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ウェザリア王国物語~グラスノース編~  作者: 夕闇 夜桜
第四章:学院・二年生、笠鐘詩音編
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第八十二話:前期組最後のパーティー計画


「期末試験も終わったし、そろそろ本格的に夏休みに近づいてきたねー」

東雲(しののめ)。お前、そればっかだな」


 朱波(あけは)の言葉に、大翔(ひろと)が呆れた目を向ける。

 きっと詩音(しおん)が居れば、何らかの反応を返してくれたのだろうが、現在彼女は空気を読んだかのように不在なため、ボケもツッコミも不在と言えば不在である。


「だって、夏休みだよ? しかも、異世界(こっち)に来てから、六人でやっと過ごせる夏休みだよ?」

「いやまあ、そうなんだけど」

「海とか行きたいなー」


 完全に満喫する気満々の朱波に、結理(ゆうり)が告げる。


「海は無理だね」

「え、何で」

「ここからだと遠いし、元の世界(あっち)と違って魔物も出るし」


 朱波の疑問に、結理が答える。


「魔物なら、どうにか……できない、か」

「ビーチとかならともかく、水中で会ったら面倒でしょ。何より、私たち、水中戦闘の経験ゼロだし」


 一番の問題に、ピシャーンと衝撃を受けたような表情をする四人。


「水中戦闘……そういや、それ以前に泳げる泳げないの問題があったわ」

「仮に対策もして、いざ行ったところで、遊泳禁止だったら笑えないでしょ」

「よし、調べよう! 今すぐに! 遊泳できる場所! そして、魔物が少なさそうな場所!」


 魔物がいない場所とだけ言わないだけマシだとか、そういう問題じゃないから、とか思いはしても、何やらどんどん本来話すべき話から逸れていっている気がしなくもない面々ではあるが、ここで指摘するような奴はいない。


「ま、宿題もあるけどね」


 ーー現実に戻す奴は居るが。


「結理! 何で夏休みの計画で宿題が出てくるの! 計画ぐらい、楽しい思い出作らせてよ!」

「朱波。それも確かに大事かもしれないけど、それよりも重要なのは目の前に迫った詩音の誕生日だからね?」


 迫る七月七日ーー詩音の誕生日である。


「そうね。それでプレゼントはどうする?」

「去年は何渡したっけ?」

「確かーー」


 そう話し合いながら、ふと気づく。


「って、(れん)たちと同様に、去年は何も渡して無いわ」

「散り散りになってたからな」


 そもそも、誕生日パーティーをやろうにもやれない、プレゼントを渡したくても渡せない状態だったというのが正しい。


「その前は色々だったよね。文房具とか可愛い小物とか」

「そうそう」

「俺たちにとっては初めてだったから、センスが問われたもんなぁ」


 廉はともかく、中学の時に大翔と(なつめ)が加わってから、二人にとっては初めての仲間内での誕生日パーティーで、結理と朱波のプレゼントを知ったときは、廉に同情されたのだから、何とも言えない。


「今年はもっとセンスを問われるわね。何せ範囲が(せば)まったようで、狭まってないわけだし」


 魔法なんてものが存在する世界に来てのパーティーなのだから、魔道具をプレゼントにするという手も取れる。


「実際、そこの中衛担当が短剣レベルの魔剣なんてものを渡してきたしなぁ」


 半目になりながらそう告げる廉に、結理が笑顔を浮かべて「いらないなら返せ」と、手を差し出して返す。


「誰が返すか」

「なら、文句言わないでくれる? あれでも数少ない成功作なんだから」


 結理が本気で返してくれなどと思ってないことは廉も分かってるし、彼女の方も返ってくるなどとは思ってないので、単なるいつものやり取りである。


「さて、それじゃ、ちゃっちゃと計画立てるぞ。日数も廉たちの時以上に無いんだからな」

「はーい」

「はーい」


 最終的に纏めた棗の言葉に、廉と結理が返事をすれば、その場は笑いに包まれるのだった。


   ☆★☆   


 まあ、いつも一緒に居るのだから、わざわざパーティーなどしなくても『おめでとう』の一言だけでも良いとともうかもしれないが、もうほとんどパーティーというか、パーティーもどきをするのがいつものことになってきているので、今更どうこうするつもりも、何か言うつもりもない。


「で、飾りとかケーキイメージ、どうしよっか」

「誕生日が七夕なせいで、毎年そこに沿った感じになってるからなぁ」


 必然的に料理担当となっている結理と朱波が唸る。

 そろそろパターンのマンネリ化をどうにかしたいところではあるが、どうしても周囲の雰囲気に流されている節が無いわけでもない。

 ちなみに、他の面々は面々で現在進行形でプレゼントや飾り付け担当とかの相談中なので、そっちもそっちで頭を悩ませていることだろう。


「あまり凝ったものにすると、この前みたいになるし」

「詩音がそこにこだわるとは思えないけど、でも『何であの二人のときよりシンプルなの?』とは思われたくない」

「そうね。たとえ見た目がどうにも出来なくても、完成度だけは高くしたいわ」


 まあ、それはそれでまた悩むことになるのだが、方向性は割と決まっているのだから、きっとパーティー当日には間に合うことだろう。

 そこで、ふと何かに気づいたらしい朱波が結理を呼ぶ。


「結理」

「ん?」

「あとねーー」


 どこか楽しそうというか、その後に付け加えられた言葉に、結理は顔を引きつらせることとなる。


   ☆★☆   


「詩音の誕生日プレゼント?」

「そう。私たちは同じクラスだから、絶対にバレるなって、朱波に釘を刺された」

「大丈夫じゃないか?」


 お前がヘマしない限りは、と付け加えられていそうな言葉に、結理は目を逸らす。

 メンバーの中で、他人のことを一番よく見ているのが結理なのだとすれば、次点では詩音なのだろう。そんな彼女を相手にするのだから、おそらく、この中で一番バレそうなのが結理だから注意されても仕方がないとも言えるし、何より自覚があるのなら気を付けてもらいたいというのが同じクラスチームの本音である。



「例年通り、朱波はケーキ担当、私がその補佐をするとして……」

「俺たちの担当か」


 先ほどまで話し合っていたが、詩音の役目が廉と大翔と入れ替わっただけである。ただ、必要ないかもしれないが、一応誰かが詩音の気を引いておかないといけないという問題があるだけで。


「そ。こうやって話してる時点でサプライズっていうのは、もう無し同然だし」

「そうだな……」


 きっとサプライズを計画したところで、こうして話し合っているのも気づかれているだろうから、最初からサプライズパーティーなどは計画していない。


「まあ、ぶっちゃけこの前パーティーせずに廉たちに飾り付けさせようものなら、自分たちの誕生日パーティーの飾り付けしてるようなものだしね」

「止めろ。それは言うな」


 薄々(うすうす)気になってたことをはっきり言われると、まるで決定事項であったかのように聞こえてしまう。


「つーか、やっぱあの時やらなきゃ、纏めて祝う気だったのか」


 でもさらに、気づいてしまったことを追求すれば、結理はあっさりと答える。


「んー、それでも良かったんだけどね。だって、数週間の差があるとはいえ、片付けた数日後にまた準備するのも大変だからね」


 間の期間が短いからと別に片付けなくてもいいのだが、その間にせっかく用意した場所を使わないのも勿体ない。故に、後片付けをしては再び準備をするというのが繰り返されているのだが……そのことを特に隠す素振りすらなく、その答えを口にした結理に、事実とは分かっていながらも負のオーラを背負う廉とーー二人の会話を教室に戻ってきて、実は聞いていた詩音。


(結理……決定事項とかでも、それを言ったら駄目なんだけど)


 確かに、自分たち前期組と比べれば、後期組は棗と朱波の間が短いだけで、朱波の誕生日から結理の誕生日までは二ヶ月の間がある。

 けれど、今回はやっと全員揃い、なおかつ(彼らにとっては)異世界初の誕生日パーティーなのだ。たとえそんな事実があったとしても、直接は聞きたくはなかった。

 もちろん、そんな廉への同情的な詩音の内心など聞こえるどころか分かるはずもなく、「いやまあ、分かってたんだけどな」と呟きながらも、「どうしたもんかなぁ」と廉は唸りながら席へと戻っていく。


「結理」

「あ、詩音。おかえり」

「ただいま。それで今のは、私にも聞こえるように話してた?」


 詩音の問いに、結理は軽く首を傾げた後、「ああ」と声を洩らす。


「聞こえるように話していたつもりはないよ。それに、パーティー全体というよりは、飾り付けに限定した準備や後片付けが短期間で繰り返すのが大変だな、って思っただけ」

「廉たちの時の飾りは使い回しでいいよ? まだ使える以上、新しいのを作る必要もないし、そもそもこっちに七夕なんて無いよね?」


 詩音の誕生日は七夕である七月七日だ。

 だから、それに似たような飾り付けもパーティーする際のところどころで存在していた。


「日にちも違うし、七夕でもないけど、似たようなものはあるよ」

「あるんだ」


 あるにはある。ただ、やり方が違うだけで。


「『星に願いを』ってやつだね。家の前に背の高い植物を用意して、そこに願いを書いた短冊や飾りを付けて、手を合わせ、祈る。そして、翌日の午後にそれを燃やす」

「燃やすの?」

「その願いは星を通じて、天界にいる神様に届けられるけど、それと一緒に来たこちらからの邪気なども通さないようにするべく、天界への道を閉じるって意味で、飾りを燃やしていくーーって、ことらしいよ」


 ちなみに、飾り付ける背の高い植物を用意できなかったりする家などは、村や町全体で一緒に一つのものを使ったりするのだとか。


「そっか。それじゃ、みんなにはいろいろと期待してるって伝えておいてね」

「……」


 小さく微笑み、詩音は自分の席へと戻っていく。

 面々の中では比較的大人しい方ではありながらも、ちゃんとそこに存在していて、それがどんなことであれ必要とあれば口にする。

 彼女もーー笠鐘(かさがね)詩音も、廉や結理たちにとっては大切な仲間なのである。

 だからこそ、だからこそーー


(そろそろ話すべきなのかな)


 結理は視線を逸らしながらも、そう思う。

 全てはタイミングとはいえ、彼らに隠していることを、いつかは話さなくてはいけない時は必ず来る。

 そして、それを話し、聞いた面々がどのような反応をするのかは結理には分からないが、仲間から外すようなことだけはしないはずだと思いたい。

 けれどもし、そんなことになるのだとすれば、きっと大ダメージは免れないだろうから。


(結城……もし、こっちに居たら、連絡ちょうだい)


 同じく事情を知る、まだまともに会うことすらできていない兄に、今すぐにでも連絡したい結理であった。


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