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ウェザリア王国物語~グラスノース編~  作者: 夕闇 夜桜
第四章:学院・二年生、笠鐘詩音編
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第八十四話:守るための方法


 シルフィアには準備をすると言った結理(ゆうり)だが、現状では狙われている相手が分かっているだけで、相手が次にどのような手段を使ってくるのか等については、不明なままである。

 最優先で知りたいのは殿下たちを狙うその理由だが、それ以前に次の襲撃がいつなのか分からない以上、そんなに準備に時間は割けない。


(となると……)


 短期間どころか短時間で、手持ちの道具ででどうにかするしかない。


「ったく、本当に面倒事を起こしてくれたもんだわ」


 もし、敵と鉢合わせしたら、一発ぐらい殴らせてもらおう。

 とりあえず結理は、そう決めるのだった。


   ☆★☆   


 さて、仕事は仕事。

 たとえ嫌な相手が相棒(パートナー)だったり、護衛対象だったとしても、その与えられた任務は遂行しなければならない。


「というわけで、少しの間離れることになるわけだけど、大丈夫かな?」


 そもそも結理の仕事の契約主は朱波(あけは)であり、異世界に来た今もその仕事は遂行中と言っても過言ではないので、その確認と報告に来たわけだがーー


「大丈夫。廉(れん)たちも居るし、そんな極端に離れるようなことも無いでしょ」


 それに、と朱波は言う。


「それに、結理のことだから、少しの間、不在だったとしても、何か対策しておいてくれるんでしょ?」

「それはそうなんだけど……」


 心配で不安なことも、そのための対策が無いことも否定はしない。

 もし、朱波や他の面々に何か遭ったとなれば、結理は普段以上に冷静さを欠くことになることは、容易に予想することができる。

 それでも、こちらに話を回してきたのは彼女たちなのだ。

 それでも気になると言うのであれば、早々に仕事を終わらせて、戻ってくれば良いだけのこと。


「だから、これを渡しておくよ」


 予期せぬ驚異から、彼女たちを守るための、対策の一つ。


「……これは?」


 朱波の疑問に、結理は説明する。


「守護の指輪。正直、性能テストすらしてないから、ぶっつけ本番みたいな感じになることを想定するとなると、渡したくはなかったんだけどね」


 手段は選んでいられないし、と指輪は困ったような表情を浮かべる。


「私が不在ってなると、戦闘的立ち位置は、朱波が中衛の位置に来ることになるだろうから、その指輪の所持者だけではなく、前衛と後衛にまで範囲を及ぼす能力が込めてあるから」

「……」

「やり過ぎだって、思ってもらっても構わない。でも、何があるか分からないから、可能な限りは持っていて」


 そんな結理の説明に思うところがあったのか、朱波が尋ねる。


「能力については、分かったわ。でも、防壁なら詩音(しおん)のものがあるわよね?」

「それは、私も考えなかった訳じゃない。詩音の防壁なら、どんな攻撃であろうと、ある程度は防げるだろうしね。でもーーそれは絶対じゃない」


 この世界に来てから、彼女が使う防壁や結界の類いがどれだけ強力になったのかは、結理は知らない。けれど、どれだけ強力であったとしても、いつか破られる時が来る。


「それに、詩音は私たちの治癒士(ヒーラー)でもあるから、使用する防壁の一部を指輪(これ)が代わりに行ってくれたら、使わない部分の魔力は回復にも回せるし、別の防壁のにも使うことができる」

「……なるほどね。私たちを守りながらも、存在不可欠な詩音の手数も増やす、と」


 それでも、心配なものは心配だが、代わりとなるものは渡したのだ。結理の不在の間だけでも守りきれるのであれば、性能テストとしても上々と言えるはずだ。


「まあ、こちらの手数が少しでも増えるのであれば、困ることは少しでも減るでしょ」


 それよりも、と朱波はジト目を結理に向ける。


「戦力的な意味での心配だったら、召喚獣たちの方が良かったんじゃない?」

「あー……」


 それも考えなかったと言えば嘘になるのだが、結理は何と答えたものか、と思案する。


「まあ、それでも良かったんだけど……うーん、あの子たちの状態って、こっちから召喚要請する場合と、あちらから好きなときにこっちに来るって言う二パターンあってね。常時であろうとなかろうと『召喚』状態だと、契約者である私の魔力を消費することになるんだよね」

「要するに、こっちが召喚するか、あっちから来てもらうかの二択ってことね」

「イエス」


 そういうことなら、と、精霊契約者でもある朱波としても納得せざるを得ない。

 ましてや王族を守らなければならない以上、魔力足らずで負けて、傷を付けるなんてことになれば、声を掛けてきたシルフィアにも迷惑が掛かってしまう。


「だから、その代わりと言ってはなんだけど、指輪に魔力を込めさせていただきました」


 少なくとも、常時召喚で魔力を消費するよりも、何か物に込めてしまった方が消費量を安く抑えられるし、込められた魔力分、攻撃だろうと防御だろうと、その威力は発揮される。

 ぶっちゃけ、魔道具そのものである。


「まあ、魔力消費の事を言えば、私とシルフも似たようなものだし、その点に関しては分かったわ。まあ、この指輪にはどっちみち頑張ってもらわないといけないけどね」

「そうだね」


 小さな指輪に少しばかり大きな期待を掛けすぎな気もするが、そのための物なのだから仕方がない。

 そして、指輪に視線を向けていた朱波は、少しだけ真面目な顔になる。


「それとね、結理」

「ん?」

「無理はしても、無茶だけはしないこと」

「無理無茶するな、じゃなくて?」


 いつもであれば、そう言ってくるであろう朱波の言葉の違いに、疑問を持った結理は尋ねる。


「そう言いたいところだけど、今回の護衛対象は王族でしょ? だったら手を抜けないし、抜いたら抜いたで、被害が出る恐れもある。結理の戦闘方法を考えると、許容範囲はそこまでだし、相手の実力は分からないけど、それでも余裕で終わらせられるぐらいには、いろいろと考えてるでしょ?」


 ずっと側に居たし、見てきたから、よく分かる。


「もー、廉じゃないんだから、そこまで分かってても言わないでよ」


 そして、降参、と言わんばかりの結理に、朱波はようやく笑みを浮かべる。


「駄目よ。だって、口に出して言わなきゃ、伝わらないでしょ」


 それは間違ってはいないが、改めて伝えられると、みんなに自分がどう見えているのか気になってくる。


「頑張れ、結理」

「うん、頑張るよ。早く戻ってこられるように」


 そして、互いに拳を軽くぶつけ合えば、結理はその身を翻してその場から離れ、朱波はそれを見送っていく。


「私たち(・・)が妥協できるのは、『無理』までだから。ちゃんと伝えたからね」


 そう、呟いてーー


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