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3日後か…あのクラッチが興味を引くような何かが僕にはあるのだろうか。
僕が知るあの男の情報はとにかく金、金、金。金の香りのするところには必ず本人もしくは側近の者の姿がある。ミスを許さず、できる者への報酬を出し惜しむことはない。
それでもイシュトは言った。『あの男の手にある以上、金銭では取り戻すことができないのです』と。金額が膨大だからなのか、それとも違う意味があるのか…ますますわからないな。それと僕に興味を持つことが繋がらない。
夜の街を抜けながら一人考えながら走り抜ける。
旧市街に入った辺りから街はさらに静けさを増す、そこで後ろから追われているのに気付く…
考え事をしていたとはいえ修行が足りない、僕もまだまだだな。でも旧市街は地の利がある。
ちょっと聞いてみようか…
知っている大きめの空き家に滑り込む。
この空き家は2Fがあり部屋数も多い、入り口の扉をすばやく閉め2Fへ上がり追っ手が姿を現すのを待った。
しばらくして音もなく入り口の扉が開きフードを被った人物が空き家に入ってくる。
『拙者に何か御用でござるか』僕は床の割れ目に口を当てて話しかけた。僕の声は反響して、相手は1Fのどこかの部屋から声がしたと思ったのか僕の足元の部屋に静かに近づいた…古い床板が軋み鈍い音が響く…
相手が1Fの部屋に入ったのを見計らい音もなく1Fへ降り入り口へ向かう。相手はまだ部屋を調べているみたいだ。
僕は入り口にべたべたした作業用の油をばら撒き、わざと大きな音をたてて入り口の扉を開けた、その音を聞きつけて部屋から出てくる追っ手に向かって。
『どこの手の者かは知らぬが余計な詮索はやめていただくでござる。では失礼』
僕はその場を走り去る、後ろのほうで派手に扉にぶつかる音を聞きながら自分自身にも油断大敵、移動中の考え事はほどほどにしようと思いながら街外れまで進んだ。
下水を抜けて家に戻って着替えをする。さてと3日後までは本業を頑張ると決めて眠りについた。
次の日、いつものように街を出て今日は近くの森で色々な材料を採取、主なものは薬草の類を探しながら、弱い魔物からの素材も集める。これが週に1回ないし2回行っている。急に必要な時はギルドで調達する時もあるけれど基本的には自分の目で見て採取することが多い。サチルに言わせると万が一もあるから依頼を出せばいいのにってよく言われるけど、これはじいちゃんの教えでもあるから譲れない。じいちゃん曰く『素材から見極め、その素材を活かすのが道具屋の本質である』だそうだ。僕もその考え方が好きだし、調合等は特に仕上がった物の質が大きく変わることもある。一定以上の質を求めるならば当然とも思えた。
僕みたいに資金に余裕がない個人職人は仕方がなくやっている面もあるけどね。一人が好きな僕にはこのやり方があっている。
今日はいいペースで薬草も多く取れたので残った時間で弱い魔物を探す。最近の狙いはスライムと火ふきトカゲを中心に素材集めをしている。
お、いるいる。スライムは水場の近くに群れていることが多く、魔物といっても積極的に人などを襲うこともない、死骸や小さな虫などを分解して養分を取っている。スライムの体はゼリー状でいろんな薬品と混ぜるとその性質を変えることから様々な用途に使用される。最も一般的なものは接着剤として使用する方法だ。
僕は核を傷つけないようにゼリー状の身体を切り取り防水性のある皮袋に容れて行く。
十分採取したあとは森の奥の岩場に移動してトカゲ探し、20cm~30cmくらいのトカゲなので入れば見つけるのは簡単、動きもそこまで速くない。
注意するのは正面にいると口から小さいけど火を吹くので後ろから近づくこと、素材を無駄にしないように首の付け根を一突きでしとめること。発火性の体液と打ち付けると火花が散る性質の歯、その皮は耐火性に優れている。
僕は時間をかけて2匹しとめると袋に入れた。
そろそろ日が傾くな、帰るか…
今日の収穫を持って街へ戻る。
店の前につくころには夕日が眩しい時間になっていた。隣からはふらふらとサチルが出てくる。
『おーい、今から出勤なの』
『ん、ああハクレじゃない、そうよ今から出勤。ハクレは素材集めだったの。急に強めの魔物が出る場合もあるんだから…何度言っても聞かないわね。十分気をつけるのよ』
『わかってるよ、自分の強さくらい知ってるよ。遠くには行かないし万が一の時はすぐ逃げるからさ。それよりふらふらしてるけど大丈夫なの』
『さすがに毎日夜勤はきついわね。あの日以来カクレさんは現れないし。新人冒険者なのにご飯食べれているのかしら。心配だわ』
サチルはやさしいな…今夜少しギルドに顔でも出そうかな…
『あー、いけない、遅刻しちゃうわ。じゃあハクレくれぐれも危ないことはだめよ、じゃあね』
サチルは自分の頬を軽く2回叩き気合を入れて出勤していった。
僕は家に入り作業場へ直行すると、今日取ってきたものを素材保管用の入れ物に入れたり、トカゲの解体を始めた。一通り終えるころには日も沈み、にんじゃスタイルに着替えて買い置きのパンを口に入れ、下水からギルド目指して出かけるのであった。




