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その夜、僕はカクレとなってギルドにいた。

窓口を見渡しサチルを探すと一番端の窓口でこっくりこっくり舟を漕いでいるのを見つけた。疲れてるんだな…


『すまぬでござる。この間はありがとうでござった』


サチルはハッとして顔を上げた。その口元には光るものがあったが当然追求はしない。

口元を拭いながら。

『あら、偶然ですね。お元気でした』

まったく無理をして…事情を知っている身としては複雑な心境だな…


『あの時受けた依頼の件で少し忙しくしていたのでござるよ』

『そうでしたか、今日はどのようなご用件でしょうか』


あ、しまった心配で見に来たけれど…特に用事がない…


『あの…えっと…そうそう、そうでござる。依頼人からの追加の連絡を待っているのでござるが個人を指名してもらえるようにお願いしたのはよかったでござるが、お恥ずかしい話、仕組みを知らなかったゆえ、聞きにきたでござる』


口ごもる僕に若干怪しい眼差しを向けられるが、サチルは説明を始めてくれた。


『個人依頼等の指名は窓口に問い合わせをいただくか、連絡先を登録していただければギルドよりお知らせに伺いますよ。カクレさんも連絡先を登録されますか』


サチルの目が一瞬光ったように見えた、当然連絡先など教えるわけにはいかない。じゃあ、あなたの隣の家になんて口が裂けても言えるわけない…アンナさんの件もあるから余計にだ…


『拙者、家を空けることも多いので窓口で確認することにするでござるよ、お気遣い感謝するでござる』


明らかに落胆した様子のサチルに悪いと思いながらきっぱりと断った。


『そうですか…ちょっと確認しますね』そう言って裏に下がっていった。



『今のところ、依頼はきていないようですね』


長居は危険と感じた僕はサチルに重ねて御礼を言って早々にギルドをあとにした。

帰り際に『どこかに住んでいるんだ…』とつぶやくサチルの声に自分のうっかり加減にあきれながら家に戻った。




一夜明け、今日こそは店を開けないとと思って開店の準備をしていると僕に近づく人影が。



『ハクレ君、ちょっといいかしら』

振り向くとそこにはモフィーさんが真剣な顔で迫ってくる…

『モフィーさんおはようございます。そんな顔して何かあったんですか』


『ハクレ君、今日の夜時間とってもらえないかしら。お願いよ、何とか時間作って頂戴。あの子が仕事に行ったら呼びにくるからね。夕飯は私が作るから。うちの人と一緒にご飯を食べましょう。ね、いいわよね、約束よ』


すごい迫力でせまるモフィーさんに僕はただただ頷くしかなかった。



『ママ、何やってんのよ』

サチルの声にいつもの感じに戻るモフィーさん。

『ただ、朝の挨拶しているだけよ。ねーハクレ君…』


僕は力いっぱい頷き、モフィーさんの言葉を全力で肯定した。


『ふーん、まあいいわ。ハクレ、簡単でいいから甘いもの作ってよ』

『夜勤明けなのに寝なくていいの』

『あんまり早く寝ると変な時間に眼が覚めるのよ。聞いてもらいたいこともあるし。つべこべ言わないでさっさと作る』


『今日はお店開けるんだけどな』

『その間、店番でも何でもやるからお願い。それとママは帰った帰った』


そう言われてモフィーさんは『ハクレ君お願いね』といって帰っていった。



今日はどうしようかな。あくびしながら店番しているサチルを見ながら考える…


卵を割って少量の小麦粉と砂糖を混ぜる、それを僕お手製の一人用の小鍋で焼く。

その間に花の蜜を少し煮詰め香りを出す。

ミルクを温め、煮詰めた蜜を少量加える。焼きあがった卵にも蜜をかけて出来上がり。


うたた寝をしているサチルに差し出すと口いっぱいにほおばりながら話し出す。


『ハクレ、昨日やっとあのにんじゃのカクレさんが来たのよ』

弾む声でとても嬉しそうに話し出す。

『あの人この街のどこかに住んでいるみたいなの。どこかで合っているかもしれないわ』


『本人がそう言ったのかい』

『それは…でも、でもよ家を空けていることが多いって言っていたわ。ということは家があるのよ。間違いないわ』


ほんとに面倒なことになった…深入りは禁物だな…

『そうかもね。他には何かわかったの』


『ううん、それ以外はまだ何も…でも指名依頼があるみたい、そこから何かつかめるかもしれないわ』

『あんまり、執拗に追いかけると相手がサチルを避けるかもしれないよ』

『でも、気になるものは気になるのよ。まあ、ハクレの言うことも一理あるわね。気をつけるようにするわ。ごちそう様。夜勤も続くと結構しんどいのよね、帰ってまた今夜に備えるわ。バイバイ』


いつもの通りマイペースに食べて、喋ってサチルは帰っていった。


夜限定の活動も考え物だな、サチルの体調も心配だし…どうしようかな。

なんてことを考えながらギルドへの納品分の薬を作りながら、今夜のことやこれからのことを考えている間に時間はあっという間に過ぎていった。



外が薄暗くなってきたころ、店にモフィーさんが来て僕を急き立てる。


『あの子がさっき出て行ったわ、さあさあ早く家に来て』それだけ言うと足早に出て行った。


何が起こるんだろう…不安しか感じないけれどちょっと早い店仕舞いをしてお隣さんへ重い足取りで向かう僕がいた…


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