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『いよいよ始まるでござるな、拙者のにんじゃとしての日々が』




月も隠れる闇夜の中に蠢く者が1人。その素顔をマスクで隠し、裏通りを進む姿に音は無く、人型の闇は走り続ける…


『思えば長い道のりであった…』走り続ける者は昔を懐かしむ…

時は昔にさかのぼる…





『ハクレ、ハクレよ。やっぱりここにおったか』

『じいちゃんどうしたの』

『どうしたのじゃないわい、ほれご飯じゃよ』


僕の日課はじいちゃんの集めた本を読むこと、時間があればずっと読んでいる。大好きな本はボロボロだけどかっこいいにんじゃの本、闇にまぎれて人を助ける、表には出ないけれど人の為に頑張る姿に地味な僕は勝手に親しみを感じていた。


じいちゃんの集めている本はよくわからないのも多いけど、どれもこれもとっても面白い。

じいちゃんがいうには『古代の英知がこのわしの手の中じゃ』って言ってる。僕はお父さんの顔もお母さんの顔も覚えていない、僕が小さい頃に死んじゃったらしい、じいちゃんは昔の本を読む為の文字の読み方や色々な道具を作る為の方法はいっぱい教えてくれるけど、お父さんやお母さんのことはあまり話してくれない…

でも時々お酒を飲みながら1人で泣いているのを見たことがある、その日以来じいちゃんに両親の話を聞くのをやめた。



『ハクレ、その材料は加工が特殊じゃとこの間教えたじゃろうが』

『ごめん、おじいちゃん間違えちゃった』


しょうがないやつじゃっていいながら僕の頭を撫でるおじいちゃんは嬉しそうだった。


『ソフィルさんお邪魔してもいいですか』大きな声が店の奥の作業場まで届いてきた。


『エヌディ、なんか用か、そっち行くからまっとれ』僕とおじいちゃんは店のほうに向かった。隣のエヌディさん、僕はちょっと苦手…お父さん達と子供の頃から一緒で仲がよかったんだってじいちゃんがいってた。


『おおーハクレ、元気か、本ばっか読んでないで外で遊べ。体が弱ってしまうぞ』

『まあまあ、エヌディ、人には向き不向きもある。ところでなんか用事じゃなかったのか』

『おお、そうでしたちょっとギルドに持ち込まれたもので古代の遺産らしいものがあって鑑定をお願いできないかと』

『なに、それを早く言わんか、すぐ行こう。ハクレ遅くなるかもしれんからエヌディの家で待ってなさい、エヌディいいな』

『全然かまいませんよ。すぐ来ていただけるのは助かります』


2人は隣のエヌディさんの家に僕を置いて、ギルドまで出掛けていった。おじいちゃんは珍しい品物や、古い本に目が無い。時々依頼されてはこうして出かけていく。



『あら、ハクレいらっしゃい。またパパがソフィルさんにお願いしたのね。いいわ、あたしが遊んであげるからね』


そう言って僕の手を引いて外に行こうとしているのはサチル、僕より少し年上で何かと世話を焼きたがる、悪気が無いのは分かるんだけど僕は家の中で本を読んでいたいんだけどな…


『さあ、かかってきなさいハクレ。男子たるものか弱い女性を守れるくらい強く無いといけないのよ。パパが言っていたわ』

『サチル、そのか弱い女性がなんで木刀持って僕に稽古をつけようとしてるんだよ』


広場で木刀を持って対峙している僕とサチル、何かがおかしい。


『ハクレがいつまで経っても私より強くならないからでしょうが』

『僕は強くならなくてもじいちゃんの後を継いで道具屋になるからいいんだよ』

『だめよ、パパは自分より強い男しか認めないっていっていたわ。だからハクレは強くならなきゃいけないのよ』

『なんでエヌディさんに認められなきゃいけないのか分からないよ。それにエヌディさんより強くって無理じゃないか』


サチルは少し考えて、難しい顔をしながら唸りだした、しばらくして考えが纏らなかったらし。


『細かいことはいいのよ、やればできる、その気があるかないかが大事なのよ』

『むちゃくちゃだよサチル』


うるさいうるさいとぷんぷん怒りながら木刀を振り回す。僕は必死で逃げ回る。

『野犬だ、魔物化してる、危ないぞ』遠くから声が聞こえる。


黒いもやがかかった犬が僕達のほうに突っ込んでくる。僕は腰を抜かして座り込んでしまう。視界を遮る人影が立ちふさがった。

『ハクレには指一本触れさせないわ』

魔物化した野犬に木刀を構えて迎え撃とうとするサチル、僕はただその影に隠れていることしかできなかった。飛び掛る野犬、その前足がサチルの肩に深い傷を刻み込む。


『ハクレ、大丈夫だった。怪我は無いわね。よかった…』

そう言うと、サチルは気を失ってしまった。僕は近くの人に助けを求めサチルの家に運んでもらうことしかできなかった。


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