第七十九話:不穏な空気
途中から、ちょっと時間が飛んでます。
まあ、内容的に特に読まなくても大丈夫だと思います。
みんなは私や他の人たちが幸せになるためなら、駄目だったり、危ないことではない限り、止めに来ることはない。
でも、それは『人の振り見て我が振り直せ』と言うように、それぞれにも振り返ってほしいことで。
それでも、大切な誰かを失うことも、その場面を目にしたこともあるから、やっぱり無茶だけはしないでほしいとも思ってしまって。
たとえ、それが今やらなくてはならないことだったのだとしても、少しでも不安にさせたり、不安にしたくはないから。
ーー願わくば、何事もなく『この件』が解決しますように。
☆★☆
「結理」
「ん?」
名前を呼ばれたからか、結理が不思議そうな顔をして首を傾げる。
「それ、全部受ける気か。そのうち一つに絞って、他はすべて返してらっしゃい」
「えー」
「『えー』じゃない」
久々のギルド、久々の依頼で気持ちが昂るのは仕方ないが、廉は容赦なく結理が手にしていた依頼の山を切り捨てる。
というのも、その山の中にA~Bランクレベルの依頼まで入っていたのだから、廉が依頼掲示板に返せと言うのも仕方がないといえば仕方がない。
「廉ってば、保護者みたい」
「こいつの保護者がちゃんと管理しといてくれれば、俺もこんなことしなくて良いのになー」
そう言いながら、廉は「はっはっは」と微妙に乾いた笑いをその保護者に向ければ、しばしの無言の後、そっと目を逸らされる。どうやら、否定できないらしい。
「……制御の利かない結理の制御は、廉と結城の仕事でしょ?」
「丸投げすんな」
何故、彼女は結理が自分の一言で大人しくなるのを分かっていながら、何か一言ぐらい言ってやろうとはしないのだろうか。
「そもそも、結理は私たちに甘い部分あるから、多分廉でも聞くと思う」
「その言い方だと、お前が言っても聞くんじゃないのか? 詩音」
「でも、それは『多分』だから。二人みたいに、コントロール出来るわけじゃない」
「いや、コントロールて……」と突っ込みたくなる二人だが、確かに大翔や棗よりは上手いことコントロールしているようには見える。
けれど、分かってないなぁ、とも二人は思う。
今、自分で「結理は私たちに甘い部分がある」と言っていたではないか。それはつまり、詩音の言葉でも、結理に届くということではないのか。
「今の言い方はともかく、詩音の言葉じゃないと駄目なときは必ず出てくると思うよ?」
「そう、かな……」
「そうだよ。場合によっては、女同士の方が良い場合もあるだろ。そのとき朱波一人に任せる気か?」
以前だってそうだ。廉たちもそうだが、近くにいたことで一番効果を発揮したのは朱波と詩音の存在だ。
「そもそも、一人だけ逃げるのは許さないし、詩音がいなくなったら、絶対あの子は寂しがるんだから」
「……」
そのことに詩音は何も返すことはなかったが、その一方で話のネタにされている『彼女』はといえばーー……
「言われてんな」
「……少し黙ってくれない?」
近くで話していたためか、聞こえてきたその内容に、結理は聞こえてない振りをするしかなく。
さらに、居る場所が真横であるからか、結理の様子が一番分かる位置に居るアクセルは、彼女が恥ずかしそうに笑みを浮かべているその様子は丸見えだった。
☆★☆
シルフィアは一人、王城を歩いていた。
廉たちの帰宅後を寮で出迎えた彼女は、その後に訪れた城から来たであろう兄の使いの者からの言伝により、急遽登城しなくてはならなくなったのだ。
「お兄様、シルフィアです」
兄の執務室に到着したシルフィアは、入室の許可が出るまで部屋の前で待つ。
ほぼ深夜と言ってもいい時間帯だというのに、部屋の明かりは点いているのか、ドアの隙間から微かな光が洩れている。
(お父様共々お忙しいはずなのに、そんな状況で私が呼ばれたということは、何かあるんでしょうね)
用がないと呼ばないというわけではないが、基本的に緊急性の高いものや仕事関係でない限り、シルフィアが呼び出されることは少なかったりする。
故に、この考えである。
(寮に帰ったら、話せる限りのことをお話ししなくては)
自分が呼ばれたことを、少なくとも女性陣は把握している上に、男子寮には行くことができないため、女性陣には先に話しておかなければならない。
男性陣には彼女たちから話の内容は伝わるだろうが、これから話すことになるであろう内容次第では、やはり直接話した方が良いのかもしれない。
(まあ、面倒事でないことを祈るしかありませんね)
とりあえずはそう願いつつも、部屋の主からの許可が出たので、シルフィアは室内へと足を進めるのだがーーそれでも嫌な予感だけは、拭うことが出来なかった。
☆★☆
かちゃん、と音を立てて、納刀する。
みんなでギルドに行ったり、シルフィアが王城に向かった時間は疾うに過ぎて、現在は真夜中。
「お疲れ様でした」
暗い闇の中、全身真っ黒と言っても過言ではない青年と、同じく全身真っ黒と言っても過言ではない少女が会話を始める。
「そっちこそ、お疲れ様」
そう相手を労い、少女は周囲に目を向ける。
「ま、こいつらは夜行性だし、目的でもあった欲しいドロップ品も手に入ったし」
その手の中でキラキラと輝きを見せるドロップ品ーー魔石に目を向ける。
「ドロップ品なんて、どのくらいの確率で出るかなんて分からないというのに、貴女って人は……」
はぁ、と溜め息を吐く青年に対し、少女は特に気にした様子もなく魔石を月へと掲げては、その中を見るかのように目を細める。
ギャンブラーだと言いたいのなら、好きなだけ言えばいい。今回に限っては否定はしないし、するつもりもない。
「それで、上手い言い訳は思い付いたんですか?」
「言い訳?」
「こんな時間に抜け出していることが、万が一バレたら困るからって、言い訳を考えておくって、最初に言ってたでしょ」
「あー……いや、全然。というか、一文字も考えてない」
『一言』ではなく、『一文字』ときた。
「……僕は貴女の指示にしたがっただけですからね?」
「分かってるよ。ノワールは、私に付き合わされただけなんだし」
元よりそのつもりだった。
たとえ、彼ーーノワールが何て言おうと。
「だから、知らぬ存ぜぬを通してくれても、全然問題なしだから」
「……」
少女と付き合い始めて早半年とちょっとーーあと少しで一年となる。
それなのに、彼女の考えていることが、今一つ分からない。こうして話し合っている今のように。
彼女には、こちらの考えていることが分かっているとでも言いたげなのに。
「……それ、どうするんですか?」
「ん? ちょっと、これを使いたいものがあるだけだから、ギルドに報告して、貰えるなら貰うか買い取るかの二択かな」
そこまでして欲しいものなのか? とノワールは思うが、本人が欲しいと言っているのだから、必要なものなのだろう。
「さすがの私でも手が届かなくなることはあるし、そんな状況になるのも困るからね。だから、もしそうなった場合に時間稼ぎとか出来る『何か』があるといいなとか、思わない?」
誰の、とは言わないが、ノワールには分かる。
この主ーー結理の望むことなど、彼ら関係のこと以外、思い当たらない。
「そうですね。誰がどう使おうと、詠唱時の時間稼ぎとかが出来るのなら、無いよりはあった方がマシでしょうね」
ノワールも、その点については否定しない。
「それじゃ、さっさと報告して帰るとしますか」
姫様と鉢合わせするのだけは避けたいからね、と言いつつ、結理は冒険者ギルドに向かうために歩き出す。
(さぁて、姫様はどんな厄介事を持って帰ってくるつもりなのかね)
面倒な部類でなければ、結理としては文句を言うつもりはない。
だが、もし『勇者』を巻き込むつもりなのだとすれば、話は別である。
一体何のために『勇者』なんて存在を召喚したのか、分からなくなってしまう。
魔王退治に必要だと言うのならまだいいが、もし必要でないと言うのならーー
(いや、考えても無駄か)
シルフィアも王族の一人である。
もしかしたら、単に王族としての仕事をしに行っただけかもしれないし、家族水入らずで話したいことでもあったのかもしれない。まあ、後者に関しては、学院が休みの時にした方が良かったんじゃないかと、思わなくもないのだが。
ギルドでの換金を済ませ、魔石も貰える分は貰い、足りない分は買い取る形となったことで、魔石の個数を確認し終えた結理はノワールとともに寮へと戻るのだが。
「……」
部屋に入る前に遭遇した、何やら怪しい笑みを浮かべる朱波と詩音に嫌な予感を覚えつつ、結理は軽く汗を流し、眠りにつくーーのだが、この数日後。彼女は二人が浮かべていた笑みの理由と正体を知ったことで、頭を抱えることとなるのだった。




