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ウェザリア王国物語~グラスノース編~  作者: 夕闇 夜桜
第四章:学院・二年生、笠鐘詩音編
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第七十七話:もうすぐ誕生日Ⅰ(と中間試験・前半戦)


ちょっと予定を変更して、本日投稿。


あと、一部視点というか、いくらか場所や時間が飛んでる部分があるので、一部脳内補完をしなくてはならない部分があるかもしれません。




 本に目を通していた結理(ゆうり)は、何かを思い立ったかのように、本を閉じる。

 時期的に中間試験やら何やらがあるため、うっかり忘れたり、そのまま過ごしてしまいそうになるのだが、五月二十五日ーーこの日は天海(あまみ)大翔(ひろと)の誕生日である。


   ☆★☆   


「ふふっ、うふふふふ……」


 朱波(あけは)が奇妙な笑い声を放ち始め、そのことに面々はぎょっとするが、いつも一緒の五人は何事なのかを察したかのように視線を送る。


「今日の試験、もう諦めたんでしょ」

「だって! 山が当たらなかった……っ!」


 いくら試験範囲を勉強したとはいえ、苦手なものは苦手であり、どうやら朱波は試験範囲内で山を張っていたらしいのだが、それが外れたらしい。


「何でこんなに難しくなってるのよー!」

「追い討ち掛けるようで悪いけど、まだ一時間目」


 叫ぶ朱波に、ノートをパラパラと(めく)っていた詩音(しおん)が冷静に突っ込む。

 そう、まだ試験は完全に終わったわけではないのだ。


「つか、試験範囲が分かってるんだから、山張るの()めろって、言われただろうが」

「うー……」


 (なつめ)の言葉に唸りながらも、次の試験教科の教科書やノート、プリントに目を通す朱波。


「……」

「……」

「ーーで、そこの二人は会話に一切加わることなく、必死に暗記中か」

「大翔、お前ちょい黙れ」


 朱波たちの後に(れん)と結理の方に目を向けた大翔だが、彼の言葉が聞こえたのだろう廉がそう返す。

 今何かを話せば、せっかく覚えたことが頭から抜け落ちそうになるので、繰り返し頭を叩き込む。


「……」

「まあ、結理には話し掛け(にく)いわな」


 反応の無かった結理の方に目を向けた大翔だが、凄いオーラーーまるで今話し掛けんなとばかりの空気を放ちながら、ノートなどとにらめっこ中だと思えば、ぶつぶつと何かを呟き始めた彼女に、そっと目を離し、自分も教科書とかに目を通す。


「……」

「……」

「……」

「……」

「……」

「……」


 誰もが話すことなく、試験範囲内の情報を覚えることに集中する。

 周囲から聞こえてくるのは、同級生たちの会話のみ。


「……この前、勉強してたよね?」


 目の前の光景に戸惑いを(あらわ)にするウィルとアクセルの二人に、もう慣れたと言わんばかりのシルフィアとレイヤは何と説明したものか、と困惑する。


「まあ、勉強はしていましたが、最後の追い込みみたいなものではないのでしょうか」

「つか、あのツートップが怖いから、早くこの時間が過ぎてほしい」


 レイヤの方は地味に切実だった。


   ☆★☆  


「数学なんて、滅びれば良いと思うんだ」

「試験が終わったかと思えば、いきなりそれか」


 試験終了早々に、次の試験教科である数学の教科書やノートとにらめっこを開始して愚痴り始めた結理に、お前はいきなり何を言い出すんだ、と廉が目を向ける。


「結理、理数系は苦手だもんね」

「つか、将来絶対に使わないでしょ! 方程式とか微分・積分なんて!!」

「おい、ちょっと待て。微分・積分とかお前、今どこを見てるんだ。試験範囲外だろ。そこは」


 何でそれを例に出したと問いたくなるが、そんなこと言ってる暇はないので、必要となるであろう公式などを覚えていく。


「あと、外国語も要らないわよね……国際化社会とか何とか言われてるけど、世界で活躍する人なんて、どれぐらい居るのかしらね……」

東雲(しののめ)。それは、その言語を国語にしてる奴らを困らせるだけだからな?」


 それと、この中で一番世界で関わりそうな奴がよく言う、とは口が避けても言えない。

 良いとこのお嬢様であるならば、海外の人との関わり合いは避けられないだろうに。





「死んだ」

「珍しくやらかしたか」

「名前を書き忘れるとか、書く場所間違えるとか、そんな凡ミスは無いし、何とか全部は埋めたけど、合ってる気がしない」


 本日の試験課程はすべて終わったのだが、力尽きたとでも言いたげに、結理が机にうつ伏せになる。

 その状態から察した廉が返すものの、うつ伏せ状態の彼女からはこの試験が上手くいかなかったことだけは分かる。


「明日挽回ーーしたいところだけど、一時間目は生物だし。そのあとは国語だから……覚えなきゃ!」


 どちらかと言えば暗記は得意な結理である。

 苦手分野さえ乗り越えてしまえば、後は覚えるだけだから楽なのである。


「それじゃあ……準備?」

「だねぇ」

「準備?」


 詩音の確認に結理が頷けば、廉は不思議そうな顔をする。

 実際、この後のことでーーとある部分に関してはーー話を通していないのは廉と大翔の二人だけなのだが、それも仕方がない。


 五月二十五日、天海大翔の誕生日。

 六月十一日、篠原(しのはら)廉の誕生日。


 二人の誕生日が近いことから、間をとって六月三日に誕生日パーティーでもしようということになったのだ。

 そして、二人にはそれぞれのプレゼントを用意させに行かせ、その隙に残ったメンバーは誕生日パーティーの計画を練っていたのである。

 特にシルフィアは去年祝えなかったこともあって、祝う気満々なので、もしかして彼女の行動でバレるんじゃないのかと冷や冷やしながらも、何とか隠し通せてはいるのか、彼らが何か言ってきたことはない。

 ぶっちゃけ、何故隠し通せているのかというと、結理が現在進行形で秘密を抱えている状態なので、それ関係だと思われているのだがーーまあ、それはさておき。


「……」


 誕生日パーティーについてはレイヤたちにも話は通してあるので問題ないが、プレゼントに関しては、あまり豪勢なものにしないようには言ってある。

 いくらプレゼントとはいえ、あまり豪華なものを与えられても、貴族や金持ちではないために萎縮するのが目に見えてるからだ。

 そして、一番の問題は自分たちからの、あの二人へのプレゼント。

 レイヤたちにああ言った手前、自分たちが選択ミスするわけにはいかない。

 もしそんなことをしてしまえば、「こっちに言っておきながら、自分たちはやるのか」と言われるか、それは一種のネタ行為として行われたということで笑いの種にもすることはできる。


(さて、どうしたものか)


 パーティーの準備のため、城へと一時的に戻った結理は、小さな箱を手にしながら、城内を歩きつつ考える。

 プレゼントの案が無いわけではないのだが、それを用意するには、あまりにも時間が無さすぎる。


「ま、作りすぎたし。当日プレゼント扱いでいっか」


 どういうわけか、朱波と詩音からは「あんたが行ってきなさい」と言われ、シルフィアからは「私は行くことができないので、お祝いの言葉を言っておいてもらえますか?」と言われたのだが、朱波たちが何故かニヤニヤしていた理由が結理には分からなかった。

 そして、そのまま特に気にすることもないまま、結理は城から学院の敷地内にある二つの寮の前まで来てから思う。


「どうやって向かおうかな」


 そもそも男子寮は女子の立ち入りを、女子寮は男子の立ち入りを禁止しているので、普通は正面から行ったところで入れないし、もし侵入して何かあっても自己責任だ。明るいうちはともかく、夜なんて論外である。


 ーーで、考えた結果はというと。

 本人が速攻で出てきそうな状況を作ることにした。

 チャイムの連打、という状況を。


「うっせぇ!!」

「天海大翔さーん、お届け物でーす」

「……」


 あまりにもチャイムを連打したからだろう、ドアが勢いよく開き、宅配便の人が言いそうな台詞を言った結理を、呆れた目で大翔は見る。


「や、ハッピーバースデー」

「……用件は」


 頭が痛くなりそうなのを耐えながら、大翔は尋ねる。

 日付が変わったことで誕生日当日を迎えたのも事実であれば、そのお祝いはありがたいのだが、目の前の友人が用事や用件もなく、この部屋まで来るわけがないのだと大翔は思ったのだ。


「差し入れと、プレゼント」

「は?」

「だって試験終わってないし、誕生日だし」

「……」


 まさか本当にそれだけのために来るとは思わなかった。


「それじゃ、見つかるとヤバいので、私は撤収させていただきます。他に言いたいことはその中に入ってるからー」


 任務完了とばかりに帰っていく結理を見送り、大翔は箱をキッチンスペースへと持っていく。

 ケーキでも入っていそうな小さな箱だったので、キッチンの方へ先に来たのだ。


「コーヒーゼリー、か」


 箱を開ければ、クリームが乗ったコーヒーゼリーが二つ。

 そしてーー


『HAPPY BIRTHDAY!!

 試験もあるけど、私たちから誕生日のお祝いも兼ねて、お祝いでーす。

 ケーキでも良かったと思うんだけど、メインのケーキはまた後のお楽しみということで。


 以下、みんなからのメッセージ。

 無理すんなよ!<(`^´)>

 おめでとー♪ヽ(´▽`)/

 おめでとう。試験、頑張って

 また来年も祝うぞ

 お誕生日、おめでとうございます!

 おめでとう!プレゼントには期待するなよ!

 おめでとう

 誕生日、おめでとう』


 そんなことが書かれたカードも付いていた。顔文字付きで。

 結理が言っていた『言いたいこと』というのは、これのことだったのだろう。


「……だから、嫌いになれないんだよなぁ」


 彼らと出会って、もう四年。

 女性陣(特に結理)に恋愛的感情を持たなかったと言えば嘘になるが、ただ、このカードに誰がどのメッセージを書いたのか、字で分かってしまうほどの時間を、自分たちは一緒に居たから。

 おまけに、シルフィアたちまでもがお祝いのメッセージを書いてくれていることから、彼女たちも廉たちを通じて、大翔の誕生日を知っているのだろう。


「っ、」


 これだけ『おめでとう』と言われて、嬉しくないはずがない。

 自分の誕生日は、女性陣たちみたいに何らかの行事(イベント)が誕生日というわけでもなければ、気付けばあっさりと過ぎてしまうような日だから。

 だからといって、特別な日という訳でもないけれど。


「みんな、ありがとう」


 そう言って、大翔は食器棚から取り出したスプーンでコーヒーゼリーを一(すく)いして、口に入れる。


「……苦い」


 コーヒーゼリーなのだから、苦い部分があって当たり前なのだが、それでも今の自分にはちょうど良いのだと思うことにした大翔であった。



【余談というか、おまけ・捕捉】

今回の試験日程。

『一日目』

 外国語(英語みたいなもの)

 社会選択(世界史・国史)

 数学


『二日目』

 理科選択(化学・物理・生物・地学)

 国語



ちなみに、この世界に化学・科学の考えはあります。

第二章で(ガス)コンロとか出てきたのが、その証拠でもあります。


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