17
まったく、喰えねえ野郎だな…
切りかかる瞬間に顔めがけてなんか飛ばしやがった。手先の器用な奴だ…
とっさに後ろに身体を反らしたのもいい判断だ、俺だから届いたが並みの腕ならかわせたかもしれないな。
それにしても、手ごたえが無かった…どんな身体してんのか、もしくは何をつけてやがるのか、どちらにしてもしてやられたことにはかわりねえ。
たいしたもんだ…ちょっと頭に血が上りすぎたか、酒の飲みすぎか。
『人を起こすのに蹴りとは、おちおち気も失えぬでござるな』
『うるせーよ、よく死ななかったな。褒めてやるぜ』
『褒めてもらわなくて結構。拙者はにんじゃ。目的の為なら手段を選ばぬ故』
あきれるぜ…興ざめだ、イライラしてた俺のほうが馬鹿みたいだ…本当に馬鹿だな…
『なぜわざと切られた。差し支えなければ種明かししてくれよ』
カクレは腕を組み考えているようだが、顔を上げると種明かしを始めた。
『では、失礼して。マケイジ殿の剣、それは刀と言うものでござろう。反りのある片刃、鞘に入れたままの状態からの切り込み。もしこれが一般的な剣で突かれていたら…拙者はこの世にはいなかったでござろうな』
見た目と構えから推測、判断、度胸なかなか面白い。
『できれば見せていただいてもよろしいでござるか』
俺は迷わず刀を抜き、カクレに渡す。
ほう、刀の扱いがわかっている奴の見かただな。息を止めて刀身を眺め、反りを見て重心を確認する。
『これは中々の業物。それに手入れもすばらしい、扱うマケイジ殿の技量もかなりのもの…拙者よく生きていたでござるな…』
『よくいうぜ、そういうのは死んでから言えよ。にんじゃ』
『死人にくちなしでござるよ。もう1つの種明かしはこれでござる』
そう言うと奴は上半身をはだけて見せた。
俺を睨んだ嬢ちゃんが両手で顔を隠してるけど、ありゃ指の間から見てるな…
ん、獣の皮か…
『これは一見獣の皮でござるが、二枚の獣の皮の間に細い鎖を挟み込み、自家製の粘度で調合した接着剤で仕上げた品物。細い鎖は斬撃にも強く、適度な柔らかさを保つ接着剤により衝撃吸収効果が見込める自信作なのです』
おいおい、口調が普通になってるぞ。ん、クラッチの旦那の目が輝いてる。
『カクレ、それを商品として私に譲る気はないか。専属の職人として雇ってもいい。必要ならば新しい工房もすぐに用意しよう。報酬は満足する額を約束しよう』
旦那…無理矢理脱がすのはどうかと思うぜ…しかも誰も止めねえ。あ、脱がされた。
思った以上に筋力ねえな…
旦那は完全に商売モードだな。本当に感情的になった俺だけが馬鹿みたいだな、まあ馬鹿だな…
『うぉー痛いでござる。痛いでござる。自慢の装備を突き抜けて体に傷がぁー。恐るべしマケイジ殿』
カクレはどこからか塗り薬を取り出して器用に手当てを済ませる。
『おいにんじゃ、俺の顔に投げたのは金属の玉か』
『さすがに目がいいでござるな、1つ差し上げるでござる』
中々きれいな球体だな…旦那が商売モードになるのもしょうがないか。いい腕だな。
『専属の職人の話を進めたいのだが』
『だが断る。でござる。拙者はにんじゃであって職人ではござらん。故にお断りでござる』
『指輪は約束通り頂くでござる。よろしいなクラッチ殿』
『マケイジがした約束とはいえ、約束は約束、持って行くがいい。それとは別の話でこの装備を譲って欲しいのだが。カクレよ駄目か、対価は払う』
『切られただけでもらうのも悪い故、それは差し上げるでござる。それがあってもおそらく再現は難しいでござるからな』
『タダより高いものは無い。ではこの件は借り1つとしておこう。私に頼みごとがあればいつでも遠慮なくいってくるがいい』
『うわさ以上のお人でござるなクラッチ殿。承知した、何かあれば頼みにくるでござるよ』
カクレは指輪を受け取るお嬢ちゃんに近づきそれを渡した。
『カクレ様…ありがとうございます…』
両手でしっかりと抱きとめるお嬢ちゃん…
『アンナよ、この後時間はあるか』
『クラッチ、奇遇だね、私も話がしたいと思っていたんだよ』
お嬢ちゃんがアンナとやらに近づいて耳打ちした。
『アンナ姉様、私はカクレ様をお送りしてきますわ』
『イシュト、頼んだよ。送ったらまた迎えに来るようにしておくれ』
『はい、姉様』
『では、今夜は失礼するでござる。イシュト殿ギルドまで送って欲しいでござる』
『はい、カクレ様』
旦那は2人を下まで送っていった。残された俺らは旦那が戻ってくるまで無言で待った。
イシュト様からの指示は1つ。『搾れるだけ、搾りなさい』
この後のクラッチの話は間違いなくカクレさんの話…私の腕の見せ所、情報のやり取りで遅れを取るわけにはいかない。
静かな部屋に足音が近づいてくる。
『待たせたなアンナよ、取り引きの時間だ』




