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ウェザリア王国物語~グラスノース編~  作者: 夕闇 夜桜
第一章:異世界召喚、篠原廉編
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第七話:討伐依頼

【前回のあらすじ】

学院に入学しました



「討伐依頼、受けるか?」


 (れん)は二人に尋ねる。

 学院に通い出した後も少しずつギルドには顔出しし、依頼を受けていた。

 ギルドの仕組みや冒険者の仕事に慣れてきたため(それでも採取系のみだが)の質問だった。


「いや、まだ採取系で良くない?」

「いくら新しい魔法を覚えたからって、討伐系は早い気がする」

「そうか?」


 朱波(あけは)詩音(しおん)の言葉に、廉は首を傾げる。

 新しい魔法を覚えたのは事実だし、レガートにも力が付いてきたと、認められるようにもなった。


「まあ、廉がやるって言うなら、別に良いけど」

「廉がリーダーだから、廉が決めて」


 どうぞどうぞ、と言う二人に、廉は半眼になって言う。


「お前ら……面倒くさいだけだろ」

「うん」

「…………」


 二人があっさり頷いたため、廉は頭を抱えた。

 何故、自分たちはこういう時だけチームワークがいいのか、と。

 だが、二人は廉に決めろと言った。


「それならーー」


   ☆★☆   


 廉はとある依頼を選んだ。

 選んだ依頼は採取系と討伐系。

 今まで行ってきたのとは微妙に違う。


「魔物の大量発生した森への薬草採取と魔物の討伐、ね」


 明らかに危険である。

 依頼内容を朱波が読み上げ、廉を見る。


「大丈夫? これ」


 詩音も廉に視線を向ける。

 以前は、『遭遇したら、猛ダッシュで街まで帰る』が作戦だった。

 だがそれは、魔物やモンスター相手に戦闘経験がなく、対処方法や撃退方法も知らなかったためだ。

 だから、本で調べ、一通りは頭に叩き込んできた。

 それでも、ギルドの決めたランクにより、相手が弱いとはいえ、実践するとなれば、話は別である。


「大丈夫、と言いたいが、見かけたら、見つかる前に逃げるか見つかったらダッシュで逃げる」


 そう告げる廉に、やっぱりか、と思いつつ、二人は反論しない。

 自分たちは判断を任せた。

 文句は言えない。

 だが、これだけは言わせてほしい。


「少しは戦おうとしてください」


 とーー


   ☆★☆   


 何だかんだ言い合いつつ、目的地に辿り着く。


「いかにも魔物が出てきそうな雰囲気だな」


 鬱蒼とした森に入り、廉が言う。


「確かにね」


 朱波が同意し、詩音が頷く。


「先に魔物退治? それとも薬草採取?」


 朱波が尋ねれば、廉は考える。


「そうだな……」

「薬草採取が先」


 詩音が横から告げる。

 廉と朱波はどういうこと、と詩音に目を向ける。


「魔物が下手に暴れて、目的の薬草を採取出来なかったら意味がない」

「それもそうね」


 朱波が頷く。

 それに、魔物との初戦闘だ。周囲にどのような影響を出すのか、まだ分からない。

 それに関して、不安が無くなったわけじゃないがーー


「廉」

「……! 何だ?」


 名前を呼ばれて、振り向く。


「私たちもいるから大丈夫だよ」

「うん。危なくなっても、ちゃんと守るから」


 二人にそう言われる。

 廉は理解した。

 不安そうな表情が顔に出ていたのだと。


「詩音のは、そのままじゃない」

「私は防御得意だし」


 ぐっ、と詩音は手を握りしめる。

 何やら話していた二人に廉は言う。


「そうだな。期待してる」


 そう言えば、廉は森を進む。

 そんな廉を見た二人は、後ろから慌てて追いかける。


「ちょっ、先に行かないでよ」


 朱波が言う。

 その瞬間、地響きがする。


「何?」


 三人は周囲を見回す。


『グワァァァァアアアア!!!!』


 響いてきた声に目を向ければーー


「魔物!?」

「早速お出ましか」


 驚いた朱波に対し、廉は笑みを浮かべる。


「驚いたり、笑ってる場合じゃない」


 詩音が言う。


「廉。こいつが依頼対象?」

「いや違う」


 詩音の問いに、廉は即答する。


「それなら、することは一つ」


 それに、廉たちは頷き、一斉に走り出す。


「逃げる!」


   ☆★☆   


 息切れしながらも、何とか逃げ切れた三人は、息を整えるために、深呼吸をする。


「死ぬかと思った」


 そう言って、三人は息をつく。


「でも、どうするの? 薬草採取もまだだし、あんなのがいると、魔物の討伐も難しいよ?」


 詩音の言う通り、たとえ薬草採取を終えたとしても、魔物の討伐は難しい。


「しかも、取るもん取って、逃げたとしても、魔物は完全に倒さないと、依頼達成にならないかもしれないしね」


 そこが悩みどころだ。

 依頼達成より、命ある帰還の方が重要だが、最低でも薬草採取の依頼だけは達成しておきたい。


「とりあえず、薬草を採取してから決めよう」

「そうだね」

「危なくなったら、帰って出直せばいいんだし」


 廉に二人が同意し、薬草採取だけでも終わらせることになった。


   ☆★☆   


 さて、無事に薬草採取を終えた一行は、魔物討伐の依頼遂行するか思案中だった。


「行くの? ねぇ行くの?」


 しつこいぐらいに尋ねる朱波に、二人は苦笑いする。

 現在、時刻は昼食時をやや過ぎた頃(正確に言えば、昼間の二時半である)。

 薬草採取後、昼食を食べ、三人は夕方までに魔物討伐を終わらせることを決めた。

 だが、やはり不安なのだろう。

 朱波がしつこいぐらいに確認をしてきた。


「ああ、行く。夕方までに片付けて、とっとと帰って換金する。だから、そんなに聞かなくても大丈夫だ」


 廉の言葉に、朱波は溜め息を吐く。

 薬草採取前の言葉はどこに行ったのだ、と。

 まあ、じっとしていても時間は減るので、三人は歩き出す。


「朱波が心配してるのは、ここに来たときに遭った魔物のことでしょ」


 歩きながら、目的の魔物を探しつつ、詩音は朱波にそう言った。


「まあね」


 朱波は頷いた。

 あの魔物に遭ったら、すぐに逃げる。

 当初からそのつもりだがーー


「まあ、シルフにも協力するようには言ってあるから、大丈夫だとは思うけどね」


 もしもの場合、すぐに対処できるように、精霊(シルフ)には待機してもらっている。

 何もないのが一番いいのだが、何があるのか分からないのが、この世の中だ。


「……!?」


 ハッとし、朱波は上を見上げる。


「何か感じたの?」


 隣にいた詩音は尋ねるが、朱波から返事はない。


「……! 廉、来た!」

「は?」


 朱波は慌てて廉に声を掛けるが、廉は立ち止まり、首を傾げる。


「だから、標的(ターゲット)が向こうから来たんだよ!」


 朱波が叫ぶようにして言えば、そいつは姿を現した。


「角を生やした狼」


 詩音が呟く。

 まさに、その通りで、狼が角を生やしたような奴だった。


「達成に必要なのは、あの角だ」


 角は証拠品として、回収。

 それぞれ戦闘態勢に入る。


「動物虐待は気が引けるけど、こっちも仕事だから許せよ」


 廉のその言葉が合図になり、戦闘は始まった。


   ☆★☆   


 剣がぶつかり、魔法が飛び交う。


「こいつ本当にFランクか?」


 廉が剣で攻撃すれば、角で受け止められ、朱波たちが魔法で攻撃すれば、避けられる。


「強さはFランクなんだろうけど……」


 この素早さは厄介だ。


「というか、Eランクでしょ。角の固さとか、あの素早さとか」


 朱波の言葉に、二人は苦笑いする。

 だが、あの素早さをどうにかしない限り、勝ち目はない。


「ねぇ、動きを止めるだけでいいの?」


 ふと気になり、詩音は尋ねる。


「まあ、出来るなら、大人しくしてもらいたいよな」


 無理だろうけど、と廉は付け加える。


「何か策でもあるの?」


 朱波の問いに、策と呼べるかどうか分からないけど、と前置きし、詩音は言う。


「二人とも。私が動きを押さえるから、集中攻撃して」

「分かった」

「任せて」


 詩音の言葉に、疑問を口にすることなく、二人は頷く。

 それを確認し、気を落ち着け、詩音は目を閉じ、イメージする。


(イメージは土の鞭)


 土が鞭のように細長くなり、波を打つのをイメージする。


(敵を捕らえ、(つる)で封じる)


 土の鞭が魔物の両足を捕らえ、蔓を胴に巻き付け、動きを封じる。

 全体的なイメージは完成した。

 詩音は目を開き、足元に魔法陣が現れる。


「相手を捕らえろ。“土の鞭(アース・ウィップ)”!!」


 そして、発動した魔物に攻撃する。

 魔物は地面から現れた鞭を避けようと、飛び跳ねる。


「逃げられると思わないで」


 木々の間から蔓が現れる。

 下からの土の鞭と上からの蔓の同時攻撃で、魔物は動きを封じられた。


「二人とも、今!」

「ああ!」

「分かってる!」


 詩音の言葉に、廉と朱波が同時に攻撃をする。

 二人の攻撃が当たり、爆発が起きる。


「やったか?」


 爆風を腕で防いでいた廉が尋ねる。

 朱波は目を細め、魔物がいた場所を見る。

 詩音は攻撃されても大丈夫なように、防壁を待機させている。

 煙が収まり、魔物の上の方にふわふわと何かが浮いていた。


「何だ?」


 首を傾げ、少しずつ近付き、恐る恐る突っついてみる。


「角……?」


 よく見れば角である。

 三人で首を傾げる。


「ドロップアイテム的な何かかな?」

「いや、確かに証拠品として角はいるけどさ」


 詩音の言葉に廉と朱波は苦笑いする。


「でも、魔物の姿、完全に消し去っちゃったみたいだし」


 魔物の姿はどこにもない。

 つまり、これを持って帰るしかないわけで。


「とりあえず、帰るか」


 廉のその一言により、三人は帰るために、現れた『角』を回収し、森の外に出るために、出口を目指して歩き出した。


   ☆★☆   


 そんなこんなで、帰り際。


「ああ、もう! 何でこうなるんだよ!!」


 廉は叫ぶ。

 依頼内容である薬草を指定量分採取し、『角』を回収後、帰る途中の出来事だった。


「だから、言ったでしょ!?」

「言い合ってないで、早く逃げようよ」


 廉の叫びを聞いた朱波が反論する。

 その隣で、防御壁を作っては壊されを繰り返し、繰り返されていた詩音が必死に走りながら言う。


「そもそも、お前らが、俺だけに決めさせたことにも、問題があるんだからな?」

「私はまだ採取系の方が良いって言ったよ?」


 廉の言葉に、朱波が再度反論する。


「だから、採取系入れたじゃねーか!」

「そういう問題じゃないわよ! ただでさえ、こっちは疲れてるのに有り得ない!」


 うがーっ、と叫ぶ朱波。

 そんな二人を見て、詩音は言う。


「責任転嫁しあってないで、二人とも早く逃げないと。追いつかれるよ?」


 それを聞き、二人が呆れたように詩音を見る。


「あのなぁ、詩音……」

「一番の避難場所に居るくせに、そんなこと言わないでよ!」


 一番の避難場所ーー鹿のようなトナカイのような生き物の背中に、いつの間にか横座りで座っていた詩音は首を傾げる。


「そんなこと言われても、二人が言い合ってるのがいけないんでしょ?」

「うっ……」


 正論を言われ、朱波は黙る。


「朱波、押し負けてるぞ」

「うるさいわね!」


 廉の言葉に、朱波は叫ぶ。

 さっきから叫んでばかりだ。


「……!? 二人とも、後ろ!!」


 そんな二人を見ながら、詩音が叫ぶ。


「げっ!!」


 その辺の木を折り、武器にした魔物にぎょっ、とする。

 明らかにこちらに投げようとする体勢である。


「シルフ!」

『なーに?』


 朱波が名前を呼べば、精霊が顔を出す。


「あれ! あれ! 何て奴!?」

『あれって、どんなーー』


 後ろを指で示す朱波に、シルフは彼女の隣を移動しながら振り返る。

 そして、ぎょっとした。


『ちょっ、何であんなのに追われてんの!?』


 さすがに、予想外だったらしい。

 追いかけられていたことにも、魔物(むこう)が木を投げようとしていることにも。


「知らないわよ! 何かずっと追いかけてくるの!」


 朱波の台詞に、シルフは再度後ろを見て、朱波たちに言う。


『あれはハイグマっていうの。基本的に大人しくて、今みたいに暴れることはないし、出産時も巣で(めす)を守りながら大人しくしてるような生き物よ』

「話を聞く限りじゃ、今のこの状況は有り得ないわけだな」


 シルフの話では、今の凶暴さからは想像できない程、大人しいらしい。


『あの様子だと、魔物化したと考えていいと思う』

「どうするの、廉」


 シルフの言葉に、隣を走りながら、朱波は廉に尋ねる。


「討伐するにしても、ランク的にはアウトだ。だから、街まで逃げる」

「まあ、私たち新人だしね。でもーー」


 廉の意見に朱波が頷く。


 ーー体力が持てばいいけど。


 森から出て、ずっと走りっぱなしだ。


「今更だけど、街まで連れて行くことにならない?」


 親指で背後を示す朱波に、二人はあ、と顔をする。

 対処はしてくれそうだが、反省文を書かされそうだ。

 ふと、目の前に二つの影が見える。

 三人が顔を見合わせ、再度前を向けば、そこには誰もおらず、廉の隣を風が通り過ぎた(・・・・・・・)


「えーー」


 思わず止まり、振り返る。

 それに気づいた朱波と詩音も止まる。

 そして、三人を追いかけていた魔物(ハイグマ)は、持っていた木を落とし、ズシンと倒れた。


「…………」


 呆然とする三人に、ハイグマを倒した二つの影は、三人に気付くと、声を掛けた。


「大丈夫~?」


 倒れたハイグマを背に、二つの影のうちの一人ーー(声的に)女性は話しかけてくる。


「あ、はい。助けてくれて、ありがとう、ございました」

「いや、ケガなくて良かったよ」


 息切れしながらも礼を言う廉たちに、相手は照れくさそうに言う。


「けど、何でまた、あんなのに追われてたんだ?」

「それは……」


 これまた倒れた魔物を背に、二つの影のうちの一人ーー(声的に)男性は話しかけてくる。

 それについて、廉は言い淀むが、横から詩音が言う。


「依頼から帰る際に遭遇しただけです」

「し~お~ん~」


 恨めしそうに朱波が唸るが、


「事実を言ったまででしょ」

「そりゃそうだが……」


 バッサリと言われ、廉は納得できなさそうな顔で詩音を見る。


「それは運が悪かったね」


 助けてくれた二人も苦笑いして、そう返してきた。


「けどまあ、俺たちの依頼も終わったから良しとするか」

「依頼?」


 三人は尋ねる。


「凶暴化したハイグマ(こいつ)の討伐。お前らがここまで(おび)き出してくれたおかげで、俺たちは依頼を達成できたんだがな」

「いや、誘き出しては……」


 男性は親指で背後のハイグマを示す。

 その言い様に、三人は顔を引きつらせた。


「さてと」


 そう言いながら、ドロップアイテムなどを拾った男性は言う。


「俺たちは行くが、次は追われるなよ」


 男性の言葉に廉たちが苦笑いすれば、じゃーねー、と女性も去っていった。


「…………」


 風のような人たちだったな、と思う三人だが、ふと気付く。


「名前、聞いてない」



読了、ありがとうございます


誤字脱字報告、お願いします



さて、戦闘シーンですが、あまり戦闘してませんね



次回は学院側です



それでは、また次回



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