出せるだけの情報を出そう。対価はその情報を使って知り得たあのにんじゃの情報が欲しい。あの男の知識、技術は金になる。アンナよお前がどこまでの情報を持っているかはどうでも良いことだ私にはな…時間は待ってはくれない、乗るか乗らないか今すぐ決めてもらおうか』
ゆっくりと玉を弾くクラッチ。
ここで出し惜しみはできない『その話しに乗る』私はそう答える。
玉を弾く手を止めてクラッチは話し出す…
『私の考えではあのカクレという男ほぼ間違いなくソフィル殿と繋がりがあると考えている。ソフィル殿は昔、国に仕えていた方で道具、特に古代の遺跡に関するものへの知識が高く、ご本人の作る道具類も素晴しいものばかりであった』
昔を懐かしむように語る様子にその人物への強い尊敬を感じる。この男にそこまで言わしめるとは、よほどの人物であったのだろう。調べるのは容易と考えられる。
『ソフィル殿には1人孫がいたはず、そして旧市街に小さな道具屋をやっていた。ギルドへの納入リストに名前がいまだ載っていることから現在はその孫が店を継いでいるはずだ。納入している品は安く製作も難しくないものばかりだが品質は中々の上物。その孫が本人かどうかはわからないが何かしら繋がりはあるだろう。こちらが出せる情報はこれだけだ。アンナ、この情報の価値はいかほどのものか』
私は一瞬言葉につまる…ソフィルと言う人物を偶然知っていたからとはいえ、さすがに抜け目無い。恐ろしい男…
糸口、しかもかなりの有力な情報。偶然をも味方につけるさすがはクラッチと言うしかない。
『数日中にわかったことは知らせるよ。楽しみに待ってな』
クラッチは玉を激しく弾き、満足そうにそれを見るとそれを一振りして机にしまった。
『アンナ、その反応で私の情報の価値はわかった。楽しみにしている』
今日はイシュト様には突き飛ばされるわ、クラッチにはいい様にされるわ、散々な日だわ。全部あのにんじゃのせい。すぐに突き止めてやるわ。
静かな夜の街を馬車が進む、私とカクレ様の二人を乗せて…
『カクレ様、傷は痛みませんか』
そっと手を取り自分の膝の上に乗せ、彼の胸元を見る。
『大丈夫でござるよ傷は浅い故。それにしてもマケイジ殿はすごいでござるな。まさかあれを切り裂かれるとは改良が必要かもしれないでござる』
『あれほどの使い手はこの辺りでも片手もいないでしょう。そこまでされなくてもいいのでは』
ちょっと落ち込んでいる様子のカクレ様…そっと抱きしめてみる。
『イシュト殿、いかんでござる』
慌てて、かわいい。
『それにしても、本当にどんなお礼をしたらいいか…この指輪が古代のものであったなんて。私にできることなら何でもしますから』
『それは、無用。イシュト殿からのお礼はこの依頼書に完了のサインを頂ければそれでよいでござるよ。あと指輪の内側の名前は後から足されたもの。よかったでござるな母上の形見が戻ってきて』
ああ、この人はどこまで…
『それでは私の気が』
『拙者はにんじゃでござる故。にんにん』
私の言葉を遮って笑いながら顔の前で手を組む彼…何も言えなくなっちゃうじゃない…
もう、ギルドに着いてしまう。もう少しだけでも一緒にいたい…
『もう着くでござるな。送ってくれてありがとう、依頼書を窓口に出してから帰るでござるのでまた縁があれば力になるでござる』
『私も窓口までご一緒してもよろしいですか』
『サインは頂けたし、アンナ殿を迎えに行かなくてはいけないのでは』
『姉さま達のお話の邪魔になるといけないですし。クラッチさんのお店まで近いので』
『確かに、すぐ戻っても外で待つだけでござるな』
彼に付いてギルドに入る。いくつかある冒険者用窓口をきょろきょろ見回している彼…
端の窓口で居眠りしているギルド受付を見つけるとそちらへ行こうとする。
『カクレ様、あの…居眠りしている窓口にいくのですか』
『はは、あの方はサチル殿と言って、拙者にとっては恩人のようなもの、危うく冒険者登録できぬとこであったでござる』
ずいぶんと嬉しそうに話されるのね…あれが彼を登録した受付嬢。あとでアンナに調べさせましょう。
『お願いするでござる』
『はぅ…あっ。カクレさん偶然ですね、たまたま夜勤だったんですよ私』
『本当でござるか。依頼の完了をしたので処理をお願いしたいでござる』
『はい、了解しまし…カクレさんそちらの綺麗な方はいったいどちら様ですか』
わかりやすい子ね。明らかに不機嫌になったわ。これでよく受付やってるわね…もしくはこの子も彼目当てかしら。
『サチル殿、この方は依頼主のイシュト殿でござるよ』
『初めまして、彼にお世話になったイシュトと申します。サチルさんよろしく』
『依頼主の方でしたか、私ったらてっきり』
『てっきりなんでござる』
『お付き合いしている方かと…』
『はっはっは、サチル殿は冗談が好きでござるか。イシュト殿のような美しい方に拙者のような者は不釣り合いでござるよ。そうでござるよねイシュト殿』
そんな会話をしながらカクレ様はサチルさんから報酬を受け取っている。
彼に言われると美しい方って言葉も嬉しいものね、でもここはハッキリいっておいた方がいいでしょうね。
『カクレ様、私はカクレ様さえよろしければお付き合いさせていただきたいですわ』
彼と受付嬢は同時に動きを止めてぎこちない動きで2人同時にこちらを向く。
『またまた、イシュト殿まであんまりもてない男をからかうものではござらんよ。ね、サチル殿…』
『イシュトさんったら、そんなわざわざ私の言葉に乗っていただかなくても』
『本気ですわ。私は本気です』
あら、この子動揺するどころか、真っ直ぐ私の目を見るなんて。芯の強い子…嫌いじゃないわそういうタイプ。




