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営業が終わり静かな建物を見上げる。その姿はにぎやかな昼とは違い言葉にできない威圧感を放っていた…
派手さは無いが質の良い材木で出来た重厚な扉から、鍵の開く音が3度聞こえる…
重厚な扉は音も無く開く、よほど腕のいい職人が作ったのだろう、軋む音一つしない。
そこには2人の男が立っていた。
1人は今日の相手クラッチ。仕立てのいい、体格にあったズボンと襟のあるシャツにベスト腰には金の鎖、おそらくは懐中時計であろう。短く刈り揃えられた頭髪は油でしっかりと固められていた。
もう1人は対照的にゆったりした服装に伸ばしっぱなしの髪を後ろで大雑把に一纏めにして腰には細身の剣を差している。その手にはお酒のビンを持っており、不自然さがかえってこちらの警戒心を煽る…
『マケイジか…』アンナさんのつぶやきからどんな人物か知っているようだ。
『立ち話も無駄だ、早く入ったらどうだアンナよ』
『そうだね、お邪魔するよ』
僕らを中に入れたクラッチは扉の鍵を3ヶ所閉め上へと続く階段を先行した。
2人の後を付いてきながら僕はアンナさんにマケイジと言う男について小声で聞いてみた。
『カクレ、あの男は凄腕の剣士だから気をつけるんだよ。色々逸話があるけど今は時間が無いからあれだけどとにかくやばいよ』
『ふむ、気をつけるでござる』
『お2人さん、人のことをこそこそ話すのは感心しないね。俺のことが知りたいなら酒でも奢ってくれればいくらでも話してやるのに』
そういいながらビンから直接酒を煽る。
3Fへ向かう階段の前には注意書きとベルが置かれていた。
「これより上、何人も入らぬように、急用時はベルにて知らせること」
『話は私の部屋で聞く、ついて来るがいい』
少し長めの階段を上り、クラッチは鉤束を取り出し、3ヶ所鍵を開け部屋に入っていった。
部屋の印象は殺風景。大き目の机、小さなベッド、飾り気の無い洋服ダンス。部屋の広さもそこまで広くない、窓すらないこの部屋はまるで監獄のようであった。使用されている材料の良さと見た目のギャップが強烈な印象を僕に与えた。
『クラッチ、客に椅子も無いのかい。相変わらず無粋だね』
『アンナよ今の時点でお前達は客ですらない。用件をいえ』
クラッチは机に座り、引き出しから玉のたくさん付いた木枠を取り出した。あれは確か…
『そろばんとは珍しいものをお持ちでござるなクラッチ殿』
クラッチの指が玉を弾き、僕の方を向き若干目を細める。
『これがわかるのか…お前、名前は』
『拙者カクレと申すもの、にんじゃをしているでござる』
『にんじゃとはなんだ』
『己の心に従い、弱きを助けるものでござる』
『金にはならんな』
部屋には会話のたびにそろばんの玉を弾く音が部屋に響く。僕とクラッチのやり取りは続く。
『では、カクレよこれは何かわかるか』
クラッチは小さなブラシが付いた棒を取り出した。
『雷の力でそのブラシが振動する古代の品でござるな』
表情を変えずにそろばんを弾くクラッチ、その後も数点古代の品を見せられ、その全てに回答を出していった。
『ふむ、カクレとやらお前を見ているとある老人を思い出すな。ソフィルと言う名に聞き覚えはないか』
内心ドキッとしたが僕は平静を装いなるべく自然に答える。
『し、知らないでござるなー』
クラッチは初めて無表情を崩し、一瞬笑みを浮かべた。
『顔を隠している割にはわかりやすい性格をしているな。まあいい、金にならない詮索はしない主義だからな私は』
そんなに不自然だっただろうかと思っているとクラッチは話を続ける。
『あの方の知識はすばらしいものであった、私の商売にも大いに役に立ってくれたものだ。
確か、孫がいたと思ったが…余計な話だったな。アンナよこれは貸しだ』
アンナさんは悔しそうにクラッチを睨みつけていた。僕は話を変えなくてはと思い思い切って話し出す。
『クラッチ殿、イシュト殿の指輪を譲ってはいただけないでござるか』
それを聞き、机の下のほうから小さなケースを取り出した。
『カクレ、この指輪のことをどのように聞いているかわからないが、実際に見てみるといい』
差し出された指輪を手に取り観察する…ん、これは…
僕はイシュトとアンナさんの方を向く。2人は特に焦った様子は無いが心配そうにこちらを見ている。
『お前の見立てはどうだ、そこの2人に話してやるといい』
『これは、古代の遺跡から出たものでないかと思います。一見シンプルなデザインのものでありますが、所々使用されている素材には見ただけでは解りにくい細工が見られ、使用されている宝石は一般的なものであるが配置には何か作成者の意図を感じる…使用方法は不明ですが何かの鍵になる、もしくは何かに組み込まれていたものではないかと………思うでござる』
クラッチはそろばんを仕舞いながら全体を見渡してから僕を見た。
『見解もソフィル殿と同じか…いい目だ。私が指輪を返さない理由。その指輪は大きな金になると考えているからだ、わかってもらえたか』
僕の見解を聞いて、イシュトもアンナさんも驚いている。本当にそんなものだと知らなかったようだ、イシュトは下を向き諦めてしまっている。アンナさんはそんなイシュトの肩を抱きその身を支えている。




