第八十四話:守るための方法
シルフィアには準備をすると言った結理だが、現状では狙われている相手が分かっているだけで、相手が次にどのような手段を使ってくるのか等については、不明なままである。
最優先で知りたいのは殿下たちを狙うその理由だが、それ以前に次の襲撃がいつなのか分からない以上、そんなに準備に時間は割けない。
(となると……)
短期間どころか短時間で、手持ちの道具ででどうにかするしかない。
「ったく、本当に面倒事を起こしてくれたもんだわ」
もし、敵と鉢合わせしたら、一発ぐらい殴らせてもらおう。
とりあえず結理は、そう決めるのだった。
☆★☆
さて、仕事は仕事。
たとえ嫌な相手が相棒だったり、護衛対象だったとしても、その与えられた任務は遂行しなければならない。
「というわけで、少しの間離れることになるわけだけど、大丈夫かな?」
そもそも結理の仕事の契約主は朱波であり、異世界に来た今もその仕事は遂行中と言っても過言ではないので、その確認と報告に来たわけだがーー
「大丈夫。廉たちも居るし、そんな極端に離れるようなことも無いでしょ」
それに、と朱波は言う。
「それに、結理のことだから、少しの間、不在だったとしても、何か対策しておいてくれるんでしょ?」
「それはそうなんだけど……」
心配で不安なことも、そのための対策が無いことも否定はしない。
もし、朱波や他の面々に何か遭ったとなれば、結理は普段以上に冷静さを欠くことになることは、容易に予想することができる。
それでも、こちらに話を回してきたのは彼女たちなのだ。
それでも気になると言うのであれば、早々に仕事を終わらせて、戻ってくれば良いだけのこと。
「だから、これを渡しておくよ」
予期せぬ驚異から、彼女たちを守るための、対策の一つ。
「……これは?」
朱波の疑問に、結理は説明する。
「守護の指輪。正直、性能テストすらしてないから、ぶっつけ本番みたいな感じになることを想定するとなると、渡したくはなかったんだけどね」
手段は選んでいられないし、と指輪は困ったような表情を浮かべる。
「私が不在ってなると、戦闘的立ち位置は、朱波が中衛の位置に来ることになるだろうから、その指輪の所持者だけではなく、前衛と後衛にまで範囲を及ぼす能力が込めてあるから」
「……」
「やり過ぎだって、思ってもらっても構わない。でも、何があるか分からないから、可能な限りは持っていて」
そんな結理の説明に思うところがあったのか、朱波が尋ねる。
「能力については、分かったわ。でも、防壁なら詩音のものがあるわよね?」
「それは、私も考えなかった訳じゃない。詩音の防壁なら、どんな攻撃であろうと、ある程度は防げるだろうしね。でもーーそれは絶対じゃない」
この世界に来てから、彼女が使う防壁や結界の類いがどれだけ強力になったのかは、結理は知らない。けれど、どれだけ強力であったとしても、いつか破られる時が来る。
「それに、詩音は私たちの治癒士でもあるから、使用する防壁の一部を指輪が代わりに行ってくれたら、使わない部分の魔力は回復にも回せるし、別の防壁のにも使うことができる」
「……なるほどね。私たちを守りながらも、存在不可欠な詩音の手数も増やす、と」
それでも、心配なものは心配だが、代わりとなるものは渡したのだ。結理の不在の間だけでも守りきれるのであれば、性能テストとしても上々と言えるはずだ。
「まあ、こちらの手数が少しでも増えるのであれば、困ることは少しでも減るでしょ」
それよりも、と朱波はジト目を結理に向ける。
「戦力的な意味での心配だったら、召喚獣たちの方が良かったんじゃない?」
「あー……」
それも考えなかったと言えば嘘になるのだが、結理は何と答えたものか、と思案する。
「まあ、それでも良かったんだけど……うーん、あの子たちの状態って、こっちから召喚要請する場合と、あちらから好きなときにこっちに来るって言う二パターンあってね。常時であろうとなかろうと『召喚』状態だと、契約者である私の魔力を消費することになるんだよね」
「要するに、こっちが召喚するか、あっちから来てもらうかの二択ってことね」
「イエス」
そういうことなら、と、精霊契約者でもある朱波としても納得せざるを得ない。
ましてや王族を守らなければならない以上、魔力足らずで負けて、傷を付けるなんてことになれば、声を掛けてきたシルフィアにも迷惑が掛かってしまう。
「だから、その代わりと言ってはなんだけど、指輪に魔力を込めさせていただきました」
少なくとも、常時召喚で魔力を消費するよりも、何か物に込めてしまった方が消費量を安く抑えられるし、込められた魔力分、攻撃だろうと防御だろうと、その威力は発揮される。
ぶっちゃけ、魔道具そのものである。
「まあ、魔力消費の事を言えば、私とシルフも似たようなものだし、その点に関しては分かったわ。まあ、この指輪にはどっちみち頑張ってもらわないといけないけどね」
「そうだね」
小さな指輪に少しばかり大きな期待を掛けすぎな気もするが、そのための物なのだから仕方がない。
そして、指輪に視線を向けていた朱波は、少しだけ真面目な顔になる。
「それとね、結理」
「ん?」
「無理はしても、無茶だけはしないこと」
「無理無茶するな、じゃなくて?」
いつもであれば、そう言ってくるであろう朱波の言葉の違いに、疑問を持った結理は尋ねる。
「そう言いたいところだけど、今回の護衛対象は王族でしょ? だったら手を抜けないし、抜いたら抜いたで、被害が出る恐れもある。結理の戦闘方法を考えると、許容範囲はそこまでだし、相手の実力は分からないけど、それでも余裕で終わらせられるぐらいには、いろいろと考えてるでしょ?」
ずっと側に居たし、見てきたから、よく分かる。
「もー、廉じゃないんだから、そこまで分かってても言わないでよ」
そして、降参、と言わんばかりの結理に、朱波はようやく笑みを浮かべる。
「駄目よ。だって、口に出して言わなきゃ、伝わらないでしょ」
それは間違ってはいないが、改めて伝えられると、みんなに自分がどう見えているのか気になってくる。
「頑張れ、結理」
「うん、頑張るよ。早く戻ってこられるように」
そして、互いに拳を軽くぶつけ合えば、結理はその身を翻してその場から離れ、朱波はそれを見送っていく。
「私たちが妥協できるのは、『無理』までだから。ちゃんと伝えたからね」
そう、呟いてーー




