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HelleN! -愛情よりも大切な-  作者: パンダらの箱
「愛情よりも大切な」編 vs味覚破壊
2/98

塩谷の死 -冥界はまるで天の川のように輝いて-

 塩谷始音。十六歳。

 この私立伏丹高校に入学して、まだ間もない少年だ。

 彼は数時間後、謎の虹色の料理によって死亡することになるのだが、この時の彼はまだそれを知らない。


「熱い……」


 休み時間。塩谷は、自らの席がある一年生の教室にいた。

 塩谷は窓際の席なのをいいことに窓を全開にし、下敷きで自らを扇ぎ続けていた。まさに本日晴天なり、といった天気のせいで熱いのだ。まだ本格的に夏には突入していないが、それでも結構な熱量だ。

 これはもう夏が間近に迫っているということなのだろう。


(いっそ。夏なんて来なければいいのに……)


 彼は延々照りつける太陽をじっと睨む。

 元々、熱いのは苦手な性分であるため基本的に晴天は嫌いなのだ。


 ―――これぐらいでへばっちまうなんて、お前それでも料理人かよ?


「む」


 かつての友人の言葉を思い出し、塩谷は一瞬、不機嫌そうな表情を浮かべてしまう。

 だが、すぐに元の気だるそうな表情を浮かべ直し、いやいやと首を振った。


(あれは、もう忘れたはずだったんだけどなぁ……)


 塩谷は久々に思い出した友の声に、ほんの少しだけ想いを馳せる。

 だがそんな事を考えてしまうと、せっかく理想の生活を送っているというのに、少し気分が萎えてきた。


(料理なんてもうしない。僕は、そう決めたじゃないか)


 塩谷は決心を繰り返し、思考を切り替えるよう努める。

 そうだ。もう彼は料理とは無縁の人生を送っているのだ。ずっと待ち望んでいた平和な日々を満喫しているのである。

 だから、もうこんな事を気にする必要もないわけだ。考えるだけ無駄なことなのである。


 ―――けど、勿体ないだろ。そんなの。


 無論。もしもかつての友がここに居たのなら、そう言って噛みついてきた事だろう。

 確かに料理人をやめるのは勿体ない、というのは一理ある。

 現代において料理人の扱いはかなり良いどころか、もういっそ破格であるぐらいだ。

 そもそもただ料理人として活動しているだけで、国からの援助が得られるような時代である。料理人であるというだけで、様々な恩恵が得られるような時代になったのだ。

 塩谷も料理人を続けていれば、そんな夢のような人生を送れたはずなのである。

 しかし、そんな人生は塩谷の興味の埒外にあった。平穏さえあればそれでいい、それが塩谷の考える理想であったのだ。

 それ故、塩谷は料理人に戻ろうなどとは決して思わない。


(いや。もう、いいよね。済んだ話だ)


 塩谷は自らにそう言い聞かせ、思考を中断させる。これ以上、考える必要はないと判断したのだ。


「それにしても熱い……」


 下敷きで身体を扇ぎ続ける塩谷だが、その視線はどこか宙ぶらりんだった。

 料理をやめた理由。それについて再度考えさせられたからだ。

 考えたくなくても一度意識を向けてしまった以上、どうしても思考から外せなくなってしまう。

 塩谷は過去の友人に憤りを覚えつつも「まあそんな事は忘れて、早く楽しい怠惰な日常に戻ろう」なんてことを考えていた。

 しかし、そんな考えは甘かった。

 突如、開かれる教室のドア。それと同時に響く女子の声。


「今度こそ、ここが1ーDの教室で間違いないわね!? お邪魔するわ!!」


「!?」


 急な出来事に驚き、塩谷は咄嗟に声の方向を見る。周囲のクラスメイトも、みんなだいたい同じようなリアクションをとっていた。

 今時珍しいコテコテの女言葉である。これは反応せざるを得ない。

 開かれたドアの外側には、強気な眼をした髪の長い少女が立っていた。彼女は偉そうに両腕を組み、見下すように顎を上げ、ゆっくりと教室の中へと入ってくる。その顔には自信満々の笑顔が張り付いていた。見たことのない女子である。

 そんな思わぬ来客に塩谷も「なんだなんだ」と思った、その時。


「塩谷始音くんはどこ? 用があるの! ちょっと顔貸してくれないかしら!」


 少女が言うなり、教室中の人間が塩谷の方を見る。

 そして、塩谷が何か反応するより前に少女はターゲットに気がついたようで、すたすたと淀みなく塩谷の方に歩いてくる。


「え、僕?」


 あまりに突然過ぎて、塩谷はそんな台詞しか言えなかった。

 だが、うろたえている彼とは正反対に、塩谷の眼の前まで来た少女は嬉しそうな声でこう告げるのであった。


「あなたが伝説の料理人……ついに見つけたわ。さあ、ちょっとついてきて!」

「え?」


 少女の声を聞き、塩谷は軽く頭痛がするのを抑えられなかった。

 これから起こる波乱の予感に怯え、不安感を隠しきれなくなったのだ。

 そして、結局。


「ちょ、ま、待って! ちょっと、ねえ!」

「いいから早く来て! 早く早く!」


 塩谷は少女に腕を引かれ、半強制的に廊下を引きずりまわされる事になってしまった。

 少女の足取りはしっかりとしたもので、どうやらきちんとした目的地があるのだろうと塩谷は推測する。でないと、ここまで迷いのない足取りはあり得ないだろう。

 少女は意外と力が強く、歩くペースも早めだったので、塩谷は油断するたび転びそうになってしまった。

 ついていくのに必死で碌に周囲の様子を見ていなかった塩谷だが、少女が歩みを止めると同時に、ようやく自分が何処まで連れてこられたかを把握する。


「ついたわよっ!」

「ここは……」


 調理室、プレートに書かれたその文字が塩谷の眼に入る。

 そう。少女の目的地とは、まさにこの調理室のことだったのだ。


「ねえ、君、まさかこれって……」

「まあまあ、そんなのはいいからまず入って!」

「ちょ、うわっ!」


 少女に背中を押される形で、塩谷は調理室の中へと入って行く。

 中の様子はまさに一般的な調理室といった感じで、複数の調理台と、食器類が詰まった食器棚が主な設備となっている。

 この学校は料理人教育に力を入れていないため、大方こんなものだ。そもそもこの教室自体、使われる事が稀である。


「ね、ねえ。こんな所に呼びだして、な、何の用……?」


 塩谷は、拭いきれない不安を胸に質問する。もちろん。こうなってしまった以上、絶対に良い答えは聞けないという事を彼は正しく把握していた。

 しかし、聞かずにはいられなかったのだ。


「ていうか君、誰? どうしてこんな無理矢理……」


 これは、塩谷からしてみれば至極まっとうな質問だった。

 しかし、それを受けた少女はニヤリと嫌な笑みを浮かべる。塩谷は彼女と初対面であったが、しかし、それでも考えていることがわかってしまえるような笑みだ。

 「よくぞ聞いてくれました!」と顔に書いてあるのである。

 それを見て、塩谷の不安感も更に重さを増していく。

 だが、そんな事知ったこっちゃねえと言わんばかりに、少女は高らかに宣言する。


「そうね。そういうことなら自己紹介させて貰うわ! わたしの名は天川甘音あまかわあまね。これは幸運の四文字よ。わたしの名前を、しっかりとその記憶に刻みつけなさい! 今日はあなたにお願いがあって、ここまで来てもらったの。もちろん聞いてくれるわよね?」

「いや、お願いって。教室じゃ駄目だったの?」


 流されるまま連れてこられた塩谷の言える事ではないのだが、それでもこれは大きな疑問である。


「だって、ここの方が手っ取り早いと思ったの。わたしのお願いにも直結してるしね!」

「……まさかとは思うけど、そのお願いっていうのは?」


 塩谷は質問しつつ、内心気が気でなかった。

 もうここまで来たら、用件なんてだいたい決まっているようなものだ。塩谷の経歴とこの場所から導き出される答えなど、ほぼ一つしかあるまい。そんな事など、塩谷も本当はわかっているのだ

 けれども、塩谷は焦燥感を抑えきれずに聞いてしまった。それは大きすぎるミスである。塩谷は言葉を放ったあとに後悔するが、もう遅い。

 天川が満面の笑みで指を一本立て、ノリノリで答えようとしているからだ。


「わたしからのお願いはたった一つよ! 伝説の料理人、塩谷始音くん……わたしに料理のコツを教えて!」

(……うわぁ、やっぱり)


 塩谷はこの状況に頭を抱える。

 この少女、天川甘音は、塩谷に料理を習おうとしているのだ。

 かつて伝説と呼ばれ業界を震撼させたこの塩谷始音に、しかしある時を境に料理をきっぱりやめてしまったこの塩谷始音に、この少女は教えを乞おうとしているのだ。

 それも何ともまあ自分勝手にである。


「……ごめん。断る」


 塩谷に、それ以外の選択肢などなかった。

 彼は、もう二度と料理するつもりなどないのである。

 その理由を詳しく説明するつもりはないが、他に断る理由が複数あるのも確かだ。

 後はもう適当に謝って帰ろう、塩谷はそう考えて対応する事にする。


「うん。ごめん。無理だよ」

「……えっ? ダメ、なの……?」

「えっ、何意外そうな声出してんのさ。断られる可能性考えてなかったの? ……とにかく、悪いけど、僕はもう料理はやめたんだ。他の人にでも頼んでくれないかな」


 断りの言葉を吐き捨てる塩谷。

 彼はこれだけ言って帰るつもりだった。それ以上、少女に言うことは無いからである。

 だが、天川はここで喰らいついて来た。


「ちょっと待って! 待って待って! ちょっと話だけでも聞きなさい!」

「何で命令口調なの? 何? 別にこれ以上何を聞いても……」

「いいから話だけでも聞いてくれてもいいじゃない! ていうか、聞いて! お願い!」

(弱ったなぁ。どうしよう)


 強く迫られると断れないのが塩谷始音という男だ。彼は、もともと思ったことをストレートに口にするようなタイプではないので、こういう状況をうまく回避するのは苦手なのだ。

 塩谷は、どうしようかと考える。話だけなら聞いてもいい、という気持ちもあるが、それをして何になるのだという気持ちもある。

 そんな葛藤に、彼がうんうん唸っている時だった。


「実はわたし、これから一週間後に、料理対決をすることになったの」

「!?」


 天川が勝手に話し始めてしまった。その上、何やら面倒事まで抱えているようだ。

 塩谷は、止めきれなかった自分を責めると同時に、激しく後悔する。


(うわぁ。どうしよう。この人……面倒くさいなあ。ああ、もう、仕方ないか)


 彼は、もうこうなった以上聞くしかなさそうだと判断し、ひとまず話に耳を傾けることにする。


「で、その勝負の相手が辛籐空美って言うんだけど……」

「え? 待って。辛籐空美ってあの辛籐空美?」


 辛籐空美しんどうからみと言えば、最近話題の料理人だ。この程度の情報ならば、しばらく料理界から離れている塩谷ですら知っている。

 辛籐の作る料理は、その名の通りと言うべきか“辛いもの”が非常に多い。だが、それ自体は賛否両論であり、彼女自身も料理人としてそこまで優れているわけではなかった。

 しかし辛籐の真骨頂は、そういった方面で発揮されるものではないのだ。


「料理対決で、最近ほぼ負けなしっていう噂の、あの辛籐空美なの?」


 おそるおそる塩谷が問う。

 辛籐は、普通に料理を作らせれば、ただのアクの強い料理人でしかない。

 しかし、それが審査員を間に挟んだ対決ならば、話は別なのだ。彼女は多くの挑戦者とぶつかり合い、そして数多の勝利を重ねてきている。

 更に言うなら挑戦を受ける側に立った場合、彼女の勝率は何とほぼ百パーセントだ。

 それも、今のスタイルが確立されてからは一度も敗北していないらしい。

 連勝無敗神話。

 挑んで来る無数の敵を全く寄せ付けない、その不落城が如く堅固な実力から「不落嬢」の異名をもつ少女、それこそが辛籐空美だ。


「ははっ、いや、いくらなんでも違うよね? ごめん、僕の早とちり……」

「いえ、合ってるわ。同姓同名でも何でもなく、正真正銘あの『不落嬢』の二つ名をもつ、辛籐空美よ!」

「へ、へえ。そう、なんだ……」


 塩谷は、唖然とすることしか出来ない。

 経緯こそ全くわからないが、彼女が相手にしようとしている者は想像以上に強大だ。相手が辛籐となると、きっと全盛期の塩谷ですら危ういだろう。

 それなのに、そもそも天川は料理を専門とする学校に通ってすらいない。自分達が今いるこの伏丹高校は小中高一貫のそれなりに上等な教育機関であるものの、料理関連にはほとんど力を入れていないのだ。そんな学校の、しかも助けを求めるレベルの生徒が敵う相手ではない。塩谷は冷静にそう結論づける。

 戦う前から勝敗がわかっているようなものだ。脂の乗ったプロボクサー相手に、ガチガチの文科系学生が挑むようなものだ。


「な、なんでそんな絶望的なことになってるのさ……? ていうか知り合いだったんだ……」

「絶望? 何を言っているの? わたしは勝つわ」


 さらりと言ってのける天川だが、その根拠はどこにもない。

 塩谷は、彼女の能天気ぶりに溜息を吐き捨てる。


「自信あるんだ。じゃあ僕いらないじゃん」

「え? な、何言ってるの!? もちろんわたしの素の実力でも勝てる自信はあるけれど、こ、こういうのは圧勝したほうが面白いでしょ?」

「何動揺してるのさ? ていうか、そういうものなの?」

「そ、そうよ! 普通に勝つだけじゃつまらないじゃない!」


 天川は、自信満々でそう言い放つが、どこか白々しい口調であった。

 嘘をついているかのように泳ぐ目。

 言っている内容も、どこか説得力に欠けている。

 そんな態度から、塩谷は彼女の真意を見抜く。


(あっ、そうか。そういうことか。なら、素直に自信ないから手伝って、って言えばいいのに……)


 天川は自信満々を装っているものの、塩谷に協力を求めている以上、それは自分の実力に自信をもっていないことを意味する。

 本気で勝てると思っているのなら、そもそも一人で挑むはずだ。自信があるのなら、他人に助けを求めるなんて行動はありえない。

 恐らく、天川は自信をもてるぐらいの料理の腕前はあるのだろうが、心の奥底では今一つそれを信じきれていないのだろう。

 だから、このような状況になったのだろうと塩谷は推測する。


(まあ、頼まれても手伝えないけどね。そんな安い同情じゃ動けないというか……ごめん)


 塩谷は心の底で謝罪しつつも、自分の気持ちを固く結ぶ。

 相当なことがない限り、彼は料理の世界に戻るつもりなど一切なかった。


「ま、まあ最悪、あなたの協力が無くても大丈夫だけどね! あんなのに負ける程、わたしの本気は……あ、甘くないわ。ひ、一人でも、全然平気だもの……」


 そう言ってのける天川だが、少し自信が揺らいでいるような口調になっていた。

 塩谷の推測通り、やはり彼女自身、本気で勝てるとは思っていないのだろう。今の彼女の発言が本気なら、塩谷を拉致してまで協力させようとしたことや、断られた時の意外そうな態度や、その後必死に食らいついてきた必死さも、全て嘘ということになる。

 塩谷は、そんな彼女を見捨てる事に少しだけ罪悪感を覚える。彼女が負けてどうなるのかは全くわからないが、本気で勝ちたがっているのだけは事実のはずだ。

 このままみすみす負けさせるのも、それはそれで気が引けるというものである。

 だが相手は連戦無敗神話の不落嬢、辛籐空美だ。せめて、他に協力者はいた方がいいだろう。天川一人では絶対無理であるとしか思えない。

 塩谷は「他に頼れる人がいるのではないか」というニュアンスで、天川を諌めにかかる。


「でも、一人で挑むのは、やめておいた方が……」

「あー! あなたまでそういう言い方するの!? どうしてみんな、まだわたしの料理を食べてもいないのに、そうやって一人じゃ勝てないって決めつけるの!?」

「みんな? とにかく、いくらなんでも相手が……」


 塩谷がそう言いかけた時、天川が調理台を強く叩いた。


「わかったわ!」

「な、何が……?」


 突然、天川が何かを決意したような顔で、塩谷を真っ直ぐに見つめてくる。

 すっかり逃げるタイミングを無くしてしまった塩谷は、もう彼女の発言を待ちかまえる事しか出来なかった。


「料理を教えてくれるかどうか、という話は後でいいわ。その代わり、まずはわたしの作った料理を食べてくれない? 今は、それだけでいいわ」

「味見役だけでいいってこと?」

「そうよ! あなたは、たしか審査員の経験もあるのよね?」

(うわぁ。よく調べてるよ)


 塩谷は、天川の知識量に焦りを覚える。自分の事を詳しく調べられるのは、塩谷としてもあまり気分の良いものでは無かった。もちろん隠している情報ではないのだが、だからといって知られたい情報だというわけでもない。

 たしかに塩谷は料理人をしていた頃、時々雇われで審査員をしていたこともあった。とはいってもほんの数回程度だが、そもそも審査員自体、味覚に定評がないと不可能な仕事である。

 塩谷は、基本的に王道的な料理人であった。加え、自分の舌で味を確かめて料理の味を調節するタイプの料理人であったため、そういった仕事が舞い込んできたというわけだ。


「実際に食べてみて、味の良し悪しぐらいは、判別してくれてもいいじゃない? お願い」


 ハードルの下がった天川の「お願い」。

 塩谷は、これだけで済むなら安いものだろうと判断する。ここで断って、再度頼まれたりするよりは、よっぽど気が楽だと思ったのだ。

 塩谷は、天川に笑顔を向ける。


「しょうがないなぁ。わかった。いいよ。やるよ」

「本当? ありがとう!」

「で、今作るの?」

「まさか! 放課後までには調理の準備しておくから、放課後、必ずここに来てよね!」

「うん、わかった」


 と、ここまでのやり取りを経て、塩谷始音は天川甘音の作った料理を食べることになったのであった。

 ここから先は冒頭の通りだ。放課後。天川の調理過程で地獄が生まれ、想像以上におぞましい物体が食事として出され、それを食べた塩谷は死んだのだ。


 死。


 そう。

 比喩でも暗喩でもなく、文字通り塩谷は死んだのだ。それは、生命活動が停止するという意味での死。

 天川の料理は、文字通り人を殺せる料理だったのだ。

 何か有害な食材を使わずとも、人体に危害を及ぼす料理を作る事は可能である。たとえば焦がしたり、調味料の量を思いっきり間違えたり、あまりにも間違えた手順で作ったりすれば、どんどん人体に対する危険性は高まっていく。

 天川甘音の作る料理は、それらの危険要素を極限まで高めたような代物であった。だから、口にした塩谷は即死してしまったのである。

 だからといって肉じゃがの材料では、絶対にゾンビの腕のような料理にはならないはずなのだが、それをやってのけるのが天川の凄まじいところであった。

 兎にも角にも、こうして塩谷始音の魂は天へと誘われたのであったとさ。

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