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ついに指名依頼が来る予定の夜がきた。


すっかり準備にも慣れた僕はカクレとなってギルドへ向かう、やっぱりウトウトしているサチルを見つけて声をかける。


『こんばんは、すまぬでござる』


『あ、カクレさん。奇遇ですね。今日はどのようなご用件でしょうか』

明らかに寝起きな声で奇遇ですねっていうサチル…まったく…


『拙者宛の指名依頼が来ていないか確認しに来たでござるよ』


少々お待ちくださいと言い、確認に行ってくれる。しばらくして封をされた手紙をもって戻ってきた。


『カクレさんありましたよ。こちらが依頼書になります、指名依頼は中身をギルド側も把握していませんので確認をお願いします。内容に問題があれば依頼主にギルド側より返却しますので』


『問題とはどういう場合が適応されるでござるか』


『そうでしたね、カクレさんは新人さんでした。通常の依頼は受けた後、達成できなければ罰則があるのは以前説明しましたよね。ただし、指名依頼は内容をギルド側が把握していないので自分の実力に合わない内容の場合があります。例えば強い魔物の討伐や、長期間動きが拘束されてしまうもの、依頼内容と報酬が釣り合わないと受ける側が判断したものなどです』


『つまり、依頼主よりも受ける側の都合が優先されるというわけでござるな』


『理解が早くて助かります。そうしないと、無理やり冒険者の皆様を危険な場所に送り込むことになったり。少ない報酬で仕事をさせることになる可能性があるからです』


『ふむ、冒険者の使いつぶしを防ぐためか…確かに一理ある……でござる。では早速確認するでござる』


封書の外側にはイシュトの名前とカクレの名前が書いてあった。僕は中身を取り出し一枚の紙を開く。そこには短い一文が記されていた。



「明日夜、この間と同じ頃に私の家で貴方を心待ちにしております。心優しきにんじゃ様。あなたのイシュト」



にんじゃとしての本当の意味での初仕事。相手はあのクラッチ…僕は最高に気分が高まっていた。道具屋としても、現在のトップ商人との面会は興味をそそり、デビュー戦としては大きすぎる仕事…でも、やりがいはある。僕は小躍りしたい気持ちでいっぱいだった。



『内容に問題はありませんでしたか』

『問題ないでござる。サチル殿ありがとうでござる。拙者これにて失礼するでござる』


サチルはなぜか不思議そうな顔をしているが僕は頭を下げる。


『そういえば、サチル殿仕事熱心はよいが無理は禁物でござるよ。口元に光るものがあっては美人が台無しでござるゆえ、ではごめん』


イシュトからの手紙を懐に入れ家に戻るため走り出した。




今日も来ないかしらカクレさん…ああ、眠たい…肌も少し荒れ気味だし…



『こんばんは、すまぬでござる』


待ち人がきたわ。自然に自然に…

『あ、カクレさん。奇遇ですね。今日はどのようなご用件でしょうか』


たぶん自然…にできたと思うけど…


カクレさんの指名依頼は実はすでにチェックしておいたのだけれど、とりあえず身だしなみを整えて。


それから、私はカクレさんに指名依頼の説明をする。封筒を開けて中身を確認する彼を見ながらマスクの下の表情を伺う…きっと笑っているんだろうな。なんとなく嬉しそうだから…


本当にカクレさんは顔を隠しているのに今の気持ちがわかりやすい人だな…



あれ、いま私の名前を呼んだ…


それに、仕事熱心って連日夜勤のことを知ってる、まさか…


美人だって、ふふふ…美人か…夜勤続けたいな…




『アンナ、明日の準備はいいかしら』

相手はあの男、準備もしすぎることはないわ。向こうからの返事はただ一言。



「店にて待つ」



その一言から感じられるのは余裕。几帳面な直筆で、それはある意味こちらを歯牙にもかけないような無機質さ…


出たとこ勝負…私は一か八かみたいなものはあまり好まない、この世で負けることは全てを失うこと同じ…不確定なものに価値はない、でもあのにんじゃには賭けてみたくなる…ただのお人よしか、それとも…


『では、アンナ打ち合わせ通りにお願いね』

『了解しましたイシュト様。クラッチとカクレ、両方の姿を明らかにしましょう』


『面白い結果になるのを期待するわ』




『クラッチさんよ、本当に切ってもいいんだな』

『色町の女王がどんな手を使ってくるかはわからんが、冒険者を連れてくるらしい。私の目に適わないような者なら交渉以前の問題だ。利益にならない者は入らないのでな』


『変なことを言う。俺みたいな酔っ払いに高い金を払っている男の言葉とは思えんな。まあ、俺は金をもらって酒が飲めればあとは何もいらんがな』

『私の目は節穴ではないぞ、お前にはそれだけの価値がある。その価値に見合った金を渡している、それだけだ』


『ま、暇つぶしくらいにはなるだろ』

『気楽なものだ、私には暇などないがな』



それぞれの思惑が渦巻く運命の夜が始まろうとしていた。


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